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幼馴染領主を、処刑される運命から救いたくて  作者: myano
第一章 滅亡の運命を回避したくて

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第25話 シンシアの悪巧み

 翌日、サディスは城に呼び出された。


(今日はどのような要件だろう?)


 サディスの脳裏に浮かんだのは、彼が留守にしていた間の事務仕事だった。


(作業の引き継ぎかもしれないな。今はレイナ様にゆっくり身体を休めてもらいたいし、頑張ろう)


 彼は一晩考えた結果、やはりレイナは過労のせいで体調が良くないのではないかと推測していた。



「どうぞ、こちらでお待ちください」

「ありがとう……」


(応接室? 政務室か会議室だと思っていたが……)


 サディスは首を傾げつつも、椅子に座ってレイナが来るのを待つ。

 だが、現れたのはレイナではなかった。


「お待たせいたしました、サディス様。急にお呼び立てして申し訳ございません」

「シンシアさん!?」


 思いがけない人物の登場に、サディスは思わず立ち上がる。

 今日、サディスを呼び出したのは、レイナではなくシンシアだった。



 二人は向かい合って席に着く。


 サディスは若干の気まずさを覚えていた。

 というのも、サディスとシンシアは最近出会ったばかりなのだ。

 シンシアは修行に出たサディスと入れ替わるようにしてレイナに仕えたため、二人が知り合ったのはサディスがスモーフ家に帰参してからだ。


(レイナ様はシンシアさんに懐いているし、悪い人じゃないことは分かるんだけどな)


 それでも、やりづらさを感じるサディスだった。


「シンシアさんとこうしてお話しするのは初めてですね。今日はどのようなご用件ですか?」

「実は、慰労会を開きたいと思いまして」

「そんな! 恐れ多いですよ!」


 サディスが慌てて両手を振ると、シンシアはジトっとした目を彼に向けた。


「……何か勘違いされていませんか? あなたは慰労される側ではなく、慰労()()側です。もちろん、ゲストはレイナ様です」

「……オレが? レイナ様を? 慰労するんですか?」


 サディスが尋ねるたび、シンシアはうなずく。

 彼はその反応を見て、『何言ってるんだコイツ』と言いたげな表情を浮かべた。


 サディスが困惑していると、シンシアは彼を納得させるべく、ここ最近のレイナの様子を語り始める。


「レイナ様はあなたがいない間、すごく頑張っていたんですよ? サディス様が普段なさっている仕事を代わりに引き受け――」

 サディスがどんな仕事をしているのかを知りたかったのだ。


「空き時間には勉学に励み――」

 サディスが居ないので、他に時間を潰す方法がなかったのだ。


「毎日届く、負傷者と戦死者、それから戦況の報告をつぶさにチェックし――」

 サディスが危険な目に合っていないか、もしものことが起きていないかを確認していたのだ。


「そして毎晩、就寝前に将兵の無事を祈っていたんです!」

 サディスやネスト、そしてスモーフ家のために戦ってくれる兵士たちが無事に帰還することを祈っていたのだ。


 密かにレイナを見ていたシンシアは全てを知っているが、あえてそれは口にしない。

 少女レイナの気持ちではなく、当主レイナ・スモーフとしての行いを伝えた方が、サディスには効くと考えたのだ。


 そして、シンシアの目論見どおり、レイナの健気な振る舞いはサディスの胸を打った。


「レイナ様、オレたちのためにそこまで……。シンシアさん、オレが間違っていました。レイナ様を労うお手伝いをさせてください!」

「よくぞ申してくれました! 二人で力を合わせ、必ずやレイナ様に至福のひとときをプレゼントしましょう!」

「はい!」

「そうと決まればさっそく準備しましょう。着替えますので、ついてきてください!」

「えっ? 着替え?」


 サディスはシンシアに引きずられるようにして別室に連れていかれた。



 今日の仕事を終えたレイナが、シンシアに背中を押されて応接室にやってくる。


「なんで私を呼び出したのか、そろそろ教えていただけませんか?」

「中に入れば分かりますよ。ご心配なさらずとも、悪いようにはしませんから」

「はあ……」


 レイナは首を傾げつつも応接室の扉を開ける。


「おかえりなさいませ、レイナ様」


 部屋の中には、執事服を身にまとったサディスの姿があった。


 ――バタン。


 レイナは思わず部屋の扉を閉める。


「入らないのですか?」

「シンシア、あなたの仕業ですね?」

「違いますよ。サディス様がレイナ様を癒したいと言ったんです」


 レイナはジトっとした目をシンシアに向ける。


「さあ、サディス様がお待ちです。諦めて中に入ってください」

「やっ、押さないでください!」


 レイナは心の準備をする間もなく、応接室に押し込まれた。


「レイナ様、本日もお疲れさまでした。どうぞおかけになってください」

「は、はい」


 レイナは声を上ずらせて返事すると、大人しくソファに座る。

 気恥ずかしさのあまり、サディスの顔を直視できないようだ。


「どうぞ。お口に合えば良いですが……」

「ありがとうございます」


 サディスはレイナのために淹れたお茶を差し出す。

 それを一口飲んだレイナは、目を輝かせた。


「美味しい」

「そう言っていただけて安心しました」


 サディスは頬をほんのりと染めつつ目を細める。

 二人の様子を見守っていたシンシアが柔らかい笑みを浮かべた。


「レイナ様、今のサディス様はあなたの専属執事です。今ならば何でも言うことを聞いてくれますよ」

「な、何でも!?」


(まあ、普段もレイナ様の家臣だから、よほどの命令でなければ従うけどな)


 二人の会話を聞いたサディスは苦笑する。

「で、では、一緒にお茶でも……これだといつもと一緒ですね。うーん……」


 レイナはそのまま真剣に悩み始めてしまう。

 そんな彼女の様子を見て、シンシアは悪戯な笑みを浮かべた。


「ではサディス様、その間にわたしの肩を揉んでいただけませんか?」

「ええっ!?」

「……何でですか?」


 サディスが半眼になってシンシアを見つめる。まったく乗り気ではないようだ。

 だが、シンシアは(さと)すように説得を試みる。


「良いですか、サディス様。家臣たるもの、主君の肩を揉んで、満足させられるぐらいでないと務まりません。これは、どの国の家臣もやっていることですよ! 特にレイナ様は普段からお疲れなのですから、定期的に肩を揉んで癒して差し上げないと」


(そう……なのか?)


 サディスは内心で疑問を抱きつつも、シンシアの真剣な表情に圧倒されてしまう。

 ちなみに、他の国の家臣、少なくとも軍師は主君の肩を揉んだりしない。専属の従者を雇って肩を揉ませる君主はいるそうだが……。


 シンシアはなおも続ける。


「サディス様がレイナ様の肩を揉むとなったとき、力加減もうまくできないようでは逆効果になってしまいます。まずはわたしの肩を練習台にして、腕を磨くべきでしょう」


 要するに、シンシアの肩を揉むことがレイナのためになると言うのだ。『レイナのため』と言われると、サディスは弱い。


「なるほど、一理ある気がします。分かりました。お言葉に甘えて――」

「ちょ、ちょっと待ってください! 練習でしたら私の肩でやってください! 私の好みの強さも覚えられて一石二鳥ですよ!」


 サディスが流されそうになったのを見て、レイナが前のめりになってストップをかける。


「それは名案ですね。サディス様、ぜひレイナ様の肩を揉んであげてください」


 シンシアの満面の笑みを見て、レイナは自分が彼女の手のひらで踊らされていたことに気づく。


(嵌められた!)


 二人は同時にそう思ったが、もはやどうすることもできない。

 サディスは諦めてレイナの後ろに回った。


「では、始めますね」

「よ、よろしくお願いします」


 背後に立つサディスからは見えないが、レイナの顔は真っ赤だ。

 シンシアだけがその顔を見て微笑んでいる。


「痛くありませんか?」

「もう少し強くしていただいて大丈夫です。……あっ、良い感じです」


 その力加減を維持したまま続けると、レイナの身体から徐々に力が抜け、恍惚とした吐息が漏れ始める。


(やっぱりお疲れだったんだな。……それにしても、レイナ様はこんなに小さな肩で、家臣や領民の期待と未来を背負っているんだよな。それも、不満や泣き言一つ漏らさずに)


 サディスは改めて、レイナを隣で支え続けることを決意したのだった。

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