表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しゃべれま10³ ――しゃべれません  作者: 1010


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第9話「私は、間違ってません」

深夜一時。


「FMまちかど、『しゃべれま10』のお時間です」


 同じ声。

 同じリズム。


「無理にしゃべらなくて大丈夫です。話せるところまでで」


 一拍。


「では、今夜の方です」


 紙をめくる音。


「ラジオネーム、あかりさん。28歳」


 椅子が引かれる。

 動きに無駄がない。


「こんばんは」


 はっきりした声。


「こんばんは。来ていただいてありがとうございます」


「はい」


 短く、整った返事。


「今日は、どんなお話を」


「仕事のことです」


「はい」


「看護師をしています」


 黒崎は頷く。


「どんなお話でしょう」


 一瞬だけ間。


「ある患者さんのことです」


「はい」


「急変して」


 言葉は簡潔。


「対応しました」


「うん」


「必要な処置は、すべてやりました」


 区切りがはっきりしている。


「結果として」


 一拍。


「助かりませんでした」


 静かに落ちる。


 黒崎は、少しだけ間を置く。


「そのときの判断について」


「問題はありません」


 即答。


 迷いがない。


「私は、間違ってません」


 一回目。


 強い言い方。


 黒崎は、視線を動かさない。


「どのような判断でしたか」


「マニュアル通りです」


「はい」


「優先順位も、適切でした」


「うん」


「時間的にも、遅れはありません」


 言葉が揃っている。


 黒崎は、少しだけ間を置く。


「誰かに、何か言われましたか」


「いえ」


 すぐに答える。


「特には」


 一拍。


「“特には”」


 黒崎が繰り返す。


「はい」


「ご自身では、どう感じていますか」


「適切だったと思います」


 迷いがない。


「最善を尽くしました」


 言い切る。


 黒崎は、ゆっくり頷く。


「その患者さんのことは」


 一拍。


「今も思い出しますか」


「仕事ですから」


 すぐに返る。


「日常の一部です」


 感情が乗らない。


 黒崎は、少しだけ間を置く。


「“仕事”として処理できていますか」


「はい」


 即答。


 ほんの少し早い。


「感情は」


「必要ありません」


 はっきり。


 一拍。


「邪魔になるので」


 言い切る。


 黒崎は、それを受ける。


「なるほど」


 一拍。


「そのとき」


 静かに続ける。


「迷いは、ありましたか」


 空気が、わずかに止まる。


「ありません」


 即答。


 でも、ほんのわずかに遅れる。


「本当に」


 確認のトーン。


「……ありません」


 今度は少しだけ低い。


 黒崎は、さらに一歩だけ踏み込む。


「もし」


 一拍。


「別の判断をしていたら」


 言い切らない。


 あかりは答えない。


 数秒。


 長い数秒。


「……仮定の話は、意味がありません」


 整った返答。


 黒崎は、頷く。


「そうですね」


 一拍。


「では」


 少しだけ言葉を選ぶ。


「“間違っていない”というのは」


「はい」


「結果も含めて、ですか」


 沈黙。


 今までで一番長い沈黙。


 呼吸が、わずかに乱れる。


「……結果は」


 ゆっくり出る。


「コントロールできません」


 一拍。


「だから」


 続ける。


「私は、間違ってません」


 二回目。


 少しだけ強く。


 黒崎は、それ以上は追わない。


「そうですか」


 一拍。


「そう思うことで、立っていられるのかもしれませんね」


 肯定でも否定でもない。


 ただ、形にする言葉。


「……はい」


 初めて、少しだけ揺れる。


「でも」


 黒崎が続ける。


「そのときの“判断”は」


 一拍。


「覚えていますか」


 あかりは、答えない。


 数秒。


 さらに数秒。


「……はい」


 小さく出る。


 でも、それ以上は言わない。


 黒崎も、聞かない。


「ありがとうございました」


 静かに締める。


「ありがとうございました」


 椅子が動く。

 足音。

 ドアが閉まる。


 静けさ。


 黒崎は、少しだけ長く間を取る。


 そして、話し始める。


「この番組では、まだ誰にも言っていないことを募集しています」


 同じ声。


「無理にしゃべらなくていいです」


 一拍。


「……正しいままでいられることも、ありますから」


 赤いランプが、変わらず点いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ