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第48話 世界平和の鐘が鳴る日

結婚式当日、聖ルスニア王国の大聖堂には、これまでにない規模の人々が詰めかけていた。


会場には、人間界からは国王アルベルトを始めとする王侯貴族、教会の重鎮たち、そして市井の人々までもが列席していた。魔界側からも、四天王――ガルドス、リリアーナ、モルディア、ファウストと宰相バルトロ、さらには、これまで人間界に足を踏み入れたことのなかった、数多の魔族たちの姿もあった。


「まさか、この日が来ようとはな……」


国王アルベルトが、感慨深げに呟いた。


「聖女様と魔王様の婚姻によって、真の平和が訪れるとは……」


枢機卿イグナーツも、深く頷いた。


会場全体を包む空気は、これまでの長い争いの歴史を思えば、奇跡的なほどに穏やかなものだった。人間と魔族が、こうして共に一つの祝いの場に集うことなど、これまでの歴史上、一度たりとも起きたことのない出来事だったのである。


 



 


やがて、荘厳なパイプオルガンの音色が、会場に響き渡った。


大聖堂の入り口が、ゆっくりと開かれる。


そこに現れたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだセシリアだった。


彼女のドレスは、両世界の職人たちが総力を挙げて開発した、特注の防魔仕様である。竜の鱗を織り込んだ生地に、聖布の輝きが重なり合い、これまでにない神々しい輝きを放っていた。


「なんと、お美しい……」


会場中から、感嘆のため息が漏れた。


セシリアは、緊張した面持ちで、しかし確かな幸福感を湛えた表情で、バージンロードを、一歩、また一歩と、ゆっくりと歩み始めた。


彼女の父親代わりとして付き添うのは、これまで彼女を育て導いてきた、教会の最高枢機卿だった。


「聖女様、ご結婚、おめでとうございます」


枢機卿が、静かに、しかし万感の思いを込めて、そう告げた。


「ありがとうございます」


セシリアは、涙を堪えながら、微笑んだ。


 



 


祭壇の前では、礼服に身を包んだディアボロスが、緊張の面持ちで、彼女の到着を待っていた。


漆黒の髪と紅蓮の瞳、そして端正な顔立ちを持つ彼の礼服姿は、これまでの威圧感に満ちた魔王としての姿とはまた違う、洗練された気品を纏っていた。


(――ついに、この日が来たか)


彼は、これまでの数々の騒動の日々を思い返しながら、静かに、しかし確かな決意を胸に、彼女の歩みを見つめていた。


セシリアが、ゆっくりと、彼の隣へと辿り着いた。


「――綺麗だ、セシル」


ディアボロスは、思わず、そう漏らした。


「あ、ありがとうございます……」


セシリアは、頬を赤らめながら、はにかんだ。


 



 


「では、これより、婚姻の儀を執り行います」


神父が、厳かな声で告げた。


「新郎、ディアボロス。あなたは、この聖女セシリアを、健やかなる時も、病める時も、これを愛し、敬い、慈しむことを誓いますか」


「――誓う」


ディアボロスは、真っ直ぐに、力強く答えた。


「新婦、セシリア。あなたは、この魔王ディアボロスを、健やかなる時も、病める時も、これを愛し、敬い、慈しむことを誓いますか」


「――はい、誓います」


セシリアも、涙を浮かべながら、確かな声で答えた。


会場全体が、二人の誓いの言葉に、静かな感動に包まれていた。


かつて、世界最強の聖女と、絶対君主たる魔王として、対立の象徴とすら見なされていた二人が、今、こうして一つの誓いの下に結ばれようとしている。その光景は、これまでの長い争いの歴史に、確かな終止符を打つ、まさに歴史的な瞬間だった。


「――では、誓いの証として」


神父が、静かに続けた。


その言葉に、会場中の視線が、二人へと集中していく。


これから訪れるであろう、この物語の締めくくりとなる瞬間を前に、会場全体が、固唾を飲んで見守っていたのだった。

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