第33話 砦防衛戦 3日目 その2
砦の東門が開き、中から馬に跨った精鋭たちが飛び出してきた。
予想に反してスモーフ家の兵士たちが出撃してきたため、攻撃部隊は虚を突かれて混乱している。
「足を止めるな! 逃げる者は捨て置き、立ち塞がるものだけを斬れ!」
騎兵隊はサディスの指示に従い、慌てふためくルーザス軍の兵士たちを無視して走り抜ける。
サディスが馬を走らせていると、東門で指揮を執る敵将の姿が見えた。
その人物は、ジッとサディスの方を見ている。
(クラーナ殿……だけか。サウザン殿は一緒じゃないんだな)
仮面のせいで表情をうかがい知ることはできないが、サディスはクラーナと目が合ったように感じるのだった。
しばらく東に向かって進軍すると、正面にルーザス家の部隊が見えてきた。
その向こうでは土煙が上がっているので、すでに交戦中のようだ。
(あの旗……カムスの本隊か!)
サディスはチラリと隣を見る。ちょうど、レイナも彼の方を向いたところだった。
二人は目を合わせ、同時にうなずく。
「全軍! カムス・ルーザスを狙ってください!」
レイナが指示を出すと、騎兵隊の兵士たちが大声を張り上げてカムスの部隊に突撃する。
ネストの部隊と戦っていたカムス隊は、背後から猛スピードで迫る騎馬武者たちの姿を見て、恐慌状態に陥った。
◇
「な、なにが起こった!?」
カムスが慌てた様子で側近に状況を確認する。
だが、彼らは混乱していて、まともな答えは返ってこない。
そこで、カムスは現実逃避のように今日の出来事を思い出した。
今日は朝から東に移動し、スモーフ家の援軍に備える予定だった。だが、敵の進軍速度が思いのほか早く、迎撃態勢を万全に整えられないまま交戦が始まった。
それでも右のマキュラー隊、左のサウザン隊と連携し、緒戦は優位に進んでいた。
途中、スモーフ家の精鋭部隊である騎兵隊がサウザン隊の包囲を突破し、城へ向かったという報告が入る。だが、30騎ほどの少数ということで、カムスは気にも留めなかった。
そして今、その騎兵隊がカムスたちに襲い掛かった。
背後から攻撃された兵士たちは完全に浮き足立ち、指揮官の言葉も届かないほどだ。
兵士たちの混乱は左右の友軍にも伝播し、ルーザス軍全体が大混乱に陥っていた。
「カムス・ルーザスがいたぞ! 赤いマントをつけた男だ!」
騎兵隊の一人がカムスを指差して叫ぶ。
すると、周囲にいたスモーフ家の兵士たちが一斉にカムスを見た。
「ひぃいいっ!」
カムスは慌てて自慢のマントを脱ぎ捨てると、味方の間を縫うように逃げ回るのだった。
◇
そのころ、サウザンは副将とともに兵士たちの鎮静化を図っていた。
「落ち着け! 兵の数は我々の方が多い!」
「そうだ! 奇襲部隊は30騎ほど。冷静に対処すれば問題ない!」
その声が兵士たちに届き、混乱が徐々に収まっていく。
サウザンがほっと胸を撫で下ろした、そのとき――
「うわあああ! 助けてくれええ!」
兵士たちの真ん中をカムスが叫びながら通り過ぎる。後ろにスモーフ家の騎兵隊を引き連れて。
それを見たサウザン隊の兵士たちは、再び大混乱に陥った。
「くっ! 何ということだ!」
サウザンが頭を抱える。そこへ、僅かな手勢を引き連れたマキュラーが駆け付けた。
「カムス様はご無事か!?」
「マキュラー将軍! カムス様なら、敵兵に追われながらあちらへ……」
「分かった! サウザン殿は全軍の指揮を頼む!」
「ええ!?」
マキュラーは、サウザンの返事を聞く前に駆け出して行った。
「僕、兵の指揮は苦手なんだけどな……」
せめてこの場にクラーナがいれば。
サウザンの願いは叶わなかった。
◇
スモーフ家の騎兵隊のうち、約10騎がカムスを追って敵陣の奥深くまで切り込んでいった。サディスは残りの兵をレイナに任せ、深入りした兵士たちの後を追う。
(さすがに突出しすぎだ! ルーザス軍が落ち着いたら包囲されてしまうぞ!)
普段は冷静な騎兵隊だが、敵の総大将を発見したことで熱くなっているようだ。
「カ、カムス様をお守りしろ!」
一部の兵がカムスを守るように立ち塞がり、騎兵隊の足が止まる。
そこへ、マキュラーが僅かな兵ともにやってきた。
「お前たち、敵を取り囲め! カムス様のもとへ行かせるな!」
マキュラーが命じると、麾下の兵士だけでなく、周囲にいたカムス隊の兵士たちも騎兵隊を囲み始めた。
「南の包囲が薄い! そこを突破して離脱するぞ!」
「甘いぞ、小童が!」
騎兵隊は南の包囲を破ろうと奮戦するが、敵兵が次々に現れて抜けることができない。
味方の兵は次々と倒れていく。
「――っ!?」
サディスがマキュラーに目を向けると、彼がサディスに狙いをつけて矢を放とうとしている姿が目に入った。サディスは咄嗟に馬を動かす。
――ヒヒーン!
「がっ……」
マキュラーが放った矢は、サディスが乗る馬の眼前を通過する。だが、驚いた馬が立ち上がったことで、サディスは落馬して背中から地面に叩きつけられる。
さすがのサディスも死を覚悟した、そのとき――
「サディス! 私につかまって!」
(レイナ様!?)
サディスは叫びそうになるのをぐっと堪え、手を伸ばす。
二人の手が強く繋がれ、サディスはそのまま引っ張られる。
「くぅぅ……」
「うおっ!?」
だが、レイナは女の子だ。しかも武官ではないので、普段から鍛えているわけでもない。
彼女の腕力ではサディスを馬上に引き上げることはできなかった。
サディスは振り落とされないよう、必死にレイナと馬にしがみ付く。
「サディス様をお助けするぞ!」
その様子を見た周囲の兵士たちが二人のもとに集まってくる。
彼らの助けを借りて、サディスは何とか身体を起こすことができたのだった。
サディスは体勢を立て直すと、レイナの後ろに騎乗して手綱を握る。
その結果、レイナの身体がすっぽりと収まった。
「レイナ様、大丈夫ですか?」
「はい。……昔を思い出しますね」
「何度か一緒に馬に乗せてもらいましたね。ですが、あの時とは違ってここは戦場。落ちないように気を付けてくださいね」
サディスはそう言うと、ネスト隊と合流すべく、東に向かって駆け出した。




