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幼馴染領主を、処刑される運命から救いたくて  作者: myano


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第16話 お忍びデート(忍べてない)

 ある日、サディスはレイナに呼び出された。


(レイナ様、どういうつもりなんだろう)


 彼女がサディスを呼び出すこと自体は珍しくない。彼が軍師になる前から『勉強会』や『相談』という名目で、頻繁に居城に招いている。

 とある使用人いわく『サディスが領地にいる日はほぼ毎日会っている』とのことだが、真相は闇の中だ。


 それはさておき、サディスが首を傾げているのはレイナに呼び出されたことが理由ではない。普段とは異なり、居城以外の場所に呼び出されたからだった。


(領地の様子を見たいから付き合ってほしい、か。だけど、何で集合場所が街の広場なんだ? 城から一緒に行けばいいと思うんだが……)


 サディスはレイナが現れるまで考え続けたが、正解には思い至らなかったようだ。



 しばらくすると、レイナが使用人のシンシアを伴って広場にやって来た。

 二人は見目麗しい上に有名人なので、周囲の領民たちの注目を集めている。

 レイナは広場に佇むサディスの姿を見つけると、ぱあっと表情を輝かせて彼のもとに駆け寄った。


「お、お待たせしました」


 レイナの姿を間近で見たサディスは言葉を失う。


 彼女は普段とは異なり、町娘の格好をしていた。

 レイナが着ている服は、街で買えるものの中では最高級の代物だ。

 鋭い人が見れば、彼女が相当気合を入れていると分かるほどだが、もちろんサディスは気づかない。


「あの、私の服装、どこか変でしたか……?」


 レイナが自信なさげに尋ねる。サディスが何も言わなかったので不安になってしまったようだ。


「す、すみません。つい見惚(みと)れてしまいました」

「――っ!? い、行きますよ!」


 不意を打たれたことで、レイナの顔が真っ赤に染まる。

 彼女はその顔を隠すかのように、サディスの手を引いて歩き始めた。


(レ、レイナ様と手を繋いでる! 温かい! 柔らかい!)


 今度はサディスが赤くなる番だったが、レイナがその顔を見ることは無かった。



「手を繋いだのはナイスです。レイナ様、引き続き頑張ってくださいね」


 シンシアは仲睦まじく歩く二人に向かって一礼すると、『わたしの出番は終わった』とばかりに人波の中に消えていく。

 別の使用人の話では、その日のシンシアは一日中上機嫌だったという。



 ひとまず歩き始めた二人だったが、一度立ち止まって行き先を相談する。


「まずはどこに行きましょうか? この街の治安と経済を見て回りたいとのことですので、市場に向かいますか?」

「はい! 色々な店を見て回りたいです」


 鮮やかな花が咲き、周囲の領民たちの視線がレイナに吸い寄せられる。

 二人はその視線に気づかぬまま、市場に歩を進めた。


 市場には様々な露店や屋台が出ていた。

 二人はひとつひとつで足を止め、目を輝かせて商品を眺める。


「うわぁ……綺麗なネックレス。あっ、こっちの髪飾りは可愛いです!」


 そう言ってレイナは自身の髪に髪飾りをあて、サディスの方を向く。


「似合っていますか?」

「すごく似合っていますよ」


 サディスがそう言うと、レイナが嬉しそうに目を細める。


「あっ! これも可愛いです!」


 レイナはその後も様々な商品に目を奪われていた。



「ふふっ。素敵なお店でした」


 店を出たレイナは、満足した様子で街を歩く。


「先ほどの店で何も買っていませんでしたが、良かったのですか?」

「今はお仕事中ですから。また休みの日に改めて買いに来ます」


(そんなことを言ったって、休みなんてほとんど取らないじゃないか)


 サディスの胸中にモヤモヤしたものが渦巻く。


「レイナ様、少しだけお待ちください」

「えっ?」


 サディスはそう言い残すと、通りを引き返していった。


 しばらくして、両手に包みを持ったサディスが戻ってくる。

 彼は、そのうちの一方をレイナに手渡した。


「これ……」

「レイナ様はあの屋台のパイがお好きでしたよね。昔、よく一緒に食べたのを覚えていますか?」

「懐かしいですね。当時の私たちには量が多かったので、二人で半分こしていましたね」


 レイナが子どものころを思い出して目を細める。

 サディスは彼女に優しく笑いかけた。


「レイナ様は『今は仕事中だ』とおっしゃいますが、領内で売られている衣服を着たり、領民たちと同じものを食べたりするのも立派な仕事だと思うんです。ですから、今日は領民たちの生活を知るために、好きなものを食べて、欲しいものを買いませんか?」


「……そうですね。ありがとうございます」


 レイナはそう言うと、包みに入ったパイを半分に割る。そして、片方をサディスに手渡した。


「オレも自分の分を買ったのですが……?」

「そちらとこちらでは中身が違いますよね? 私にはお見通しです」


 レイナが指摘すると、サディスは小さく笑う。

 昔のように『半分こ』したいと思っていたのは、サディスも同じだったのだ。


「参りました」


 サディスはパイの半分を受け取り、自分のパイの半分をレイナに手渡した。

 二人同時にパイをかじる。


「ふふっ。昔に戻ったみたいですね」

「そうですね。領地に戻ってきて良かったです」


 サディスは屈託なく笑った。



 夕方になり、二人は城に戻ってきた。


「今日は本当にありがとうございました。これ、誘ってくださったお礼です」


 サディスはそう言うと、小さな包みを差し出す。


「えっ? あ、ありがとうございます。……開けても良いですか?」

「もちろんです」


 レイナは少し手間取りながら包みを開け、中に入っていたものを取り出した。


「えっ? これ……」


 包みに入っていたのは、露店に立ち寄った時にレイナが試着していた髪飾りだった。

 実は、サディスはパイを購入する前に露店に寄り、その髪飾りを買っていたのだ。


「すごく気に入っている様子でしたし、何よりそれを着けているレイナ様を見たかったので……」


 サディスが夕陽に照らされた頬をかく。


「……その、着けてくださいませんか?」

「オ、オレが着けても良いんですか!?」


 レイナは恥ずかしそうにしながらも、しっかりとうなずいた。


「分かりました。し、失礼します」


 サディスは覚悟を決めるとレイナから髪飾りを受け取り、彼女の美しい髪に花を添えた。


(綺麗だ……)


 サディスは思わず息を呑む。


「どうですか?」

「すごく、似合っています」


 サディスがそう言うと、レイナは柔和な笑みを浮かべる。

 見つめ合う二人の顔が夕陽のように染まっていた。



 二人は城門の前で別れ、サディスは自宅に帰っていく。

 レイナは昔のように、サディスの後ろ姿が見えなくなるまで見守っていた。


「……本当に、サディスとまた会えて良かった」


 彼女のつぶやきは夕方の静寂に溶けていった。

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