応える(琉依視点)
関さんと翠さんの結婚式は100人規模ですごく豪華だった。関さんが会社を継がないというだけで関さんの家の長男の結婚であることに変わらないし、しかも相手は城ヶ崎家だから関さんのお父さんの会社関係者や翠さんのお父さんの会社関係者が大勢集まった。そうそうたる顔ぶれで恐ろしいほどだった。
そんな結婚式の数日後、翠さんが美香と加代子さんと佳代子さんと桜さんで女子会をするというからこっちは男子会をしようと関さんの家に集まった。竜二さんと村岡くんは仕事で来れないけど。
「関さん結婚してもこの家なんですか?」
家に入って早速くつろぎはじめた木村くんが聞く。
「いずれは引っ越すだろうけど当分ここかな」
「ここでも十分広いですよね」
「そりゃあお前んちと比べたらな」
「うん、まあね。僕も結婚したら引っ越すよ。そういう昇は婚約者の桜さんと一緒に住む家はどうするの?」
「2人とも実家だからね。いつ頃どうするつもりなの?」
「ああ!?琉依も小林も俺の話は良いだろうが!!」
「俺はお前に惚れてるぜ!!」
「ちげえ!!」
木村くんが昇の真似をするとすぐに昇に殴られる。
「あのへたれな昇がねー。面白いよね」
「もう関さんも良いですから!!忘れてくださいよ!!」
「結局昇は桜さんのどこに惚れたの?桜さん自分の話はほとんどしてなかったんでしょ」
僕が聞くとみんなも興味津々で昇に聞く。
「な、なんとなくだよ!!文句あるか!!」
「ありますよ!!可愛いからですか!?」
「それは……」
「なんですか、可愛くないんですか!?昇さんの目は節穴ですか!?」
「可愛くないとは言ってねえだろ」
「じゃあ可愛いからですね!!」
「それだけじゃ……。んー……安心するから、か?」
「安心するからってなに?」
「美香ちゃんみたいに話が通じないわけでもなく」
「なにそれ美香の悪口!?」
「翠さんみたく偉そうで傲慢じゃねえし」
「翠は傲慢じゃないよ」
「加代子さんみたいに理詰められるわけでもないし」
「加代子の良いとこだよ」
「かこさんみたいに暴力怪力女でもない」
「確かにかこさんは間違ってないです!!恐ろしい人です!!」
「だから安心してそばにいたいと思うっていうか」
「もー!!ちょっと!!もっと他にないの!?」
「あとは飯がうまい」
「そりゃあお料理教室に通ってましたからね!!昇さんなんかのために!!」
「うるせえ。あとは……なんだ?やっぱ安心するってのが一番じゃねえか?美香ちゃんと違って頭が良くて……抜けてるけど、で、加代子さんとも違ってそれをペラペラ説明するわけでもなく簡単にこういうことですねってだけで続きを促してきたり、ああ、話のペースが良いな。早くもなく遅くもなくちょうど良い。で、好きだっていうのに自分の話しなくて変なやつだなって思って、どんどん気になってモヤモヤしてきてさりげなくいつも運転してくる人の名前を教えてくれただけとかでも嬉しくなったり」
「なにそれー。運転手さんって桜さんの話じゃないじゃん」
「良いんだよ、小さい時からいてくれてるんですって言ってたんだから桜の話だろ」
「けど桜ちゃんがすぐに告白したのも鈍感な昇が意識するきっかけになってたし自分のことを話さなかったのも結果的に良かったのかもね」
「え、もしかしてそれが桜さんの作戦?」
そうだったのか、桜さんはやっぱり翠さんたちの仲間だな。
「どうだろう。でも昇に告白したのも早く言いたかっただけだろうし昇の話ばかり聞いてたのは桜ちゃんが昇のことをたくさん知りたかったからじゃない?それに桜ちゃんは生徒会長だったからみんなの前で話してたりしたけど普段は聞き役でいることの方が多いらしいからね」
「へー!!桜ちゃんの生徒会長って見てみたかったですね!!」
「木村、桜さんが通ってたのは女子校だよ」
「そうですけど!!」
「美香も言ってたよ。桜さんはみんなに愛されるすごい生徒会長だったんだってー」
「ふーん」
「あれ?昇興味ない?」
「いや、そうじゃないっすけど。すげえとは思うけど桜は違うっていうか」
「確かに桜ちゃんはリーダータイプではないからね。サポートの方が合ってるかも。もし翠たちが同級生だったら副会長とかになってたかも。努力して生徒会長になっていたけど桜ちゃんの本質は誰かを支えることに向いてるんだろうね」
「あ、そうそう!!見てくださいよ!!」
そう言って木村くんが鞄から取り出したのは地方紙。昔うちの会社が載った地方紙だ。これがどうしたのかと思ったら桜さんの顔写真が載っていた。
「西園寺家桜さま婚約発表って書いてますよ。芸能人とか偉い人みたいですね」
「実際西園寺は有名だからね。地方紙には載るかー……やけに会社のことが詳しく載ってるね」
小林くんが読み上げるとレヴィールの仕事や立ち上げたばかりの時の仕事まで載ってた。
「僕がインタビュー受けたんです!!」
「「「「やっぱり」」」」
昔載った時木村くんだけ顔写真を撮ってインタビューもほぼ任せきりだったからその縁で聞かれたんだろう。
「IT企業の社長って書かれるとなんだかすごい人に嫁ぐんだってイメージになるけど良いのかな。成長途中のとか書いた方が良かったんじゃない?」
「あと荒っぽくてへたれでってのも載せた方が良かったかも。これじゃ詐欺になっちゃうよ」
「そうだね。バレたら刺されたりしないかな。昇気を付けなね」
「怖いこと言わないでください関さん!!ああ……すげえ大事になってダルい……」
「そりゃあ仕方ないですよ!!」
「で?木村くん、これとさっきの話とどう関係するの?」
「だって昇さんパーティー出る気になったじゃないですか。これでようやく社長らしくなるじゃないですか。桜ちゃんのおかげで」
「そうだね。桜さんがいるから僕社長代理しなくて済むし良かったよ」
「でも不思議な子だよね。大人しそうな見た目で聞き上手でサポートタイプなのにぐいぐいくるんだもん」
「それは翠たちと仲良くなってかこちゃんの影響を受けたからじゃない?」
「かこさんの暴力的なとこは影響受けなくて良かったですね昇さん」
「ああ、そうだな……」
「昇はお嬢様とは違う人と素朴な生活をしたいって言ってたのにお嬢様の中のお嬢様っていう桜さんが相手になるなんて想像できなかったよ」
「僕は桜にちなんだ子だと思ってたから当たってたよー」
「桜にちなんだってなんだよ」
「ほら、昇大学生の頃から桜見てぽやーってしてたでしょ」
「おー!!桜ちゃんに出会うのを待ってたんですか昇さん!!ロマンチックですね昇さんのくせに!!」
「なんでそうなんだよ」
「とにかくパーティーに慣れてる桜ちゃんが社長夫人になってくれて来月から人も増えてここからぐぐっと急成長しそうですね!!」
「社長夫人になるのはまだ先だけどね」
「いつ結婚するんですか?」
「桜が初めて付き合うから付き合うっていうのを目一杯楽しみたいんだと」
「じゃあもう少し先だね」
うんうん、桜さんは立派な社長夫人になるよね。だけど美香もあっという間にパーティーに馴染んでるしレヴィールだって美香がきっかけだったからもっと美香も褒めてって言う。
「美香ちゃんはすごい!!すごい……んですけどなんでですかね、美香ちゃんと桜ちゃんは同い年なのに違いますよね」
「どっちも不思議ちゃんなのは同じだけどね」
「桜さんが大人っぽい雰囲気をしてるからじゃない?」
「確かにめっちゃ可愛いのに気配り上手だからあんま年変わらなそうなくらいなのに……ああ、美香ちゃんは中1の時から知ってて妹みたいな気分だからかもしれないです」
「中学1年生だったのに来年20才だよね。長かったようなあっという間だったような……。俺は娘の成長に感慨深くなる気分だよ」
「美香ちゃんの精神年齢いまだに幼稚園児ですしね。関さんの子供だとしてもあり得ます」
「うわー……俺美香ちゃんが子供だったら苦労するから嫌だ」
「ちょっと、昇だって桜さんと5才差だからね」
「桜は美香ちゃんと違うからな。5才差をほとんど感じねえ」
「でも美香は大人っぽくなってしっかりしてるし偉いんだよー」
「しまった、今日は琉依さんの美香ちゃんのろけをブロックできると思ってたのに結局こうなっちゃいました」
「なんでブロック?ねえ、美香がまた最近大人っぽくなったと思わない?」
「そうだな、中1が20才だもんな……」
「うんうん、本当に兄気分だよ」
「娘が大きくなるってこんな気分なんだねー」
「琉依さんが妹な気がするってってやってた頃が懐かしいですねー」
「一丁前に嫉妬してるくせに兄としてかもとか言ってたな」
「懐かしいねー。酒飲みながら話そうか」
みんなが嫌味みたいに言ってくるけど僕はお酒を飲みながらたっぷり美香との思い出に浸って、数時間してから解散になった。
そして家に帰ると美香が帰ってご飯を作ってくれていたから美味しいご飯を食べた。そのあと話があるって言われて食器を片付けてお風呂に入る前に話をすることにした。なんだろう、改まって。悪い話かな良い話かなって思いながらベッドに2人で座ると美香が一言保育士になるのやめると言った。一瞬何を言われたのかわからなかったけど慌ててどうしてって聞く。僕何かしちゃったのかなって思って思い付くことはたくさんある。平日に学校で一生懸命勉強してるのに朝ご飯もお弁当も毎日作ってくれて学校が終わったあとは真っ先に帰ってきて買い物をして夜ご飯を作ってくれる。食器を洗うのを手伝う時もあるけど僕が遅くに帰ってくるとゆっくり休んでって言われてパソコンか本を見てると気付いたら眠ってて肩にはブランケットがかけられて美香がお風呂に入っていることも何度もある。休みの日は家事をしながら勉強の復習をしたりパーティーやお茶会に参加する。美香は平日も土日も大変だ。保育士になっても学校が仕事になる以外変わらないだろうと思って保育士になるのを諦めたと考えるのが自然だ。美香は考え込んだあと内緒だって言った。どうしよう。せっかく美香が見つけた夢だったのに。一生懸命頑張ってるのに。僕のせいで諦めさせちゃう。なんて言おう、どうしたら美香に夢を諦めさせないでいられるんだって考えてると美香が言う。応援してくれてたのにごめんね、あと1年学校に行くから満足に琉依さんを支えてあげられなくてごめんねって。そう言ってお風呂に入ってくるって言って久しぶりにカーテンをしめてお風呂に入りにいった。僕はまたぼーっとしていたけど急いで電話をかける。
「関さん関さん!!」
『琉依、もう美香ちゃんの話はお腹いっぱいなんだけど』
「関さん!!美香が保育士になるのやめるって!!どうしよう!!」
『ああ、答え出たんだ?』
「関さん知ってたんですか!?どうしよう、また美香を悩ませてたの……?」
『迷ってるってだけ翠から聞いてただけだよ』
「美香理由を言ってくれなかったですけどあと1年学校に行くから満足に僕を支えてあげられなくてごめんって言ってました。パーティーやお茶会が負担になっていたんですか?僕と一緒に暮らしてパーティーに参加するようになって僕が仕事でぐったりして帰ってくるのとかパーティーで会社の関係者と話してるのを見て仕事しないで僕を支えなきゃって思ったのかも……。どうしよう……僕のせいだ」
『琉依、俺は聞いてないけど村岡なら詳しく聞いてるかもしれないよ』
「そ、そうですか?」
『多分ね。でも琉依、それってそんなに悪いこと?』
「悪いことですよ。だって僕のせいであんなに頑張ってるのに諦めさせちゃうなんて……」
『でも美香ちゃんにとっては琉依が一番なんじゃないの?どう思ってその答えを出したのかはわからないけど美香ちゃんの中心は琉依だよ。美香ちゃんにとって大切な人がたくさんいるとしても琉依のことを思って考えた結果なら琉依はそれに応えてあげれば良いんじゃないの?美香ちゃんはそんなに頑張ってなりたかった保育士をやめてでも琉依を支えたいと思ったんだから』
曖昧な返事をして僕は村岡くんに電話をかけて知っていたか聞く。
『知ってはいますけどそんな最近の情報は知りません』
「村岡くんホットラインは?」
『今は月1です。最後に聞いた時はまだ何も決まってなかったですよ』
「そうなんだ。ねえ、どうしたら良いの?僕、諦めるのやめてって言えば良いの?」
『今どう思ってやめるって決めたのかは知りませんけど琉依さんが言ったところで変わらないと思います』
「どうして?」
『美香さんは後悔しない選択をしたからです。いろんな人に自分で考えて自分で後悔しない選択をするように言われたそうです。考えを口に出してみたり相談するのは良いけど答えは自分で見つけるんだと言われて考えていましたから、美香さんが決断したなら考えに考え抜いた後悔しない選択です。琉依さんだからって言われて揺らいだりしないと思います。美香さん頑固ですし』
僕はまた曖昧な返事をして電話を切った。美香が後悔しない選択……美香がたくさん考えて出した答えが保育士になるのを諦めて僕を支えること。もしかして保育士にならないなら僕の稼ぎだけで生活することになると思ってあんなに節約してくれていたのかな。あんまり稼いでないと思われてるみたいだったし。そう思うとそんな気がしてきた。美香の気持ちが変わらないなら僕は美香になにができるんだろう。
お風呂から上がった美香と入れ違いでお風呂に入って出ると美香を抱き締めながら考えて思った。美香が夢を諦めたことを後悔しないくらい幸せにさせたい。美香がいろんなことを我慢しなくても良いようにたくさん稼いだら良いんだ。計算上では予定通りお金が貯まる予定だったけどこれじゃ足りない。美香に不自由させないくらい貯金しておかなくちゃ。結婚してからも仕事をするんだからと見積もっていたよりももっと貯金をして、それでも早く美香と結婚できるようにしないと。また去年の10月のことを思い返す。僕がいろいろ説明して結婚できないんだって思って落ち込んでいた美香を早くお嫁さんにしてあげたい。




