第3話 占い師
翌日。サディスは自室で転がっていた。
彼は「はぁ……」と何度目か分からないため息をつく。
「まさかレイナ様に帰参を拒否されるとは……」
サディスは父親の許可をもらった時点でレイナのもとに戻れると確信していた。
それだけに、レイナに断られたことで相当なショックを受けていた。
「サディス様、お客様がお見えでございます」
お昼に差し掛かった頃、ハーク家の使用人がサディスに来客を伝えてきた。
(客? オレがここにいることを知っている人間はほとんどいないはずだが……)
サディスが真っ先に思い浮かべた人物はレイナだった。
家族とレイナ以外はサディスが領地に居ることを知らないはずなので、彼の予想は自然なものだ。
サディスは勢いよく起き上がると、軽やかな足取りで応接室に向かった。
「……で、何でアンタがここに居るんだ?」
浮かれていた気分はどこへやら。サディスは半眼になって目の前の人物、先日出会った占い師を見つめる。
占い師は、今日もサディスから顔を隠すようにローブのフードを深く被っていた。
「おっと、これは何かありましたね。占うまでもなく分かります」
占い師は引きつった笑みを浮かべる。どうやら訪問のタイミングが悪かったことを悟ったらしい。
「あれ? そういえばどうしてオレの家を知ってるんだ? まさかスト――」
「ち、違います! うちはサディス様がレイナ様のもとに戻ったら、あなた様にお仕えしようと思っていただけで……」
(何でこの占い師はオレたちの名前を知っているんだろう。くっ! 聞くのが怖い!)
少し迷ったが、サディスはそのことに言及しないと決めた。
「それで、今日はどういった要件なんだ?」
「本当はサディス様に仕官しようと思って来たのですが、どうやらそれどころではないご様子。ここはひとつ、手を組みませんか?」
「つまり、オレがレイナ様のところに戻れるように手助けしてくれるということか?」
「はい。サディス様はレイナ様の隣に戻れる。うちは念願叶ってサディス様に仕えることが出来る。win-winだと思いませんか?」
(こいつが部下になるのは得なんだろうか? まあ、その見極めも兼ねて手を組んでみるか)
サディスはそう結論付け、占い師の話に乗ることを決める。
「良いだろう。あんたの実力、見せてもらおうか」
「……そろそろうちの名前とか素顔とかが気になりませんか?」
(実は見せたいのか? なら、もっと焦らしてやるか)
サディスが嗜虐的な笑みを浮かべる。
「アンタが晴れてオレの部下になったらな」
「ああっ。そんなつれないところも素敵……」
サディスは早くも手を組んだことを後悔するのだった。
その後、二人はサディスの帰参をレイナに認めさせる作戦を考えていた。
「おおよその状況は分かりました。ここは有能占い師である、うちの出番ですね」
「それを自分で言うか?」
サディスが呆れた表情でツッコむ。
占い師のペースに乗せられ、いつの間にか二人は気安く話す間柄になっていた。
(こいつとは最近出会ったばかりなのに、10年来の友人に思える時がある。不思議なものだ)
「今の状況から考えるに、レイナ様もサディス様の力が必要だということは感じているでしょう。あとは有能な第三者が背中を押すだけです!」
「……そんな奴居るか?」
「ここに居るでしょう! 可愛くて有能な占い師が!」
「だから自分で言うな! それにオレはアンタの顔も能力も知らないんだからな?」
「それもそうですねっ!」
占い師が元気に言うと、少し間をおいてから二人同時に吹き出す。
(そういえば、レイナ以外の同世代の女の子とおしゃべりするのは久しぶりだな)
そう思った直後、サディスはふと気づく。
(待て、オレは何でこいつが同世代だと思ったんだ?)
サディスは占い師の名前や年齢などを聞いたことがない。
確かに彼女の声を聞けば若い女性だと予想できるが、同世代とは限らないはずだ。
(オレは昔どこかでこいつに会ったことがあるのか?)
サディスは記憶をたどったが、思い出すことはできなかった。
◇
ここはサディスたちが住む街にある、小さな空き家――だった建物。
昨日からこの家には一人の少女が住んでいた。
彼女は帰宅するとすぐに重厚なローブを脱ぎ、軽装の部屋着に着替える。
「ふう。ローブは顔を隠すのには良いですが、蒸れるのが困りものですね。……それにしても、レイナ様がサディス様の帰参を拒否するとは思いませんでした」
そうつぶやいてから、彼女は愛用している占い道具に目を向ける。
改めて占ってみたが、数日前と同じ結果が出た。
「……やっぱり、レイナ様はサディス様に強い好意を抱いている。それも執着に近いほどの好意。普通に考えたら余裕で帰参できるはずなんですけどね」
占い師は首を傾げる。
彼女の占いをもってしても、レイナの心の内までは見通せなかった。




