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幼馴染領主を、処刑される運命から救いたくて  作者: myano
第一章 滅亡の運命を回避したくて

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第39話 天命

 ゴルダス軍の兵士たちが突入し、燃え盛るスモーフ家の陣。

 その中央でゴルダス家の当主、ラース・ゴルダスが立ち尽くしていた。

 周囲では配下の将たちの怒号が飛び交い、兵士が慌てふためいている。


「火を着けたのは誰だ!」

「わ、分かりません! 火が勝手に!」

「そんなわけが――」


「落ち着け。今はくだらない言い争いをしている場合ではない。……燃えていない門はあるか?」


 ラースが口を開いた途端、将兵たちが冷静さを取り戻した。


「南門は火の手が上がっておりません。ですが、味方の兵士たちが殺到し、身動きが取れない状態です」

「後続の兵士たちは、陣が燃えていることに気づいていないのかもしれませんね……」

「前が見えていないのか、篝火(かがりび)の炎だと思っているのか……」


 彼らが話している間にも、火は勢いを増していく。そして、どんどん中央に近づいていた。


「思ったより火の回りが早い。恐らく敵の火計だな」


 ラースは火計であることを見抜くと、すぐにぐるりと見回す。

 そして、東側に火の勢いが弱いエリアがあるのを発見した。


「ラース様! 東に火の弱い部分がありますよ!」

「……罠だな。死にたくないものは俺について来い」


 ラースはそう言い残し、西に向かって走り出す。


「えっ? ラース様!?」


 配下の将兵は一瞬虚を突かれたが、すぐにラースの後を追いかけた。



 西門は、北門に次いで激しく燃えていた。


「あそこだ」


 ラースが指差した先では、激しい炎により柵が崩れ落ちていた。

 そこからならば、炎さえ無ければ外に出られそうだ。


「ですが、炎が激しすぎます。どうなさるおつもりですか?」

「走り抜ける」

「い、いくらなんでも危険です」

「こんなところで死ぬようなら、俺もその程度の人間だったということだ。神が俺に『まだ生きて何かを成せ』と言うならば、炎の中だろうが矢の中だろうが生き延びられるはずだ」

「で、ですが――」


 家臣が反論しようとした瞬間、彼の鼻先に水滴が落ちる。

 天の気まぐれにより降り始めた雨は、あっという間に激しさを増す。


「ククク。やはりまだ死ぬなということだな。全軍、退却せよ!」


 雨に打たれて頭が冷えたゴルダス軍の兵士たちは、すぐに陣形を整えて後退していく。


「スモーフ軍の夜襲を見破ったときは勝ちを確信したのだがな。……サディス・ハークか。その名前、覚えたぞ」


 自陣に戻る途上で、ラースは独り言ちた。



 ◇



「天は俺たちに味方しなかったか……」


 西門を出てすぐの場所で、サディスは呆然とつぶやく。


 サディスがラースを討ち取るために立てた作戦は『奇襲』を装った『火計』だった。

 夜襲が成功すればそれでよし。失敗すれば追撃してきたゴルダス軍の兵士を陣に引き込んでから火を放つ。

 あえて西門付近に火の勢いが弱い場所を作り、そこから出てきた敵に矢を射かける手筈(てはず)になっていた。

 だが、突如降り始めた雨のせいで作戦は失敗に終わった。


 がっくりと肩を落とすサディスの背中をネストが優しく叩く。


「残念だったな……。あと一歩のところだったんだが」

「天候はオレたちには左右できませんからね。火を放った後で良かったと思うしかありません」


 サディスはそう言って、無理やり笑みを作る。


「でも、良い作戦だったと思うぞ。『人は、相手の作戦を見破ったと思った瞬間に最も油断する』だったか。これもお前が尊敬する大軍師様の言葉か?」

「オレが勝手に言っているだけの言葉ですよ。ですが、ラース殿のように豪胆な性格で今まで勝ち続けてきた人物には当てはまるんじゃないかと思いまして」

「違いねえ。俺も気をつけないと、だな」


 ネストがカラカラと笑う。

 いつしか雨は止んでいた。



 夜が明け、ゴルダス軍の被害状況が明らかになる。

 途中で雨が降ってきたため、ラースを始めとする主要な将は全員無事だ。

 また、兵の被害もそれほど大きくない。


「――以上です」

「ありがとう。ゆっくり休んでくれ」

「はっ! 失礼します!」


 サディス、ネスト、ピューラの3人は硬い表情で斥候の背中を見送る。

 そして、沈黙が場を支配した。


 3人が気まずさを感じ始めたころ、ネストが口を開く。


「どうする? この地で決戦に持ち込むか、それとも領内の守りやすい場所まで後退するか?」

「…………ダメです。南部の街を見捨てることになります」


 スモーフ領南部の街から国境までの間は起伏の少ない土地なので、守備には不向きだ。

 守りやすい場所となると、街の北まで後退しなければならない。

 そうなれば街が戦火に晒され、多くの領民たちが犠牲になってしまう。


「確かに、領民を見捨てたらレイナ様に顔向けできなくなるな」


 ネストがニヤリと笑い、ピューラも同意を示す。

 その反応を見たサディスの表情も和らいだことで、3人の間に温度が戻る。


「ですが、このまま真正面から戦っても勝ち目はありません。部隊を三つに分け、一つはこの地を死守、残りの二つでゴルダス軍の側面と背後を突きましょう」

「決行はいつだ?」

「ちょうど今は月の無い時期ですから、今夜にでも別動隊を出しましょう。一晩では敵の背後まで行けないと思うので、本隊には数日間凌いでもらわなければなりませんが……」


 数で劣るスモーフ家が部隊を分けるのはリスクが大きい。少ない兵力をさらに分散させることになるので、最悪の場合、各個撃破される恐れがある。

 もちろんサディスたちも理解しているが、勝つためには賭けに出ざるを得なかった。


 ネストとピューラがサディスの案に賛同し、それぞれの配置を考え始める。


「オレが本陣に残りますので、ネスト殿は背後、ピューラ殿は側面より攻めかかってください」

「大丈夫か? 俺が本陣でも良いんだぞ?」

「発案者が安全な所で指揮を執る訳にはいきません。それに、ネスト殿も敵の退路に立つことになるので、かなり危険な場所ですよ」

「それもそうか。ピューラも異論は無さそうだし……」


 ネストが軍議を締めようとした瞬間――


「ちょっと待ったー!」


 クラーナが飛び込んできた。

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