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第40話 両片想い(物理的破壊力MAX)の成立

「――お、お待ちください、我が君ぁあああああ!!」


崩壊した城の敷地に響き渡ったのは、竜魔人ガルドスの、悲痛な絶叫だった。


四天王たちが、瓦礫を踏み分けながら駆けつけると、そこには、ボロボロになったディアボロスと、彼を優しく抱きしめるセシリアの姿があった。


「な――、なんと……!」


宰相バルトロが、その光景を目にした瞬間、思わず絶句した。


「魔王様が……あの悪魔の聖女に、抱きすくめられておられる……!」


「まさか、最後の瞬間まで、我らを守るために、御自ら人身御供と……!」


四天王たちの間に、これまでとはまったく異なる、深刻な誤解が、瞬く間に広がっていった。


「な、なんということだ! 我が君は、聖女と、その、心中されるおつもりなのか!」


ガルドスが、涙ながらに叫んだ。


「魔王様ぁあああああ! どうか、お気を確かに!」


 



 


その絶叫を聞きつけたディアボロスは、セシリアの腕の中から、辛うじて顔を上げた。


「お前たち……。何を、勘違いしている」


彼は、疲労困憊の表情ながらも、努めて冷静な声で告げようとした。


「魔王様! ご無理はなさらないでください! 我らが、必ずやこの窮地からお救いいたします!」


だが、四天王たちの耳には、もはやディアボロスの言葉すら届いていない様子だった。


「これまで、我が君は、身を挺して魔界を守るため、この悪魔の聖女に接近されてきた! そして今、その最後の瞬間を、我らに見せてくださっているのだ!」


モルディアが、陰気な声で、しかし感極まった様子で叫んだ。


「まさに、忠義の鑑! 我が君の犠牲を、我々は決して忘れぬ!」


「お、お待ちください、皆様!」


セシリアが、慌てて口を挟んだ。


「これは、心中などではございません! ディオ様と私は、その、想いが通じ合ったのです!」


「な、なんと……!」


四天王たちが、揃って呆然とした表情を浮かべた。


「つまり、我が君は……最後の最後で、この悪魔の聖女の心を、見事に懐柔されたということか……!」


リリアーナが、扇の陰で、感激したような声を漏らした。


「まさに、我が君の真骨頂! 単身、魔界の存亡をかけた交渉に赴かれ、ついにその成果を、勝ち取られたのですな!」


四天王たちの間で、事実とはさらにかけ離れた、壮大な誤解が、次々と積み重ねられていった。


 



 


「い、いや、そういうわけでは――」


ディアボロスは、必死に訂正しようとしたが、その声は、四天王たちの感激の声にかき消されてしまった。


「魔王様! 我らは、あなた様の御決断を、心より尊敬いたします!」


「これで、魔界は救われたのですな!」


「まさに、我が君こそ、真の英雄であらせられる!」


四天王たちは、次々と感涙にむせびながら、ディアボロスとセシリアの周りに集まってきた。


その様子を見ながら、ディアボロスは、深いため息をついた。


(この誤解を、今、正すべきか……。いや、今は、体力が限界だ。この話は、後で、じっくりと説明するとしよう)


彼は、疲労困憊のあまり、その場に膝をついた。


「ディオ様!」


セシリアが、慌てて彼を支えようとした。


「せ、聖女様! 我が君に、これ以上触れられるのは――」


ガルドスが、慌てて制止しようとしたが、時すでに遅く、セシリアは、ディアボロスの体を支えるように、そっと腕を回していた。


幸いにも、彼女はその瞬間、極限まで力の加減に注意を払っていたため、これ以上の被害が発生することはなかった。


 



 


崩壊した魔王城の敷地に、夕暮れの光が差し込み始めていた。


四天王たちは、依然として「魔王様が身を挺して魔界を救った」という、事実とは似ても似つかない物語を、感涙と共に語り合っている。


その傍らで、ディアボロスとセシリアは、互いに寄り添うようにして、静かに座り込んでいた。


「――こんなにも、盛大な誤解をされているとは」


ディアボロスは、苦笑まじりにそう呟いた。


「ふふ。でも、皆さん、とても喜んでいらっしゃるようですし……。まあ、今はこのままでも、よろしいのではないでしょうか」


セシリアも、くすりと笑いながら、そう答えた。


「それにしても」


ディアボロスは、崩壊した城の敷地を見渡しながら、改めて息を吐いた。


「城の三分の二が、また消し飛んだか。これで、何度目だろうな」


「す、すみません……」


「いや、責めているわけではない。ただ――」


彼は、隣に座るセシリアの顔を見つめながら、静かに続けた。


「これから先も、こうした騒動が続くのだろうと思うと、正直、気が遠くなる思いだ」


「私も、その、頑張って力加減を練習いたします」


「ああ、頼む。でなければ、俺の胃と、この城が、いくつあっても足りぬからな」


そう言いながらも、ディアボロスの表情には、これまでにない、穏やかな安らぎが浮かんでいた。


崩壊した城の傍らで、想いを通わせた二人は、これから訪れるであろう、さらなる波乱の日々を、それでも共に歩んでいくことを、静かに誓い合っていたのだった。


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