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幼馴染領主を、処刑される運命から救いたくて  作者: myano


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第12話 論戦

 翌日。

 前日は議論が長引いて結論が出なかったため、引き続き評定(ひょうじょう)が開催された。


「朝まで一睡もせずに考えましたが、やはり兵力増強には反対です」


(嘘つけ! 8時間熟睡した人間の顔をしやがって!)


 ハルバーは隈一つない、スッキリとした表情をしていた。

 舌戦のために徹夜した結果、目が充血しているサディスとは対照的だ。

 サディスは一度目を閉じ、小さく息を吐いて気持ちを整える。そして、余裕の笑みを浮かべた。


「では、今日こそは納得してもらうとしましょう」


 こうして、サディスたちによる論戦の火蓋が切られた。



「まず、ヴィクタル家の援軍を期待するのは間違いです」

「と、言いますと?」


 レイナが首を傾げる。彼女もサディスの言葉に疑問を抱いたようだ。


「ヴィクタル家の兵はスモーフ家より少ない上、北と東の隣国への備えで手一杯です。彼らとの同盟については、不可侵条約と思っておくのが良いかと思います」

「むむむ……」

「それに、オルター殿の言動からして、我々が頼りにならないと判断すれば同盟を破棄して攻め込んでくると思われます」


 サディスはオルターの言葉を思い出しながら告げる。

 家臣の誰かが「そんな……」と漏らした。


「オルター殿と直接会って話したサディスが言うのですから、間違いないでしょう。少なくとも、自衛の意思は見せておかないといけませんね」


 レイナがサディスの言葉に同意すると、軍備増強賛成派のネストもうなずいた。


「それに、我々の領地を狙っているのは西のルーザス家だけではありません。北のユージュ家と南のゴルダス家も虎視眈々とこの地を狙っています」

「だが、今までは四方が敵国だったが、どこも攻めてくることは無かった。東のヴィクタル家と同盟を結んだのだから、そこの守備兵を他方に回せば、募兵をせずとも守り切れるのではないか?」

「今まで攻めてこなかったのはクシュー様が当主だったからです。今のスモーフ家にクシュー様に匹敵する戦才と智謀の持ち主がいますか?」

「そ、それは……」


 ハルバーが言いよどむ。

 彼も、さすがに意地を張ってでたらめを言うようなことはしない。


「それを踏まえて、こちらをご覧ください」


 サディスはそう言って地図を机の中央に置き、所々に数字を書き込んだ。


「それは何の数字ですか?」

「これは、ミルが調査してくれた、周辺国が国境付近に配置している兵力です」

「すごい……」


 誰かがそう声を漏らす。

 この情報にはサディスですら恐怖を抱いたほどで、彼は心の底からミルを敵に回さなくて良かったと痛感していた。


「さて、3勢力が同時に攻めてきたと仮定します。現状の兵力で防ぎきれますか?」

「ぐぬぬ……」


 ハルバーは反論の言葉を失い、苦悶の声を漏らす。

 彼に代わり、別の家臣が議論に参加した。


「確かに、3方向から同時に攻められれば防げないでしょう。ですが、そのようなことが起こりえますかね?」

「来ます! 四方から来()んです!」


 突然レイナが大声を出し、会議室は騒然となる。

 彼女は周囲を気にする余裕もなく、怯えた表情で小さく震えていた。


「レ、レイナ様!? お気を確かに!」


 サディスたちがなだめるうちに、何とかレイナは冷静さを取り戻す。

 だが、もはや『3方向から敵が来るかどうか』について議論できる雰囲気ではなかった。


「レイナ様もそうおっしゃっていることですし、常に最悪の事態を想定しておくべきでしょう」

「ううむ……。そうだな」


 レイナが声を荒げたことで、議論の方向性が修正される。

 意見は違えど、レイナに対して忠誠を誓っているという点については全員同じだ。

 彼女が拒絶したテーマを蒸し返すようなことはしない。


「それぞれの戦線を守りきるために必要な兵士を、オレなりに計算してみました」


 サディスはそう言って地図に数字を記入していく。


「こ、こんなに必要なのか!?」

「全て敵の兵数以上じゃないか! さすがに()り過ぎだろう!」


 軍備増強に反対する家臣たちが非難の声を上げる。

 だが、サディスは彼らを黙らせるべく、スモーフ家の致命的な欠点を指摘した。


「うちに数的不利を覆せる指揮官が3人も居ますか? そもそも、オレを含めた全員が、ほとんど戦場に出たことすら無いと思うのですが?」

「うぐっ!」


 サディスの言葉は反感を抱かれても仕方がないほど強いものだったが、幸いにも反発は無かった。

 彼の発言が的を射ていたため、全員が納得してしまったのだ。


「さて、これで兵力増強の必要性を理解していただけましたか?」


 家臣たちから反対意見は出てこない。中立の家臣たちは納得したようにうなずき、反対派は渋々首を縦に振る。


「では、当面は兵力増強を当家の方針としたいと思います」


 レイナのその言葉に、異を唱える者はいなかった。



 その後、次の評定までの任務を決めていく。

 これまでとは異なり、募兵や兵士の訓練、前線にある砦の補修など、防衛力を高めるための仕事が割り振られていった。


「ええと、私は――」

「ハルバー殿は西側の……この周辺の開墾をお願いできますか?」


 サディスが地図を指さして場所を示す。そこは領地西側の荒れ地だ。


「構わないが……?」


 ハルバーは『軍備をしなくても良いのか?』という目でサディスを見る。


「ハルバー殿は当家で最も内政に長けたお方です。あなたを軍備担当に回すのは、国の損失となるでしょう」

「そこまで私のことを……」


 ハルバーは呆然としてサディスを見つめる。その頬は少しだけ赤く染まっていた。



「……男の人であっても、私の目の前で他の誰かを口説くのはやめてほしいですね」


 レイナは人知れず口を尖らせた。

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