第42話 魔王、正体を明かす時
翌日、ディアボロスは、セシリアを魔王城の一室に招き入れていた。
「ディオ様、今日は改まって、どのようなご用件でしょうか」
セシリアが、少し緊張した様子で尋ねた。
ディアボロスは、深く息を吸い込むと、これまでの覚悟を胸に、静かに口を開いた。
「セシル。貴殿に、伝えねばならぬことがある」
「な、なんでしょう」
「これまで、貴殿には、変装した姿でしか会ってこなかった。だが――」
彼は、手を胸元へとやると、これまで纏っていた黒髪の鬘と、変装用の魔法を、一気に解除した。
まばゆい光が、彼の全身を包み込む。
その光が収まった後、そこに現れたのは、漆黒の髪と紅蓮の瞳を持つ、絶世の美丈夫の姿だった。これまでの地味な黒髪の青年とは、まるで別人のような、圧倒的な気品と威圧感を纏っている。
「――俺の、本当の姿だ」
ディアボロスは、静かに、しかし確かな声で告げた。
「セシリア殿。俺は――魔界を統べる魔王、ディアボロスだ」
*
その告白に、セシリアは、大きく目を見開いた。
「デ、ディオ様が……魔王様、だったのですか……!?」
彼女は、しばし言葉を失ったまま、目の前に立つディアボロスの姿を、まじまじと見つめていた。
「驚かせてしまい、すまない」
ディアボロスは、少し申し訳なさそうに続けた。
「貴殿が最初にこの城に攻め込んできた日、俺は生き延びるために、貴殿に『婚活の練習相手』を提案した。それは、正体を隠したままの、いわば方便だったのだ」
「そう、だったのですね……」
セシリアは、静かにそう呟くと、これまでの日々を思い返すように、視線を落とした。
石畳を粉砕した待ち合わせの日。光る弁当を、涙目になりながらも完食してくれた彼。試着室から出てきた時の、あの整った姿。そして、中庭で交わした、真剣な告白。
(あの時の彼は、いつも、私を気遣ってくれていました。それが――魔王様であったとしても、その優しさは、変わらないものだったのですね)
セシリアは、ゆっくりと顔を上げると、これまでにない、穏やかな微笑みを浮かべた。
*
「あの……セシリア殿」
ディアボロスは、彼女の反応を窺うように、慎重に尋ねた。
「その、正体を偽っていたことに対して、怒りは感じていないのか」
「怒り、ですか?」
セシリアは、少し首をかしげた。
「いいえ、少しも」
「なぜ、そう言い切れるのだ」
「だって」
セシリアは、真っ直ぐに彼の目を見つめながら、答えた。
「私が好きになったのは、ディオ様――いいえ、ディアボロス様の、優しさや、不器用さや、私のことを真剣に考えてくださる、そのお人柄そのものですから。それが、魔王様であろうと、一介の青年であろうと、私の気持ちが変わることは、ありません」
その言葉に、ディアボロスは、思わず息を呑んだ。
(この女は……本当に、真っ直ぐだな)
彼の胸の内に、これまでにない、深い安堵と、そして愛おしさが、じんわりと広がっていった。
「セシリア殿……。ありがとう」
その言葉に、ディアボロスの胸の内に、これまでにない、深い安堵と、そして愛おしさが、じんわりと広がっていった。
*
「――さて」
ディアボロスは、改めて表情を引き締めると、続けた。
「俺は、貴殿に伝えねばならぬことが、もう一つある」
「まだ、何か?」
「ああ。俺は、人間界と魔界の和平を、正式に宣言しようと思っている。そして――」
彼は、一拍置いてから、真剣な眼差しで告げた。
「貴殿を、正式に、俺の妻として迎えたい」
その言葉に、セシリアは、大きく目を見開いた。
彼女の頬が、みるみる赤く染まっていく。
「ディアボロス様……」
「これは、正式な求婚だ。改めて、返事を聞かせてほしい」
セシリアは、しばし言葉を失ったまま、彼を見つめていた。
やがて、彼女の瞳から、大粒の涙が、静かに零れ落ちていった。
ここまで読んでいただいた方、誠にありがとうございます。
実は、当初より短めの話を予定しており、50話で完結の予定です。
残り8話。楽しんでいただけると幸いです。




