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しゃべれま10³ ――しゃべれません  作者: 1010


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8/9

第8話「ぼくは、なにもしてない」

深夜一時。


「FMまちかど、『しゃべれま10』のお時間です」


 同じ声。

 同じ静けさ。


「無理にしゃべらなくて大丈夫です。話せるところまでで」


 一拍。


「では、今夜の方です」


 紙をめくる音。


「ラジオネーム、ユウさん。17歳」


 椅子が、少しだけぎこちなく動く。


 声はない。


 小さな物音。

 紙が差し出される気配。


「……ありがとうございます」


 黒崎が受け取る。


「ユウさんは、少し話しづらいとのことで、今日は書いていただいたものをこちらで読みます」


 一拍。


「よろしいですか」


 小さく、衣擦れ。

 たぶん、うなずいている。


 黒崎が紙を整える。


「“ぼくは、学校でいじめられています”」


 静かな読み上げ。


「“クラスの人たちに、無視されたり、笑われたりします”」


 一拍。


「“先生は、気づいているけど、何もしてくれません”」


 スタジオは、音が少ない。


「“毎日、行くのがしんどいです”」


 黒崎は、一度区切る。


「……つらいですね」


 言葉は短い。


 ユウは何も言わない。


「ここからは、質問してもいいですか」


 反応はない。


 黒崎は、そのまま続ける。


「“いつから”と書いてありますが」


 紙をめくる音。


「“最初は、ちょっとしたことでした”」


 一拍。


「“誰かが、ある人のことをからかっていて”」


 黒崎の声は一定。


「“それが、だんだん大きくなっていって”」


 少しだけ間。


「“気づいたら、自分もその中にいました”」


 ほんのわずかに、読む速度が落ちる。


「“でも、ぼくは何もしていません”」


 一回目。


 黒崎は、紙から目を離す。


「……“何もしていない”」


 確認するように言う。


 ユウは反応しない。


「ここに、続きがありますね」


 再び紙を見る。


「“ただ、見ていただけです”」


 一拍。


「“笑ってはいません”」


 もう一拍。


「“何も言っていません”」


 静かに重ねる。


 黒崎は、紙を少し下げる。


「ユウさん」


 名前を呼ぶ。


 返事はない。


「“見ていただけ”と書いてありますが」


 一拍。


「そのとき、止めることは」


 言い切らない。


 沈黙。


 長い沈黙。


 黒崎は、紙に目を戻す。


「“怖かったです”」


 読み上げる。


「“自分が次にされると思って”」


 一拍。


「“だから、何もしていません”」


 二回目。


 同じ構造。


 黒崎は、少しだけ間を置く。


「そのあと、どうなりましたか」


 紙をめくる。


「“気づいたら、今度はぼくが同じことをされるようになりました”」


 静かな声。


「“理由は分かりません”」


 一拍。


「“ぼくは何もしていないのに”」


 三回目。


 ほんのわずかに、強く読む。


 黒崎は、紙を置く。


 数秒、何も言わない。


「……そうですか」


 短く言う。


「ユウさん」


 もう一度、名前を呼ぶ。


「“最初にからかわれていた人”のことは」


 一拍。


「覚えていますか」


 沈黙。


 ユウは何も答えない。


 呼吸も、ほとんど聞こえない。


 黒崎は、それ以上は聞かない。


「……ありがとうございました」


 紙を静かに置く。


 椅子が、少しだけ動く。


 足音。

 ドアが閉まる。


 スタジオに、何も残らない。


 黒崎は、しばらく何も言わない。


 そして、いつもの声で話し始める。


「この番組では、まだ誰にも言っていないことを募集しています」


 同じ言葉。


「無理にしゃべらなくていいです」


 一拍。


「……何もしていない、という形もありますから」


 赤いランプが、変わらず点いている。

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