第30話 砦防衛戦 1日目
翌日。
この日は朝からルーザス軍に動きがあった。
彼らは砦を包囲するように部隊を移動させ始めたのだ。
(4,000の兵がいるから各方向に1,000ずつか? ……いや、西の本陣に2,500で残りは500ずつだな)
各地に移動する部隊の規模を見て、サディスはおおよその兵力にあたりをつける。
「サディス様! あちらに破城槌が見えました!」
櫓にいる見張りの兵士が西側を指さす。
破城槌とは、城門の破壊に特化した攻城兵器だ。
ルーザス軍の破城槌は、車輪付きの台車、振り子式の槌、三角屋根の三つの部位からなる。
特に目を引くのは、台車の上に組み上げられた台座から吊り下げられている一本の丸太だ。
兵士たちがこの丸太を一度後方に引き、勢いをつけて前に押し出す。そして、先端を城門にぶつけて破壊するのだ。
丸太の上には、城の反撃から丸太や兵士を守るための三角屋根が張られている。
また、破城槌の足元には車輪が付いているため、大勢の兵士が力を合わせることで移動させることができる。
破城槌をいかに城門に近づけないか、そしてどれだけ素早く破壊できるかが、この防衛戦のカギになるだろう。
「分かった。各門の上に落石用の石を運べ! それからいつでも火矢を放てるように用意しておくように!」
サディスが指示を出すと、兵士たちが慌ただしく動き始める。
「それでは東門はお任せします。厳しい戦いになるでしょうが、どうかご武運を」
「ええ。オーズ殿もどうかお気をつけて」
サディスとオーズは互いに言葉を交わし、それぞれの持ち場に移動する。
(予想通り、サウザン殿は一番危険な東側だな。きっとクラーナ殿も一緒にいるはず)
砦の東側ではサウザンの旗がはためいている。
スモーフ家の援軍が来れば真っ先に攻撃される位置なので、一番危険かつ重要な場所だ。
そこにルーザス家で一番優秀な将を配置するのは当然といえる。
二人が率いる部隊が一番の脅威となるので、サウザン隊が攻め寄せてくる城門をサディスが守ることになった。
他の門の守備はオーズと彼の部下が担当する。四方の指揮官がそれぞれ50人ずつの兵を指揮し、中央には予備として50人の兵が待機している。
ミルは昨夜のうちに砦を離れ、ルーザス軍の侵攻を伝えるためにネストの元に向かった。
ルーザス軍が攻撃を開始したのは、昼前のことだった。
彼らは四方から砦に押し寄せ、先端に鉤爪が付いた木製の梯子を立てかけて登り始める。
守備兵は登ってくる兵士に矢を浴びせたり、梯子を外したりして内部への侵入を防ぐ。
だが、ルーザス軍の兵士たちは外された梯子を戻し、さらに新しい梯子を用意する。
さらに、壁を登る兵士を援護すべく、弓兵が砦の兵士に向かって矢を放った。
サディスが守る東門でも、激しい戦闘が起きていた。
「火矢を放て! 梯子を燃やすんだ!」
サディスの指示に従い、兵士たちが梯子に向かって火矢を放つ。
矢が命中した梯子は燃え始め、兵士の重みに耐えきれずに途中で折れる。
それでも周囲の兵士たちは怯むことなく壁を登り続けた。
「くっ! 上から熱湯を浴びせるんだ!」
守備兵は火矢と通常の矢での攻撃を継続しつつ、登ってくる兵士に対して熱湯をぶちまけた。
灼熱の水を浴びた先頭の兵士は悲鳴を上げて落下するが、その兵士を盾にした後続の敵兵がすぐに押し寄せる。
「手を休めるな! ここを突破されればオレたちは全滅だぞ!」
サディスが声を張り上げて味方を鼓舞すると、守備兵たちの動きが一時的に良くなった。
時刻は夕方。
時間が経過して被害が大きくなるにつれ、ルーザス軍の兵士たちに恐れの色が見え始めていた。
――ジャーン、ジャーン
戦場に銅鑼の音が鳴り響き、ルーザス軍の兵士たちが後退し始める。
(ふうっ。何とか初日は守り切ったか……)
ルーザス軍は多くの兵を失ったが、サディスも守備兵たちも既に疲労困憊だった。
その日の夜、サディスたちは砦の中心部に集まって戦況を確認していた。
「西門側の敵は、カムス・ルーザスが率いているようだ。正直、あの男はあまり兵の指揮が得意ではないようだ。大した兵もつけずに破城槌を前に出してきたから、すぐに落石で破壊してやったわ!」
オーズが胸を張ると、サディスたちが「おお!」と声を漏らす。
「破城槌さえ壊してしまえばこちらのものよ! 策も無くやみくもに攻め込んできたから、矢と熱湯の雨をお見舞いしてやったわ!」
その言葉を聞いたオーズの部下たちが拍手を送る。サディスも彼らに合わせて喝采を贈った。
オーズの次に報告を始めたのは、南門の副将だった。
彼は人前で話すことに慣れていないのか、緊張した面持ちで話し始める。
「指揮官が流れ矢に当たって負傷したので、代わりに自分が報告を担当します!」
「……そうか。容体は?」
「腕に矢を受けましたが、しばらく安静にすれば問題ないとのことです」
この場にいる全員が胸を撫で下ろす。
副将はそれを見て表情を緩めると、報告を再開した。
「南の敵将、老将マキュラーは評判通りの将でした。常にこちら側の薄い部分を突こうとしてきて、終始対応に追われることになりました」
サディスは敵将の顔を思い浮かべる。
前回の戦いでルーザス軍に追撃を仕掛けたとき、騎兵隊の猛攻を防いだ将こそ、マキュラー・ミノーワだった。
「やはり手強いな……。予備兵の一部を南門に回すべきだろうか?」
オーズがそう言ってサディスの方を見たので、彼はうなずいて同意を示す。
その後も、スモーフ軍の将たちは互いの戦況を共有するのだった。
◇
同じ頃。カムス・ルーザスの陣では、ルーザス家の将たちが軍議を行っていた。
「……カムス様。戦闘が始まってすぐに破城槌を失ったというのはどういうことですか? 守りながら大事に運用するようにお伝えしたはずですよね?」
「それは、その……」
今日は自身に非があることを感じているのか、珍しくカムスがしおらしい。
その様子を見た家臣たちが慌ててカムスをフォローする。
「サウザン殿、どうかそれぐらいで……。カムス様にも調子の悪い日ぐらいありますよ」
「……」
サウザンは『これが平常運転だろう』と言いそうになるのをグッと我慢する。
そして、小さく息を吐いた。
「仕方ありませんね。こんな事もあろうかと1台多く作らせておいたので、それをカムス様の部隊で使ってください。ただし、本当にそれが最後の1台ですからね」
「おお! さすがサウザンじゃ!」
サウザンは密かにため息を吐く。
「それで、他のみなさんのところに配備した破城槌はまだ無事ですか?」
サウザンが表情を直してから問いかけると、他の家臣たちは口々に無事を報告する。
カムス以外は破城槌を前線に出さずに温存していたようだ。
「それは良かった。ただ、近々砦に援軍が来るでしょう。出し惜しみをして負けるのはもったいないですし、必要だと判断した際は惜しまずに使ってください」
サウザンがそう言うと、他の家臣たちは首を縦に振った。




