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第49話 命がけのプロポーズと、誓いのキス

「――では、誓いの証として、指輪の交換を」


神父の言葉に、二人は、それぞれの指輪を、静かに取り出した。


竜の鱗と聖銀を織り交ぜて作られた、特別な意匠の指輪である。これもまた、両世界の職人たちが、総力を挙げて仕上げた逸品だった。


ディアボロスは、震える手でセシリアの指に、そっと指輪をはめた。


「――綺麗にはまったな」


彼は、安堵の息を漏らしながら、そう呟いた。


続いて、セシリアも、彼の指に、同じく丁寧に指輪をはめていく。


「はい、こちらも、ぴったりです」


二人は、互いの指に輝く指輪を見つめながら、静かに微笑み合った。


 



 


「では――」


神父が、これまでにない緊張した面持ちで、続けた。


「新郎より、新婦への、最後の言葉を」


会場全体の視線が、再びディアボロスへと集まった。


彼は、深く息を吸い込むと、セシリアの手を、そっと両手で包み込んだ。


「セシル」


「はい」


「これまで、貴殿との日々は、常に予測不能で、そして――正直に言えば、俺の胃には、これ以上ないほどの負担をかけ続けてきた」


会場から、控えめな笑い声が漏れた。セシリアも、少し恥ずかしそうに笑った。


「だが」


ディアボロスは、真っ直ぐに、彼女の目を見つめながら、続けた。


「その一つ一つの騒動が、俺にとって、これまでの人生で最も鮮やかで、そして、かけがえのない記憶となった」


「ディアボロス様……」


「これから先も、貴殿と共にいれば、俺の胃は、きっと休まる暇がないだろう」


彼は、少し照れくさそうに、しかし確かな覚悟を込めて、続けた。


「だが、それでも構わない。むしろ、望むところだ」


彼は、跪くように、片膝をついた。


「――俺の胃を、これから先も、一生キリキリさせてくれ。それが、貴殿と共に生きるということならば、俺は、喜んでその運命を受け入れよう」


 



 


その、あまりにも彼らしい、命がけのプロポーズの言葉に、会場全体が、驚きと、そして温かい笑いに包まれた。


「――ぷっ、なんという求婚の言葉だ」


「いや、しかし、あの聖女様相手には、これ以上ないほど、的確な誓いなのかもしれぬ」


会場のあちこちから、微笑ましい笑い声が上がった。


セシリアは、涙を溢れさせながら、大きく頷いた。


「はい――喜んで、寿退社いたします!」


彼女の、これまでの人生の目標そのものを体現するような、その返事に、会場は、これまで以上の温かな拍手と歓声に包まれた。


「では――誓いのキスを」


神父の言葉に、ディアボロスは、静かに立ち上がると、セシリアの元へと歩み寄った。


 



 


二人は、互いに見つめ合いながら、ゆっくりと顔を近づけていった。


会場全体が、固唾を飲んで、その瞬間を見守っている。


(――これで、ようやく、この長い物語に、一つの区切りがつくのだな)


ディアボロスは、そんなことを考えながら、静かに目を閉じた。


セシリアもまた、これまでの日々を振り返るように、幸福感に満ちた表情で、目を閉じていく。


そして、二人の唇が、静かに重なった。


会場全体が、これ以上ないほどの、盛大な拍手と歓声に包まれた。


「万歳! 万歳!」


「聖女様、魔王様、おめでとうございます!」


四天王たちも、涙を流しながら、力の限り拍手を送っていた。


だが――。


この幸福な瞬間、セシリアの胸の内に溢れる、これまでにないほどの歓喜の感情が、彼女自身の制御の範疇を、静かに、しかし確実に超え始めていることに、この場の誰一人として、気づいてはいなかったのである。

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