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期末試験で遂に……。

今日はあと1話投稿します。

 

「先輩これ」


 二限前の休み時間、ぼくは明日原に謎の袋を貰った。普段明日原が使っているであろう可愛らしい柄のそれの中身には、ずっしりとした重みがあった。


「これは?」

「お弁当です。前に言ってたじゃないですか」


 明日原がお弁当を作るって話か。てっきりあの場限りの冗談だと思っていたけどまさか本気だったとは。


「貰っていいの?」

「はい。食べたら箱はそのまま返してください。私が帰って洗っておきますので」

「いや、悪いよ。さすがに洗って返すって」

「どうせ自分のもあるので。それじゃ、先輩」


 風のように一瞬で立ち去ってしまう明日原。

 作って貰った手前、受け取れないなんて言える訳ないしぼくはやむ無く持って帰ることにする。


「でも変だな。お弁当ならお昼休みに渡せばいいのに、なんでこんな早い時間にくれたんだろう」


 明日原の考える事は謎だ。

 もしかしたらこれも一種の策略かもしれない。


「お金を後から請求されないようにしないと」


 □


 昼休み、ぼくは早速お弁当を開ける。


「お、その弁当。まさか蓮見さんの愛妻弁当か!?」


 藤堂が早くも絡んで来た。

 いつも食堂に行くはずのぼくが教室で食事を取っている事を珍しがっているのかもしれない。


 お弁当からは、美味しそうな匂いが漂ってきて涎が口の中で溢れる。お腹を空かせたぼくは最早自然の摂理に従うかのように箸を持って艶々の白米に手を付けた。


「待って」

「え」


 いつの間にか梓がぼくの席に来ていた。

 箸を置くように目線で指示される。せめて一口……!


「いい加減にして」

「う……っ」


 梓のジト目には想像以上の圧があった。

 ぼくはやむ無く箸を手放した。


「これは誰の?」

「えっと。明日原がさっき」

「一限の休み時間ね。なるほど、こうなる事を予想してわざわざ早めに渡したって訳か、油断した……っ」

「?」


 早く食べないとお弁当が冷めちゃうんですが。

 ぼくは許しを貰う為に目線を送る。


「本当はこんな物、窓から放り投げたい所だけど……食べ物には何の罪も無いからね。それはやめとく」


 良かった。何とか無事だ。


「じゃあ早速……」

「まだダメ。それじゃ私が損する」

「え、ならどうしろと……?」

「私が食べさせてあげる。それなら許す」


 ぼくの箸を取り上げて梓が身を屈めた。

 ちょうどぼくと向き合う位の高さ、お弁当の中身は色のバランスが完璧で食欲が唆る。


 ウインナーを持ち上げて口元へと運ぶ。


「ほら、口開けて。あーん」

「あ、あーん」


 じゅわっ、と旨みが口内へと広がる。

 朝早く起きて作ってくれたと思うと涙ぐむが、それをまた別の女の子に食べさせてもらうぼく。


 なんだろう、絶対に言い逃れられない程にクズじゃん。


「どう?」

「うん、おいひ」

「良かった……あぁ、これを私が作ってれば。明日は私が作るから、絶対にあの子からは受け取らないように」

「分かった。『LANE』で伝えとく」

「可能なら『LANE』もして欲しくない」


 ならどうしろと。


 口をもごもごと動かしながらも順調に消化していく。

 気がつくとすっかりお弁当が空になっていた。


「はいおしまい。わわ、そろそろ私も食べないと」

「そっか……ごめん。梓は何も食べてなかったんだよね。今から食堂じゃ間に合わないか」

「ううん、別にいい。まさかあの子がここまでやってくるとは思わなかったから……」

「昨日食堂で実は何か話したんじゃないの?」

「……別に。伊織は知らなくていい事だから」


 気になる。実はどっちの料理が上手いかとか、意味わからない所で対抗心燃やして、明日原がぼくを味方につけようとしたとか。確かに美味しかったけど。


「売店でなんか食べ物買ってくる」

「ぼくも行くよ」

「そう……? なら、行こっか」


 適当にパンとか軽めのやつを買う。埋め合わせって事で代金はぼくが出した。昼休みもあと少し、ぼく達は恒例の流れで屋上へと登った。落ち着いて話せるのはここくらいしかない。


「良かったのに……」

「いいよ、これくらい。それより梓、さっきのお返しにぼくが食べさせてあげるよ」


 フランスパンみたいな、細長いパンの包装を破る。

 梓は周囲を気にして恥ずかしげに頬を染めていた。ぼくはもっと困らせたくてパンを口の方へと突き出した。


「ほら、食べなよ」

「え。う、うん……じゃあ」


 はむ、と最初は小さく。味を確かめて今度はしっかりと口に運ぶ。箸を使っていない分こっちは気が楽だ。


 というかそれより。


「はむ……んっ、んん、ごくんっ」

「なんで、そんなえろいの」

「……っ!? 馬鹿じゃないの」


 だって今のはさすがに狙ってるとしか。


 口をゴシゴシと拭いて梓はぼくから距離を取った。


「変態」

「梓が言うのそれ。この前罰ゲームとかいって『私とシてよ』とか言ってきたのに?」

「あ、あれは……もう最悪。調子に乗りすぎ」


 ふふん。言い負かしてしまった。罪な男だなぼくは。


「───だから、その調子に乗った口を黙らせてあげる」


 梓は食べ終わったと同時にぼくの口に唇を当てた。今日のキスは食事の後ともあって、甘い味がした。

 お互いの唾液が蕩けあって、息が漏れる。


「ほら。やっぱりえろいじゃん」

「伊織の前だけ、ね」


 おかわりとでも言うように再び唇を重ねた。

 最近の梓は凄く積極的だ。


 もう、ぼくが我慢出来なくなっている。

 蓮見梓の魅力を全面に浴びて、ぼくは既に魅了された。


 その時点でぼくは、梓の『特別』では無いのだ。


「あ、梓……ぼくは梓の事が────」



 あ、れ……?


 ぼくはそれを口にしようとして辞めた。

 そうだ、ぼく達は恋人に見えて恋人じゃない。


 だって彼女は───蓮見梓は、



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 □



 試験一日前。勉強ももうすぐ佳境に入っていた。

 彼女との約束を果たす為、ぼくはさらに勉強に熱を入れる。


 成績で良い結果を収める方法は簡単だ。満遍なく好成績を取る事だ。特に成績に差が生まれやすい数学は勿論の事、意地悪な空欄の多い副教科も気が抜けない。


 記憶効率を高める為に、夜に数学、朝に暗記科目の勉強サイクルを確立した。ここまで努力したのは初めてだ。だが、今のぼくにはこれだけの熱量を生み出す原動力がある。


 蓮見梓に認めてもらう為に。

 彼女に「好き」だと伝えてもらう為に。


 だからぼくは、才能の差だとか、天才じゃないとかそんな格好の悪い言い訳は抜きにして本気で勉強をする。

 教科書の隅から隅を、先生が授業中に発言した些細な雑談に至るまで、その全てを徹底的に対策し尽くし、試験に挑む。


 もう、やるべき事はやった。

 あとはぶつかるだけだ。


 試験日。

 ぼくは猛然と筆を走らせる。


 ぼくは天才じゃない、簡単に理解出来る才能なんて勿論持ち合わせていない。でも、ぼくには努力の才能がある。ただひたすら、無駄だ限界だと思える瞬間まで一つを積み上げる才能が。


 ぼくはいつしか、2位を目指す事をやめていた。

 目指すならテッペン以外ありえない。


 そうだ、ぼくは学年1位になってやる。

 蓮見梓が見ていた景色をぼくも見るんだ。



 そうして、期末試験が終わりを迎えた。

 季節がめぐり冬がやってくる。そういえば、そろそろ世間はクリスマスがなんだと騒ぎ出している頃だろうか。


 試験は順調に採点され、ついに成績発表がやってくる。

 貼り出される紙を下から順に見ていく。


 ぼくの名前はまだ無い。

 上を向くにつれ、鼓動が高まるのを感じた。


 ない、ない……ない。


 5位以内に入る。


 ない、ない。

 ぼくは3位じゃ無かった。


 手応えは十分。さあ……!



 1位 榊伊織

 2位 蓮見梓


「……え」



 勝った?

 嘘だろ。ぼくがあの蓮見梓に?



 嘘みたいだ。ぼくが梓を差し切って1位だって?


「やった……やった!」


「やったじゃないか、万年三位。いや、学年一位様か」

「藤堂……!」

「良かったな。今回はまじ凄いぞてめぇ」


 わしゃわしゃとぼくの頭を掻き回す。心の奥が震えるくらいに喜びが溢れ出て思わずガッツポーズを取る。



「梓は? 会って自慢しようかなぁ」

「何言ってんだてめぇ……蓮見さんは暫く学校来ないぞ?」



 え?





完結まで突っ走るぞ〜!

ブクマ評価よろしくお願いします〜

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