幻
「思ったより、早かったね」
セナがポツりと呟いた。なんだかその表情は懐かしいような気がした。
「僕を責めに来たんだよね、僕を責めて当然だよ。だって僕のせいでデビュー出来なかったんだから」
風が横切る。身体がさらに冷え込んでいく。
「僕がセナをどうかしたところで僕がアイドルになれるわけじゃないだろ」
「あのね、凡人の僕にもわかるよ。スター性があるっていいことばっかりじゃないってこと」
セナが泣きそうな顔をしたような気がした。
「……僕にはさ、辛いことがたくさんあって、その間に1つくらいいいことがあって、僕は幸運なんかじゃない。僕は心から自分の不幸を信じていて、僕は心から自分の幸運を信じてるんだ。それってね自分のことを心から信じてるってことなんだよ。僕はせいせいするほど自分自身を愛してるんだ」
「……だけどさ、僕がどんなに頑張ってもね、僕はただの偽物なんだ、僕があいつになれることはない。僕はね、ただの幻なんだよ」
わからないが、僕はセナという人間を理解をした事がなかった。それは僕以外の人間にも当てはまるがそういうことではない。
「確かにセナのせいで合格出来なかった。
事務所の人に聞いたよ、
元々僕はオーディションに落ちてたんだね。
セナがお願いして合格になったって聞いた。
僕はやっぱりダメだったんだね、……セナの隣には相応しくなかったんだね」
「セナのこと大嫌いだけど、大好きなんだ。だって思い出す記憶はいつだってセナの横顔越しの記憶なんだから」
僕は知らなくてはならない。セナという人間について。
「もう言いたいことはない?
……明日撮影で朝早いんだ。帰るね」
「…セナ……」
彼は1度も立ち止まることはなく、振り返ることなく、僕の前から去ろうとしていた。
僕にもわかる。
きっともうセナに会うことはないんだって。
「……っ、待ってって言ってるじゃん!!!」
僕がセナの手を掴む。
彼は驚いた表情をしていた。
「……あのさ、うちに来ない?
というか……僕と一緒に住みませんか……?」
セナの顔を見ると、何を言ってるんだと言いたげな表情をしていた。そんな表情でも凍りつくくらいに、ゾッとするくらいに美しかった。
「セナがなんと言おうと、……練習生時代辛いことの方が多かったけど、何よりね、すっごく楽しかったんだ……」
「僕は本当はなかった挑戦権を得て、頑張って、頑張ってダメだったんだ。
それにさ、僕がセナみたいなアイドルだったら、きっとセナが反対したところで、僕はデビューしてた!
僕は選ばれなかったんだよ。……ただそれだけなんだよ」
「セナのこと大嫌いで大好きなんだ………………」
僕自身も何を言っているんだろうと、困惑を表情が浮かんでいることだろう……。
このままではセナという人間が、この世界からいなくなってしまうのではないか……、そんな予感が確かに僕の中に存在していた。
彼の隣が似合う日なんて来ないけれど、ただの一般人に成り下がった僕だけど、彼の隣に並ぶための努力を惜しむなんて、僕の選択肢にはなかった。
喜んでセナの踏み台になってやろうじゃないか……。
アイドルとしてセナの隣に立つ日はないけれど、
どんなに突き放されたとしてもセナを知りたいと思った。




