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Color.3-2 看病(下)

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 朝、自分の部屋。

 ベッドに体を起こして、朝食を食べている。

 お腹のところに置かれたお盆には、パンを柔らかく煮たおかゆと、リンゴのコンポート。

 パンがゆはさっぱりとした、薄い塩味。コンポートははちみつで甘く味付けられている。

 そしてベッドの横には、濃い茶色のワンピースにベージュのエプロンの村尾さん。

 椅子に座って、膝のお盆で同じメニューの朝食をとっている。

 ちなみに、自分はもうキッチン部屋で食べられると言ったのだが、村尾さんの許可が下りなかった。

 

 「食べられるようになって、よかったです」

 

 まだゆっくりとだが、食べ続けている自分を見て、村尾さんが言った。

 

 「うん。ありがとう。……昨日はごめんね。全然食べられなくて」

 

 「いえ。仕方ないですよ」

 

 そう言って、パンがゆと、そしてコンポートを順番に口に入れる。

 少し吟味するような表情。

 

 「これ……結構うまくできたかなって、思うんですけど?」

 

 そう言って自分をじっと見てくる。

 リンゴのコンポートは初めて食べた。パンがゆはときどき食べるが、甘くないこの味付けは記憶にない。

 

 「うん、どっちもすごく美味しいと思う。食べやすいし」

 

 柔らかさも優しい味付けも、まだ本調子じゃない自分にすごく合っている。

 

 「本当に? よかったです!」

 

 嬉しそうな表情。

 が、すぐ神妙な顔に変わる。

 

 「ホントは、リンゴはすりおろしたかったんですけどね」

 

 「ああ。……そういえば、おろしガネ……だっけ? あれ、見ないね」

 

 「そうなんですよ」

 

 「今度、自作してみようか? おろしガネ」

 

 「あ。いいですね。カブとか、大根とか」

 

 何だかとても落ち着く。

 こうやって、顔を見ながら一緒に食事する時間。

 考えてみれば、たったの一日ぶりなのだが。

 

 二人とも食べ終わり、村尾さんが空いた食器を下げていく。

 それくらい手伝おうとしたのだが、また許可が下りなかった。

 

 「お茶持ってきます。飲んだら寝てくださいね」

 

 そう言って村尾さんは部屋を出て行った。

 これは、今日はずっと、何もさせてもらえなさそうだ。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 昼になり、村尾さんは買い物に出掛けた。自分はひとりで留守番する。

 ここでまた熱でも出したら色んな意味で大変なので、おとなしくベッドで横になっていると、あんなに眠ったはずなのにまた眠ってしまった。

 まだ本調子ではないということだろう。

 しかし、寝込んでからもう二日。

 討伐ミッションは三日休んでいる。

 今日のうちに体調を戻して、明日からはそろそろ活動を開始しないと。

 

 やがて買い物を終えて帰ってきた村尾さんが、部屋に昼食を運んで来てくれた。

 彼女の分もあるので、また一緒に食べてくれるようだ。

 今度は甘く味付けたパンがゆに、薄味の野菜スープ。

 昼食も体に優しそうなメニューだ。

 

 ありがたく頂きながら、合間を見て村尾さんに話してみた。

 明日あたりからそろそろ、と――

 しかし、

 

 「だめです」

 

 きっぱりと否認されてしまった。

 

 「あ……あの」

 

 「あんなに熱出したんですから」

 

 そう言われてみると、明日からは確かに焦りすぎかもしれない。

 じゃあ、明日もう一日休んで……

 しかし村尾さんは

 

 「あと三日、家で休んでください。それから様子を見て、考えましょう」

 

 「……」

 

 あと三日。

 ……。

 自分の体を大事に考えていてくれることはありがたいのだが、あと三日、今日までの三日と合わせて六日の休業となると、落ち着かない。

 決して困窮しているわけではないが、安定して稼げる仕事ではない。

 体が第一なのは分かってはいるが……。

 

 そんな自分の逡巡を見て取ったか、

 

 「そう言っても、相良くん、気にして休めないだろうなと思ったんで……」

 

 村尾さんはスッと顔を上げた。

 

 「明日から三日、お仕事してきます。私」

 

 え?

 

 「お仕事って……村尾さん一人で?」

 

 「はい」

 

 「え~と、それって……ギルドのミッション?」

 

 「そうです」

 

 いや。

 それこそダメだろう。

 村尾さんは支援役として優秀だと思うが、単独での戦闘となると命懸けになってしまう。

 

 「大丈夫ですよ。討伐ミッションじゃないです」

 

 自分の不安を先回りするように、村尾さんが言った。

 

 ああ。

 そうなのか。

 確かに冒険者ギルドには、戦闘系ではないミッションも出る。

 フィールド調査や整備のほか、街の人たちからの依頼が出ることもある。

 しかしそういったミッションは報酬もかなり低めなので、あまり真剣に見たことはなかった。

 

 「どんな依頼なの?」

 

 「え~と、『宿場通り』の宿の奥に、大きな食堂があったじゃないですか」

 

 「ああ。あるね。……確か『餓狼亭』だったっけ」

 

 確かに昼は食堂だが、本業は夜の酒場だろう。

 

 「あ。そうです。『餓狼亭での五時間の接客』っていうミッションです」

 

 うお。

 

 「時間は夕方三時から夜八時まで。ゲートの門限超過は申請済み、だそうです」

 

 ……

 結構遅い時間だ。酒が入った客が主体だろう。

 まあ確かに、怪我をしたり命を落としたりする危険はなさそうだが……。

 

 「接客、というと……?」

 

 一応聞いてみる。

 

 「お客さんのオーダー取ったり、配膳したり下げたり、だそうですよ」

 

 なるほど。あれか。

 その通りで間違いないなら、村尾さんに向いてる依頼かもしれない。

 野暮かとも思ったが、報酬額を聞いてみた。

 村尾さんが語った額は、思ったよりは多かった。

 討伐に例えれば、1日当たりビッグファング1頭分というところか。

 もちろん物足りないわけだが、命の危険がないことを考えれば上等といえる。

 しかし、村尾さんの話にはまだ先があった。

 

 「で、さっき出掛けた時、お店の人にあいさつしてきたんですけど」

 

 「『餓狼亭』の?」

 

 村尾さんは、はい、と答えてから

 

 「私のこと知ってたみたいで」

 

 「そうなんだ?」

 

 宿屋暮らしだった頃はご近所だったので、そういうこともあるかもしれない。

 

 「で、言われたんですよ。『あの故郷の正装で接客してくれたら、報酬を5倍にするよ』って」

 

 うお?

 

 『故郷の正装』というのは、村尾さんがこの世界に持ってきた高校の制服のことだ。

 紺のブレザーに、膝丈のスカート。

 首元のリボンとスカートはお揃いで、白が目立つチェック柄。

 

 「なんかちょっとアレですけど……いいですよね? エプロンもするし」

 

 え?

 着るの?

 

 それになんで知られてるんだろう。制服。

 村尾さんが外で制服を着て歩いたのは、初日の一度だけのはずだが。

 意外と有名だったりするのだろうか。

 

 「いや、どうだろう。何て言うか、ちょっと見せ物っぽい? ……とか」

 

 正直に懸念を伝える。

 

 「分かってますけど……」

 

 村尾さんは何やら決然とした表情になる。

 

 「でも、5倍ですよ?」

 

 5倍……

 

 二人でしばらく見つめ合う。

 昼下がりの、ちょっと気だるい日差しが差し込む自分の部屋。

 

 「あの……終わる時間に、迎えに行くから」

 

 「はい。そこは……お願いします」

 

 村尾さんが前向きなら、ここはそれを尊重しよう。

 そして。

 自分は三日できっちり、体を治さないと。

 

 

 

  ※※※

 

 

 

お読み頂きありがとうございました。

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