第17話 偽情報で誘い出せ!
数日後。今日は評定の開催日だ。
いつもの面々が城の会議室に集合している。
家臣たちが任務の結果を報告し終えると、レイナがサディスに問いかけた。
「サディス、私たちが今のまま軍備を進めた場合、敵はどのように動くと思いますか?」
「おそらく、ルーザス家も軍備の増強を推し進めることになると思います。そのときの状況次第になりますが、ルーザス家は兵士たちの訓練が完了した時点で攻め込んでくるかもしれません」
サディスの返答を聞いた参加者たちが苦悩の声を漏らす。
「……敵が攻めてきたとして、2か月間耐えることはできると思いますか?」
(2か月? ああ、レイナ様が当主になられてから半年になるのか)
なぜ半年を意識しているのかと首を傾げつつ、サディスは考えを述べた。
「大変申し上げにくいですが、厳しいと思います」
「どうしてですか!? ヴィクタル家との同盟もありますし、サディスもいる。あの時とは状況が変わっているのですよ!」
レイナが興奮してまくし立てる。
彼女は滅多に怒りの感情を表に出さないので、サディスだけでなく、家臣たちも目を丸くした。
「レイナ様、どうか落ち着いてください。まず、同盟についてはあまり当てになりません」
「……ヴィクタル家の兵が少なく、援軍は期待できないからですね?」
レイナが、むすっとした表情で答える。
少し冷静になり、以前の評定でのやりとりを思い出したようだ。
「はい。そして、一番厄介なのはルーザス家とゴルダス家の同盟です」
ゴルダス家というのは、スモーフ家の南に位置する勢力だ。
スモーフ家に隣接する勢力の中では最も兵力が多いうえ、当主のラース・ゴルダスも稀代の名君として名高い。
「ラース・ゴルダス……」
レイナが顔を青くする。まるで何か嫌な出来事を思い出したかのように。
「彼らが連携して攻めてきた場合、オレたちには防ぐ手立てが無いでしょう。それに、彼らが動けば、北のユージュ家も動く可能性が出てきます」
「ううぅ……」
今度は、泣きだしそうな顔になって俯いてしまう。
少し罪悪感を覚えたサディスだったが、ちゃんと策を練っていた。
「ですので、両家が連携して攻めて来る前に、ルーザス家をおびき出して叩きましょう。彼らに大打撃を与えておけば、ゴルダス家といえど、迂闊には動けなくなるはずです」
「なるほど、各個撃破するというわけですね。時期はいつ頃ですか?」
(ゴルダス家とは戦わないつもりなんだけど、これを各個撃破と言っても良いのかな? そんなことより、今は時期についてだな)
サディスは少しだけ考えた後、レイナの質問に答えた。
「できる限り早い方が良いですね。ルーザス家の新兵たちの訓練が完了する前に叩きたいと思っています。こちらの準備のことを考えると……半月後ぐらいでしょうか」
「……まあ、その時期ならば良いでしょう。前とは違うタイミングですし」
レイナの声は徐々に小さくなっていったので、後半は誰も聞き取れなかった。
(時期? レイナ様にも何か考えがあるのか?)
サディスは首を傾げる。
だが、レイナから次の質問が飛んできたので、その思考は忘却の彼方へ消えていった。
「それで、サディスはどのようにして敵に勝つつもりですか?」
「敵を誘い出し、こちらの有利な場所で戦うべきかと」
「……有利な場所、ですか?」
「敵がどこから来るのかが分からなければ、国境に広く薄く兵を置かなければなりません。また、敵襲の時期が読めないと、将兵は常に張り詰めた状態となり、疲弊してしまいます。その状況で一点を突かれると、敵に前線を突破され、領内の奥深くまで侵攻を許すことになるでしょう」
その状況を想像したのか、レイナの表情が曇る。
「ですが、カムス・ルーザスは単純な男ですから、策略を用いれば敵の動きを操ることができるでしょう。そうすれば、オレたちはその地域を重点的に守ることができます」
「どうなさるおつもりですか? 具体的な策を教えてください」
「ルーザス家の領地で、『スモーフ家は大量の兵を雇ったが、今はまだ実戦に出せるほど訓練できていない』『クシューが築いた砦の防御力を過信し、ほとんど兵を配置していない。それでもカムスは弱腰だから攻めてこないと慢心している』という二つの噂を流します」
「そうすれば、『すぐ』に『お爺様が築いた砦』に攻め込んでくるというわけですね」
サディスがレイナの言葉にうなずく。
しかし、二人のやり取りを聞いていた家臣の一人が手を挙げた。
「ですが、そううまくいくでしょうか。いえ、サディス様の策が悪いというわけではなく、敵にもこちらの策に気づく参謀がいるのではないかと」
「ええ。サウザン殿でしたら余裕で気づくでしょうね。ですが、今はカムスとサウザン殿の関係が冷え込んでいますので、彼が止めるほど、かえってカムスは意固地になるでしょう。他の家臣たちはおべっかを使う者と発言力の弱い者ばかりですので、カムスさえ欺ければ問題ありません」
「なるほど……。先日の偽手紙がここに効いてくるのですね」
家臣たちが感嘆の声を漏らす。
その様子を見たレイナが満足げな笑みを浮かべた。
「では、サディスの提案に従ってルーザス家に偽情報を流しましょう。サディス、誰か補佐をつけましょうか?」
「こちらはオレ一人で大丈夫ですので、戦の準備に人を回してください」
「そうですか? 分かりました」
レイナはうなずくと、家臣やサディスの意見を聞きながら仕事を割り振っていった。
「今日の評定はここまでとします。みなさんの働きが当家の命運を左右すると言っても過言ではありません。どうか私に、みなさんの力を貸してください」
レイナが深々と頭を下げる。
その言葉には強すぎるほどの感情が乗っているように感じられ、家臣たちは彼女から目を離すことができなかった。




