第28話 砦をめぐる謀略戦
翌日。サディスは支度を終えると、部隊に先立って砦に向けて出発する。
「どうか気をつけてください。危険だと思ったらすぐに逃げてくださいね」
「レイナ様の天下を見届けるまでは死ねませんよ。必ず生きて戻りますので、どうかご安心ください」
サディスは苦笑を浮かべながら、そう約束する。
「俺たちも三日以内に出発できるようにするからな。砦が寝返ってなければ合図を頼むぜ」
「分かりました」
話し合った結果、砦の守将オーズ・マギスが寝返っていなければ、サディスが合図を出すことになった。
寝返っていた場合、サディスが問答無用で投獄され、合図を送れない可能性があるからだ。
「……ミル、あなたもサディスとともに砦に向かってください。何かあった時、一人でも多い方が良いでしょう」
「かしこまりました。こんなこともあろうかと、準備は万端です」
こうして、サディスはミルとともに、砦に向かうことになった。
数日後、サディスたちは砦の近くに到着した。
彼らは目を凝らし、砦の様子を確認する。
「やはり外からでは分からないな」
「せめて旗でも立っていれば分かるんですけどね」
交戦中は旗を立てて城の所属を明らかにするが、平時は旗の劣化を防ぐために片付けている。
外から城の所属を見分けるための情報はどこにも無かった。
「仕方ない。中に入れてもらおう」
「うちもお供します!」
「良いのか? 外にいた方が安全だぞ?」
「良いんです! 外で待つようでは、着いてきた意味がありません!」
(まあ、それもそうか)
サディスたちは見張りに声をかけて砦の中に入り、中心にある建物へ向かった。
二人を砦の守将、オーズ・マギスが出迎える。
「サディス殿、ようこそおいでくださいました。今日はどのようなご用件ですか?」
「ルーザス家が不穏な動きを見せていないか、様子を見に参りました。将軍の目から見て、何か変わったことは起きていませんか?」
「ルーザス家の方は特に何も」
オーズはそう言うと、サディスに顔を寄せた。
「……それより、少しだけ二人きりでお話しすることはできませんか?」
「オレは構いませんよ」
「では。みなの者! すまないが、席を外してくれ!」
オーズが指示を出すと、彼の部下たちが部屋を出ていく。
「うちも外に行った方が良いですかね?」
「そうしてもらえると助かる」
「分かりました。終わったら呼んでくださいね」
ミルも退室し、部屋にはサディスとオーズだけが残った。
「それで、オレと二人きりでお話ししたいことというのは何でしょうか?」
「……レイナ様は息災か?」
「え? ええ。特に病気やケガも無く過ごしておられますよ」
オーズは大きく息をつくと、「そうか」とつぶやく。
彼はしばらく迷うようなそぶりを見せた後、意を決して話し始めた。
「実は、『レイナ様がおれの謀反を疑っている』と、この砦の将兵たちが噂しているんだ」
「なんですって!?」
「それだけじゃない。『レイナ様がおれを謀反人だと決めつけて、討伐の準備を進めている』という噂も流れている」
(やはり、様子を見に来て正解だった)
サディスはひそかに胸を撫で下ろす。
オーズは疑心暗鬼に陥っているので、スモーフ家の部隊が来たら討伐隊だと勘違いしただろう。最悪の場合、同士討ちが起きた可能性もある。
「レイナ様はあなたの忠誠心を信じていますので、どうぞご安心ください」
実際には半信半疑だったが、それを馬鹿正直に話すサディスではない。
「実は、本拠周辺では、オーズ殿がルーザス家に寝返ったという噂がありました。ですが、この様子だと敵の偽情報――」
「おれがルーザス家に!? ありえません!」
オーズが食い気味に否定する。
「オレはオーズ殿のことを信じていますから大丈夫ですよ。レイナ様にも心配いらないと報告しておきます」
「恩に着ます」
「それより、これらの噂が、同時に自然発生したとは考えられません。恐らくルーザス家によるものでしょう。噂の発生源は分かりますか?」
「申し訳ないが、出所まではさすがに……。一応、将兵たちに聞いてみよう」
「そうですね。……そろそろみなさんを呼び戻しましょうか」
オーズはうなずくと、出て行った部下たちを呼び戻した。彼らに続いて、ミルも部屋に入って来る。
「オーズ様、話は済んだのですね」
「ああ。みなの配慮に感謝する。それより、おれが謀反を起こそうとしているという噂についてだが、出所を知っている者はおるか?」
オーズが部下たちに問いかけると、彼らが驚いたような顔をしてミルを見た。
「実は、二人を待っている間にその噂を耳にしたので、みなさんに手伝ってもらって発生源を探していました。ですが、噂を流し始めたと思われる人物は、既に姿をくらましていました」
ミルやオーズの部下たちが悔しそうな表情を浮かべる。
だが、サディスはその話を聞いて、噂は他国からの謀略によるものだと確信していた。
「犯人こそ特定できませんでしたが、謀略であることに間違いないでしょう。問題は、誰が何のために仕掛けてきたか、ですね」
「ルーザス家がレイナ様とオーズ様を仲違いさせるために仕掛けてきたのではありませんか?」
ミルの予想に、オーズや彼の家臣たちが同意を示した。
「オレもその可能性が高いと思っています。そうなると、彼らはこの機に何らかの動きを見せてくるはずです。オーズ殿の引き抜きを狙うか、はたまた砦に攻め込んでくるか……」
「むむ……。攻めて来るとなると、守備の兵が足りぬかも知れんぞ」
先日の戦いでルーザス軍に打撃を与えたばかりなので、敵がすぐに攻めてくることを想定していなかった。
そのため、砦を守る兵士の数は少なく、壁も修理中だ。
サディスたちが対応を話し合っていると、見張りの兵士が駆け込んできた。
「報告いたします! 西側に敵が現れました。ルーザス家の部隊と思われます」
「なんだって!?」
オーズが目を見開く。
「ネスト殿が部隊を率いてこちらに来る予定になっていますので、それまで砦を守りましょう」
「そうか、ネスト殿が。……お前たち! 必ずやこの砦を死守し、レイナ様への忠誠を示すのだ!」
オーズの部下たちは、「おーっ!」と力強くこぶしを突き上げた。




