第2話-2 君を助けたい
◇◇◇
捨て身だったのは事実だ。
が、希望をまったく持っていなかったわけでもなかった。
この日の日中、自分は探索中にブルーベア2頭に相次いで遭遇し、死をリアルに感じるほど追い回されていたのだ。
そして――
いや、そのときのことは今はいいだろう。
とにかく自分はそれを逃げ延び、レベルが20まで上がり、剣スキル『スマッシュ』も得ていたのだ。
勝負には、なるかもしれない。
それだけで、立たない理由はもうなかったと思う。
このときずっと後方から、逃げたクラスメイトたちの新たな悲鳴と、ブルーベアの雄叫びが聞こえた。
後ろから別のブルーベアが現れたようだ。
状況はもはや絶望的だが、もう振り向くこともせず、気にすることもなかった。
「相良くん!」
気持ちを取り戻したのか、村尾さんが叫ぶ。
これにも振り向かず、村尾さんに左の手のひらを後ろ手に向けて、下がっているように伝える。
精神集中し、『スマッシュ』を強く意識する。
眼前に半透明のパネルが広がり、映し出されたステータス画面の右端、『スマッシュ』の文字が明るくなった。
その横の『2/2』の表示から、使用回数は2回と分かる。記憶の通りだ。
剣はまだ左の腰に差したまま。
グッと腰を落として、右手で剣の柄を強く握る。
思い切って踏み込み、横薙ぎの居合切り、一閃――
手応えはあった。
下がって剣を戻し、すぐ構える。
一撃を浴びたブルーベアがよろめく。
視界の右上に『ブルーベア Lv67』の表示が現れ、その下にHPゲージが表示された。
ゲージは左にスーッと下がっていき、しかし半分の、少し手前で止まった。
(足りないか……)
しかし考えている暇はない。
すぐに腰を構え、剣の柄を握って、もう一発だ。
ブルーベアはまだ動き出せていない。
スマッシュを発動。
踏み込んでの居合切り、二発目――
これもヒット。
HPゲージはさらに左に下がっていくが、予想通り、残り1割、というところで止まる。
しかし瀕死に近づいたブルーベアの動きは鈍いようだ。
あとは通常攻撃で削るしかない。
中1の頃から今まで、部活の代わりに月に1度だけ通っている居合道場の、その経験だけが頼みだ。
すぐにいく。
同じ姿勢から踏み込み、抜きざまに横薙ぎの一撃、そのまま上段からの斬り下ろしでもう一撃――
手応えはあった。
が、かなり弱い。
それでも1割の半分は削れた。
あと1回だ。居合切りからの連撃をあと1回。
ここでブルーベアが、最後の力を振り絞ったか、右手を、自分の頭を掴むように突き出してきた。
居合切りは間に合わず、両腕を交差してブルーベアの右手をブロックする。
それは間に合ったが、強烈な衝撃と圧力だ。
これだけで、自分のHPの3分の2が消えた。
これがレベル67とレベル20の差か。
ブルーベアは右手を引いて、もう一発を狙ってくる。
ダメだ。
間に合わない――
◇◇◇
そう思った時だ。
自分のHPゲージが光り、ほんの少しだが回復しているのが見えた。
よく見ると、半分以上まで戻っている。
何が起きた?
するとまた光って、少し回復する。
断続的に、HPが少しずつ回復しているようだ。
戸惑っている暇はない。
たぶんもう1回、チャンスができた。
タイミングはだいたい分かった。
ブルーベアの右がくる。
両腕でブロック。
HPゲージが左側ギリギリまで下がるが、ここで止まらず懐に飛び込む。
HPが激減したせいか動きがかなり重いが、それも気にしない。
腰を落として、右手で剣の柄を強く握る。
腕の力で斬らない
剣の重みを、刃身に真っすぐ乗せるように、振り抜く
そして振り抜く
居合道場で学んできたことをトレースしながら、連撃を浴びせた。
すぐに下がって納刀し、次の動きに備えるルーティーン。
ブルーベアのHPが左いっぱいまで下がり、そして消える。
それと同時に、『ブルーベア Lv67』の表示も消えた。
構えを解いて、力を抜く。
なんとか、守れたようだ。
彼女を。
◇◇◇
しかし振り向くと、予想外の状況になっていた。
村尾さんがその場で倒れているのだ。
――魔獣からは確かに、守ったはずなのに。
駆け寄ってしゃがみ、抱き起こすようにして、自分の左脚に村尾さんの背中を乗せる。
顔に血の気が全くない。
ショックが強かったせいかもしれないと思ったが、それにしては何だか様子が変だ。
極端な酸欠のように、呼吸がかなり荒い。
後方にいるはずのもう一頭も気になるが、まずは村尾さんだ。
脈を確認するため、苦しそうな呼吸を繰り返す村尾さんの左手を取ると
「あ……」
小さく声を上げる。
そして、何か求めるようにその手を動かして、自分の右手を握ってきた。
「う……」
また声を上げた。
このとき、気がついた。
自分のステータス画面のMPゲージが、少しずつ下がっているのだ。
村尾さんは目を閉じたままだが、気のせいか、顔に赤みが戻ってきているように見える。
村尾さんは、指と指を絡めてきた。
不必要と思えるほど、必死に。
やがて、がっちりと握り合う感じになった。
「あ!――」
自分のMPゲージの減り方が早くなった。
村尾さんの顔が、みるみると血色を回復していく。
「……」
何となく、ここまで起きたことが分かってきた。
とにかく、今はこうしているのがいい。
落ち着いてきたところで視線を上げて、後方の様子を確認する。
目を凝らすが、ブルーベアも、クラスメイトたちもそこには見えなかった。
◇◇◇
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