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幼馴染領主を、処刑される運命から救いたくて  作者: myano


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第9話 戦戯盤

 サディスとヴィクタル家の当主、オルター・ヴィクタルが机を挟んで向かい合う。

「盤はこれを使おう。駒は……これで」

 オルターは迷うことなく盤を選択すると、それを机の上に置く。

 そして、『ス10』と書かれた箱をサディスに手渡し、自身も『ヴ5』と書かれた箱を手に取った。それぞれの箱の中には駒が入っている。

(この盤、どう見てもスモーフ家(うち)の領地だ! それに歩兵と騎兵の駒の割合も、うちの部隊と同じだ……)

 サディスは思わず戦慄する。

 オルターが用意したのはスモーフ家の東側、ヴィクタル家との国境付近を模した盤だった。山や森といった地形の位置までほぼ完璧に表現されている。

 また、サディスに渡された駒は、スモーフ家の部隊を再現した組み合わせだ。密偵が得た情報を元にしているのだろう。

(この戦い、絶対に負けるわけにはいかない!)

 サディスは密かに気合を入れ直すのだった。



 戦戯盤はターン制になっていて、味方の全ての駒を行動させると相手のターンに移る。

 全ての駒を動かすので、ターンごとに戦況が大きく変わっていることも多い。

 また、駒の種類ごとに移動距離と攻撃力、侵入可能な地形が決まっている。

 例えば、歩兵は移動距離と攻撃力は控えめだが全ての地形を移動でき、騎兵は移動距離と攻撃力に優れるが山や森には侵入できない、などだ。

 勝利条件は好きに設定できるが、今回は二人の話し合いにより、『相手の大将を撃破した方の勝ち』ということに決まった。


 二人はそれぞれの陣地に味方の駒を配置していく。

 サディスはスモーフ家の領内奥深く、オルターは両家の国境付近に駒を配置した。

(駒の数はオレの方が多い。つまり、これがオルター殿から見た両家の兵力差ということか。……ふふっ、オレの推計と同じとは)

 サディスは密かに笑みを浮かべる。

 目の前の強敵と同じ考えに到達していたことが、嬉しくて仕方なかった。



「では、始めようか。先攻は譲るよ」

「よろしくお願いします」

 まず、先に手番を得たサディスが駒を動かしていく。

 サディスが選択したのは、攻守にバランスの取れた陣形だ。

 この陣形のまま戦うこともあるが、相手の出方を見てから別の陣形に組み替えることが多い。そんな陣形だ。

 サディスは頭の中で行動後の配置を思い描き、迷いなく全ての駒を動かしていった。

「次はぼくの番だね」

 そう言ってオルターが駒を動かす。彼が選択したのは、少し攻撃寄りの陣形だ。

 実際の戦場を意識したのか、大将の駒も少しだけ前進させる。

(基本に忠実な用兵術だ)

 二人とも、最初のターンは教科書通りというべき行動だった。


 2ターン目。サディスはこのターンもセオリー通りの行動を心掛ける。

(早ければ次のターンには前線の駒がぶつかり始める。それを意識して配置を調整しないと)

 全ての駒を全力で前に出すのではなく、少し余裕をもって進軍させる。

 それでいて、オルターの騎兵が突出してきたら包囲して殲滅(せんめつ)できる配置を整えていく。

 このターンもサディスは滞りなく全ての駒を動かした。


「なるほど、そう来たか。じゃあ、ぼくはこうしようかな」

 オルターは陣形を組み替え、一点集中で大将を狙う動きを見せる。

 今回は相手の大将の駒を撃破した方の勝利となるので、駒の数が劣るオルターは攻撃力に特化した陣形でサディスの大将に迫る。

(相手が鋒矢の陣で来るなら、こっちは鶴翼の陣で……いや、それも読まれているか?)

 サディスは陣形を変更し、大将の守りを厚くしつつ、数的有利を利用して敵を包囲するように駒を配置していく。

 その後も、盤上で二人の指揮官による知恵比べが続いた。



 サディスとオルターによる勝負は、終盤に差し掛かっていた。

 互いに味方の駒は残り僅かとなり、いつ決着がついてもおかしくない状況になっている。

 序盤とは異なり、一つミスをすれば挽回は不可能だ。

(戦況はやや劣勢か……。敵が陣形を立て直す前に勝負に出るか?)

 前のターンにオルターの攻め駒が深入りしてサディスの駒を撃破したので、敵の主力と大将が離れた位置にあった。

 今すぐに大将を討ち取るのは不可能だが、何もしないと次のターンには陣形を立て直されるだろう。そうなるとサディスはジリ貧だ。


 それまで流れるように駒を動かしていたサディスだったが、ここで少しだけ時間をかけて思考する。やがて、勝負に出ることを決めて駒を動かした。

 彼は盤上に次々と罠を張り巡らせていく。

 オルターの攻撃が鈍れば大将を撃破できる態勢を整えた。


「ほう、勝負に出たか。……少しでも間違えれば、ぼくの負けかな?」

 サディスが放った勝負手は、オルターが全ての駒を正確に動かせばオルターの勝ち、一つでも間違えればサディスの勝ちというものだった。

(少なくとも、今のスモーフ家にオレの大将を撃破できる家臣はいないはずだ)

 サディスが用意した罠はそれほど巧妙であり、さすがのオルターも長考に沈んだ。

 しばらくして、オルターは大きく息をつくと、自身の駒を動かし始めた。


「……負けました」

 サディスが頭を下げる。

 彼が放った渾身の勝負手は、オルターには敵わなかった。

 オルターは全ての罠を看破し、正確に対処してみせた。その結果、一手差でオルターが勝利を手にしたのだった。

 だが、勝ったはずのオルターに笑顔は無い。

「いやぁ、見事だった。最後のターンは肝が冷えたよ」

 そう言って彼はサディスに拍手を送る。

「あの罠を全てかいくぐられるとは思いませんでした。初期の駒もオレの方が多かったですし、完敗です」

「そんなことは無い。最後のターン、ぼくは長考しすぎた。もしもこれが実際の戦場ならヴィクタル家の負けだったよ」

 オルターはそう言うと、サディスに向かって右手を差し出す。

 サディスもそれに応じ、二人は握手して健闘を称えあった。

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