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結婚式を破壊しよう。

 広大だと思ったホールに沢山の人が押し掛けた。老若男女問わず様々な人がいて、ただ一方で彼らには一般の人にはありえない気品というか優れた立ち振る舞いをしていた。

 こうしたパーティーの場に既に慣れきっていて、大勢が行きかう中をまるでダンスを踊るかのように間を縫って進んで移動する。


「料理の準備頑張ってくれたんだってな。助かった。今度はフロアを頼めるかな、適当に飲み物を注いだりその他の準備を臨機応変に対応してくれ。何か分からない事があったら遠慮なく俺に尋ねてくれ。それじゃ」


 予定調和のような好都合展開。

 ごく自然な形でパーティー内に潜入できた。


 思わぬ収穫にはぼくの頬が緩みかけた。


「いや、これからだよな」


 忘れてはいけない。

 これからぼくがするのは、パーティーを破壊する行為だ。今まで積み上げて来た信頼やその他を全て踏みにじってぼくは梓に接触する。


 どうなるかは、彼女の心に直接問うしかあるまい。


 誰かも知らない老人の挨拶に始まり、様々な人が舞台に上がって言葉を発していく。こうした場所になれていないぼくは終始そわそわしたけれど。それももう終わりだ。


「ではお待ちかね、本日のメインイベントを始めさせて頂きます。蓮見家と皇家の───」


 スポットライトがバージンロードを照らす。

 クラシカルな赤のカーペットの上。


 思わず歓声が漏れた。白い光に包まれた中、ゆっくりとその少女は姿を現した。純白のウェディングドレスを身に纏い、清楚な佇まいを崩すことなく一定のリズムで歩いていく。バージンロードはその人の人生を表すと言うが、彼女は今どんな気持ちでその道を歩いているのだろうか。


 夫、皇家の長男はバージンロードの終着点にて彼女を待つ。どこかのファンタジー小説で、高名な貴族の息子を想像するがままの姿をしていて、まるでこの瞬間を待ち侘びたとでもいうかのように、歩み寄る彼女に恍惚とした表情で出迎える。


 ぼくの動悸はそれにつれて激しくなる。

 今動かなければ、彼女の運命は決定づけられてしまう。


 無表情な、まるで作り物の人形の様な横顔を見て心が痛む。クラスのマドンナであり、周囲からありとあらゆる羨望を一身に受けていた少女。性格を作り、人当たりのいいキャラを演じ続けた。されどぼくには彼女の本当の一面を見せてくれた。


 さあ動け。

 彼女の美貌で釘付けにしている今。


 僅かの一瞬の為に、ぼくの全ての人生を投げ打って。


「梓……!」


 それは、ほんの偶然だった。

 ぼくが声をかけようとしたその瞬間の出来事。


 皆の注目は蓮実梓に向いていて、だから気付けなかった。周囲の視線やら今後の処遇やらで不安視していたぼくだからこそ偶然目に留まったというに等しい。


 彼女が歩く姿に全く別の視線を向ける男。

 その男は、バージンロードを隔てた奥。ちょうどぼくと向かい合う形で彼は立ち上がった。闇を落としたかのような漆黒のロングコートに、目元を隠すサングラス。顔も多くはマスクで隠れてしまっていて、姿を見る事は出来ない。


「あいつ……」


 妙だ。ぼくは事前にある程度参加者の情報は集めていた。勿論、全員把握するのは不可能だが、ネットにヒットする有名人物とその関係者の名前や顔くらいは抑えている。


 だがあの男は、そのどの人物ともまるで一致しない。

 誰だ、あいつ。


 男は止まらない。でも周囲は気付けない。

 あまりに蓮実梓の魅力は強力で、視線が常に奪われる。あの完成された美貌に抗えるのはきっと人の理を捨て去ったナニカなのだろう。


 ぼくも男に合わせて、近くへと移動する。満員電車の人混みを押しのけるように、強引に身体を割り込ませ、彼女の傍へと立ち寄った。


 ふっと、梓の視線がぼくに移る。

 まさかその場いるはずのない人物が姿を現したら当然驚きもするだろう。彼女の動揺が、それまで一定だった歩調を乱す。目をいっぱいに見開き。眦に涙を浮かべた。微かに息を呑む声が聞こえた。


「……うそっ」


 ぼくは、梓に一瞥もせず男の動向を監視し続けた。

 男がゆらりと身体を前に送る。


「おい」

「ちょ、何やってんだ」


 ようやく気が付いた両隣の参列者。

 様子のおかしい男に手を伸ばす。


 だが、ほんの一瞬間に合わなかった。


「ああぁああああ!!!?」


 何かが、キラッと空中で煌めく。

 金属か何かが部屋の照明を跳ね返した。


 ぐしゃっと肉を断つ男と共に、止めた参列者が倒れ込む。ナイフで斬られたと気が付いたのは、カーペットと同色の鮮血を床に滴らせた瞬間だった。


「ひぃっ!!?」


 まずい。


 ぼくは無我夢中で前に出た。

 梓の身体を抱き寄せ、無理矢理ぼくの背中側に移動する。床まで付きそうな勢いのウェディングドレスが足にひかかって梓はバランスを崩した。


 ぼくは片手を腰回りに回して、何とかバランスを取った。


「お、おい貴様……!! 何をしている!」


 彼女の来訪を待つ皇家の息子が吠えた。

 さすがの異変に彼も気が付き、襲撃者に掴みかかろうとする。だが、護衛らしき黒服の男達が彼を押さえつける。


「離せっ、奴は俺の女に……!」


 すっかり梓の夫気分だ。

 だが悪い、それは無理な相談だ。


「オレのアズサチャンをォォ!!」


 変質者の男はぼくへと標的を変えた。

 交戦に入った。梓を庇うぼくは後に引けない。


「くそ……ッ」


 ぼくはやむなく応戦する。

 男がナイフを振り上げた。梓は小さく悲鳴を上げた。


 ぼくはゆっくりと振り下ろされるナイフの軌道を見極める。単調な攻撃だ。凄く遅くて避けるのは簡単だ、ぼくは極限状態の中で冷静に思考を下す。


 男の腕付近に力を加えて無理矢理軌道をずらす。

 ヒュンと風を切る音と共に攻撃は空振りに終わる。


 剣道によって鍛え上げられた動体視力が役立った。


「梓、逃げよう!」

「え……うんっ」


 呆気に取られていた梓は、ぼくの声を聴いて我に返る。強引に邪魔なウェディングドレスの生地を手で切り裂いて機動力を確保した。


 ぼくは梓の手を引いて、バージンロードを逆行する。


 冬の夜道を必死に走った。広大な私有地を抜けて更に先へ。

 鳥籠に囚われていた彼女を連れだした。



「はあ、はあぁ……びっくりした」

「え、何……どういう事」

「さあ、梓の熱狂的な信者がいたんじゃないか。まさか結婚式を襲うなんて事を考える奴がぼくの他にもいるなんて思いもしなかったけどね」

「いや、そこじゃなくて……そこでもあるんだけど」


 梓は困惑を隠しきれずに声を荒げる。でも、根本的な否定をするつもりはないらしく、ぼくの服の裾をぎゅっと掴んだまま離す気配がない。

 ある程度走って距離を稼いだところで足を止めた。


 ぼくは改めて梓に向かい合う。


「えっと……久しぶり? 梓」

「どういう事か説明してくれるよね」

「なんで逃げてるかって事?」

「違うっ、なんで君がそんな恰好をして結婚式に乗り込んできたのかって事とか、そもそもどうしてこのパーティーの事を知ってたのかとか、いろいろっ」


 何から説明すればいいのやら。

 まあ、とにかく。


「その服だと目立ちすぎるな。こっち来て」


 ぼくは梓の冷え切った手を引いて移動した。待ち合わせに指定した場所では、黒のセダンが脇道に駐車してあるのが見えた。窓が下がると馴染むある声が聞こえてきた。


「おせぇぞ、何分待たせるんだ」

「まあ一応成功したって事でいいんじゃないですか?」


「え、藤堂君に明日原さん?」

「あいつらにも協力をお願いしたんだ。ここまで来るのにも結構準備してさ、とりあえず寒いと思うから車の中で着替えておいでよ。着替えもある程度用意してあるから」


 ここまでこれば、完璧に誘拐だが、仕方ない。

 梓が早着替えを終わらせると、ぼく達も乗込む。


「というか、これ誰の運転?」

「藤堂の親父さんだよ。今回の一番の功労者かも」

「コイツを鍛え上げるのには苦労したもんだ」

「あはは、その節はどうも」


 毎日毎日、料理の仕込みに没頭していた日々を思い出す。

 あれは特にひどかった、足腰はバキバキになるし、夢まで料理をし始めるし。


「ここまでの経緯については、走りながら聞かせるよ」






ラスト!

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