アイドル
僕とセナの出会いはオーディション会場だった。といっても僕は参加者で、セナはお手本としての登場だったけれど。
簡単な面談をして、好きな歌とダンスを披露の流れだったのだが、当日に、追加で指定する楽曲のサビワンフレーズをお手本通りに披露する課題がサプライズが発表された。全く嬉しくない。そこに登場したのがセナだった。
説明するまでもないが、それはそれは素晴らしいという言葉が塵の様な軽さに感じるが、素晴らしいという素晴らしい言葉がぴったりでもある出来だった。どれだけ努力しても僕らは到底叶うことがなく、死んでいくんだろう。彼は神様が作ったアイドルになるべくして生み出されたアイドルなのだ。
不合格を確信してオーディション会場を後にした。母親からオーディションが終わったら、連絡をしてとメッセージが来ていたけれど、1人でファミレスに向かった。哀れな僕。無表情でポテトを貪っていたら、喉に詰まらせそうになった。ファミレスに似つかわしくない人物が僕の目の前を通りすぎようとしたからである。
「え!!君大丈夫!??」
「……けほっ、……っ大丈夫です!」
「本当に……??ドリンク入れてこようか?……、ってあれ、君オーディション会場にいなかった??」
……なんで覚えてるんだよ、なんで僕の夢をついさっきへし折った奴に覚えられなきゃいけないんだよ。逆恨みなのはわかっているし、心配してくれているのもわかっているが、恨めしくて今にも睨みつけそうになった一秒前に、自分が名前の順の関係で、席が一番前だったことを思い出した。僕じゃなくても、一番前の列の奴は嫌でも目に入るか……。
店員さんも大丈夫ですか?と気遣ってくれたが、今の僕にはどんな優しさも心にシミて痛かった。
「……店員さん、相席に変更で」
僕に同意をとることなく、綺麗なフォームで僕の向かい側の椅子に腰掛ける。世界は彼に跪くのだ。モーセのように。
「ファミレスのドリンクバーっていいよね!レッスン終わりってさ無限にドリンクが飲めるゾーンに入るから、僕にはとんでもない救世主だ!疲れた身体に炭酸がグッとくるんだよね、本当に神立地のファミレスだよー、君と同じように僕もいつもこのファミレスに吸い込まれちゃうんだよね」
僕の心の内を知ってか知らずか、僕の話す隙を与えないかのような饒舌な口ぶりだ。
というか、このファミレスに、吸い込まれた理由はこいつとは天と地ほど全然違う。イライラしながら追加で口にポテトを放りこみ続ける。
「レッスンで忙しいって羨ましいですね」
きょとんとした顔をしたかと思えば、くるくると表情が移り変わっていく。そして静寂が訪れた。彼の前ではどんな雑音も彼を彩るBGMだったが、このときばかりは、ただの不快な音で、心臓の音がやけに大きかった。てっきり嫌味かと思っていたが、違ったのか。さらに居心地が悪くなる。僕が悪者みたいじゃないか。いや、実際その通りなのだが。
彼の顔を再びそっとみる、そこには窓からの夕日がドリンクに反射し、さらにその光が彼の顔を照らしキラキラと発光していた。彼の瞳を一番綺麗に覗き込むことが出来たのはこの時が一番だった。彼の瞳はブラウンなのに、何故かサファイアだと思ったのを覚えている。
「僕、セナっていうんだ 君の名前は……?」
その後の流れは冷や汗が止まらず、ほとんど覚えていない。LINEを交換して、解散し、その一週間後に合格通知が届いた。
2ヶ月後から東京での練習生としての活動がスタートした。




