表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しゃべれま10³ ――しゃべれません  作者: 1010


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第4話「これが“ほんとの私”なんで」

深夜一時。


「FMまちかど、『しゃべれま10』のお時間です」


 同じ声。

 同じ始まり。


「無理にしゃべらなくて大丈夫です。話せるところまでで」


 一拍。


「では、今夜の方です」


 紙をめくる音。


「ラジオネーム、ミカさん。23歳」


 椅子が軽く引かれる。


「こんばんはー」


 明るい声。

 少し高めで、よく通る。


「こんばんは。来ていただいてありがとうございます」


「こちらこそ、呼んでもらえて嬉しいです」


 言葉が滑らかに出てくる。


「今日は、どんなお話を」


「えっと、まあ……仕事のことですかね」


「はい」


「SNSで発信してて」


「発信」


「インスタとか、動画とか」


「なるほど」


「フォロワーも、そこそこいて」


 少し笑う。


「ありがたいことに」


「すごいですね」


「いやいや、全然です」


 間髪入れずに否定。


 でも声は軽い。


「どういう発信をされてるんですか」


「日常ですね」


「日常」


「楽しいこととか、好きなものとか」


「はい」


「あと、自分の考えとか」


 一拍。


「“ありのまま”を出してます」


 きれいな言い方。


 黒崎は少しだけ間を置く。


「“ありのまま”」


「はい」


「それが、ミカさんの“ほんとの姿”ですか」


「そうですね」


 迷いなく答える。


「これが“ほんとの私”なんで」


 はっきりした声。


 黒崎は、頷く。


「発信していて、つらいことは」


「ありますよー」


 軽く笑う。


「コメントとか」


「どんな」


「まあ、いろいろ言われますね」


「例えば」


「作ってるって言われたり」


 一拍。


「嘘っぽいって」


 少しだけ間が伸びる。


「どう思いますか」


「いや、別に」


 すぐに答える。


「そう思う人もいるんだなって」


「気にならない」


「全然」


 少しだけ強調。


「だって、ほんとなんで」


 二回目。


 同じ言葉。


 黒崎は、少しだけ視線を上げる。


「“ほんと”というのは」


「え?」


「カメラの前の自分と、そうじゃないときの自分」


 一拍。


「違いはありますか」


 ミカが少しだけ笑う。


「まあ、多少は」


「多少」


「でも、それって誰でもそうじゃないですか」


「どういう意味で」


「仕事の顔とプライベートの顔、みたいな」


「なるほど」


「だから別に、嘘ではないです」


 言い切る。


 黒崎は、少しだけ間を置く。


「じゃあ、カメラを回していないときのミカさんは」


 静かに問う。


「どんな人ですか」


 初めて、ミカが止まる。


「……普通ですよ」


 少し遅れて出る。


「普通」


「はい」


「特に何も」


 言葉が、少しだけ曖昧になる。


 黒崎は、続ける。


「その“普通”は、発信されていますか」


「え?」


「見せている“ありのまま”に含まれていますか」


 沈黙。


 数秒。


「……見せる必要あります?」


 少しだけトーンが下がる。


「必要」


「だって、つまらないじゃないですか」


 言葉が少し速くなる。


「誰も見ないし」


「誰も」


「はい」


 一拍。


「だから、今の形なんです」


 少し強く言う。


「これが“ほんとの私”なんで」


 三回目。


 今度は少しだけ、硬い。


 黒崎は、それをそのまま受ける。


「そうですか」


 一拍。


「“見せているもの”が本当で」


 ゆっくり言う。


「“見せていないもの”は、関係ない」


 言い切らない。


 ミカは、少しだけ笑う。


「まあ、そうですね」


「なるほど」


 黒崎は頷く。


 それ以上は踏み込まない。


「ミカさん、ありがとうございました」


「ありがとうございましたー」


 椅子が動く。

 軽い足音。

 ドアが閉まる。


 静けさ。


 黒崎は、少しだけ間を置いてから話す。


「この番組では、まだ誰にも言っていないことを募集しています」


 同じ声。


「無理にしゃべらなくていいです」


 一拍。


「……見せているものだけが、本当とは限りませんから」


 赤いランプが、変わらず点いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ