第4話「これが“ほんとの私”なんで」
深夜一時。
「FMまちかど、『しゃべれま10』のお時間です」
同じ声。
同じ始まり。
「無理にしゃべらなくて大丈夫です。話せるところまでで」
一拍。
「では、今夜の方です」
紙をめくる音。
「ラジオネーム、ミカさん。23歳」
椅子が軽く引かれる。
「こんばんはー」
明るい声。
少し高めで、よく通る。
「こんばんは。来ていただいてありがとうございます」
「こちらこそ、呼んでもらえて嬉しいです」
言葉が滑らかに出てくる。
「今日は、どんなお話を」
「えっと、まあ……仕事のことですかね」
「はい」
「SNSで発信してて」
「発信」
「インスタとか、動画とか」
「なるほど」
「フォロワーも、そこそこいて」
少し笑う。
「ありがたいことに」
「すごいですね」
「いやいや、全然です」
間髪入れずに否定。
でも声は軽い。
「どういう発信をされてるんですか」
「日常ですね」
「日常」
「楽しいこととか、好きなものとか」
「はい」
「あと、自分の考えとか」
一拍。
「“ありのまま”を出してます」
きれいな言い方。
黒崎は少しだけ間を置く。
「“ありのまま”」
「はい」
「それが、ミカさんの“ほんとの姿”ですか」
「そうですね」
迷いなく答える。
「これが“ほんとの私”なんで」
はっきりした声。
黒崎は、頷く。
「発信していて、つらいことは」
「ありますよー」
軽く笑う。
「コメントとか」
「どんな」
「まあ、いろいろ言われますね」
「例えば」
「作ってるって言われたり」
一拍。
「嘘っぽいって」
少しだけ間が伸びる。
「どう思いますか」
「いや、別に」
すぐに答える。
「そう思う人もいるんだなって」
「気にならない」
「全然」
少しだけ強調。
「だって、ほんとなんで」
二回目。
同じ言葉。
黒崎は、少しだけ視線を上げる。
「“ほんと”というのは」
「え?」
「カメラの前の自分と、そうじゃないときの自分」
一拍。
「違いはありますか」
ミカが少しだけ笑う。
「まあ、多少は」
「多少」
「でも、それって誰でもそうじゃないですか」
「どういう意味で」
「仕事の顔とプライベートの顔、みたいな」
「なるほど」
「だから別に、嘘ではないです」
言い切る。
黒崎は、少しだけ間を置く。
「じゃあ、カメラを回していないときのミカさんは」
静かに問う。
「どんな人ですか」
初めて、ミカが止まる。
「……普通ですよ」
少し遅れて出る。
「普通」
「はい」
「特に何も」
言葉が、少しだけ曖昧になる。
黒崎は、続ける。
「その“普通”は、発信されていますか」
「え?」
「見せている“ありのまま”に含まれていますか」
沈黙。
数秒。
「……見せる必要あります?」
少しだけトーンが下がる。
「必要」
「だって、つまらないじゃないですか」
言葉が少し速くなる。
「誰も見ないし」
「誰も」
「はい」
一拍。
「だから、今の形なんです」
少し強く言う。
「これが“ほんとの私”なんで」
三回目。
今度は少しだけ、硬い。
黒崎は、それをそのまま受ける。
「そうですか」
一拍。
「“見せているもの”が本当で」
ゆっくり言う。
「“見せていないもの”は、関係ない」
言い切らない。
ミカは、少しだけ笑う。
「まあ、そうですね」
「なるほど」
黒崎は頷く。
それ以上は踏み込まない。
「ミカさん、ありがとうございました」
「ありがとうございましたー」
椅子が動く。
軽い足音。
ドアが閉まる。
静けさ。
黒崎は、少しだけ間を置いてから話す。
「この番組では、まだ誰にも言っていないことを募集しています」
同じ声。
「無理にしゃべらなくていいです」
一拍。
「……見せているものだけが、本当とは限りませんから」
赤いランプが、変わらず点いている。




