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君の部屋へ2

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 村尾さんの部屋で、ローテーブルを挟んで2人。

 狭いテーブルをいっぱいに使って、教科書と教材、ノートを広げていた。

 一応今日は「宿題を一緒にやる」という建て付けになっていた。

 

 しばらくは一緒に、真面目に宿題に取り組んだ。

 髪を後ろで縛った村尾さんは、静かにペンを走らせている。

 ちなみに、自分は学校の成績は悪くないと思っているが、村尾さんは自分より上だ。同じ文系志望でもあるので、同じ大学を目指すなら、自分の方がより頑張らないといけないだろう。

 

 小一時間ほどして。

 村尾さんがシャープペンシルをパタン、とノートに置いた。

 パサッと髪を解いてから、う~ん、と声に出して両腕で伸びをする。

 区切りが付いたのだろう。

 床に降ろしたお盆のお茶に手を伸ばし、あまり残っていないお茶を口に運ぶ。

 そして、自分のノートを覗き込むような仕草で、

 

 「進んでます?」

 

 そう聞いてくる。

 そして、フッと自分の顔を見た。

 若草混じりの淡い瞳が、何かを期待するように見つめてくる。

 この表情。

 あれだ。

 あの世界では何度も見た。

 確かにそろそろ、お昼どき。

 

 「うん、だいたい。……そろそろお昼にする?」

 

 「はい!」

 

 嬉しそうだ。

 

 「お昼は、どうするの?」

 

 お金を使わない、が今日の方針でもあるので、家で何か作ります、という話になっていた。

 

 「パスタを茹でようかと。あとサラダ。……いいですか?」

 

 「うん。もちろん」

 

 ご馳走になる身だ。是非もない。

 そして

 

 「自分も、手伝っていい?」

 

 あまり家の中をうろつくのもどうかと思うが、ただご馳走になるのは心苦しいので、聞いてみる。

 

 「はい。相良くんがよければ」

 

 大丈夫らしい。

 片付けをして、それから二人で部屋から廊下へ出た、ちょうどそのとき。

 

 すぐ脇の玄関の方で、ガチャガチャと鍵を開ける音がした。

 

 「え?――」

 

 驚く村尾さん。

 

 ガチャリ――

 

 玄関ドアが開いたと思ったら、突然、一人の女子が現れた。

 

 オーバーサイズの白のプリントTシャツに、黒の膝上ショートパンツ。

 肩から斜めに黒のボディーバッグを掛けている。

 玄関で靴を脱ぎながら

 

 「お姉ちゃ~ん! 私もお昼ご――」

 

 顔を上げると同時に、ピタリと静止。

 そして自分と、村尾さんと、そしてまた自分をゆっくり、順番に見る。

 

 目を見開いて立ち尽くす村尾さん。

 自分も両手にお盆を持ったまま、棒立ち。

 

 

 家の中は、3人になった。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 場所を移動して、ダイニング。

 食卓に3人で座って、とりあえずお茶を飲むことにした。

 隣り合う自分と村尾さんの正面に、突如帰宅してきた村尾さんの妹。

 名前は朋香さん、中学3年ということだった。

 背格好は村尾さんと同じくらい。顔の造作はあまり似ていないが、薄めの髪色と色白の肌、瞳の色が淡いところも同じで、雰囲気はそっくりだ。

 

 「早かったね。……か、帰ってくるの、夕方って言ってたよね?」

 

 ぎこちない口調の村尾さん。

 

 「あ、うん。友達が都合悪くなって」

 

 ということだったらしい。

 が、妹さんは、

 

 「あのう――」

 

 そんなことはどうでもいい、という様子で、自分たちを交互に見ながら

 

 

 「付き合ってる……ですか?」

 

 

 どちらにともなく聞いてきた。

 震源地を直撃。

 ドキリとした仕草の村尾さん。

 じっと見つめてくる、その妹。

 

 「……」

 

 「……」

 

 村尾さんは、視線を落として、小声で言った。

 

 

 「……そうだよ?」

 

 

 そうなの!?

 

 ――あ。いや。

 さすがにそうかな、とは思っていたが。

 

 「――!」

 

 妹さんは目を見開く。

 顔を赤くして、決まりが悪そうな村尾さん。

 

 「……あぁ。へえー」

 

 妹さんは自分と村尾さんを交互に眺めた。

 そうなんだ、と呟くように、何度か言う。

 そして

 

 「あ」

 

 思い付いたように自分を見ると、

 

 「……お姉ちゃんを、よろしくお願いします」

 

 小さくお辞儀しながら、まだ少し照れが残る表情で、そう言った。

 

 「あ……はい。こちらこそ」

 

 自分は慌ててそう答える。

 隣で村尾さんがクスリと笑っている。

 妹さんはよかったね、と村尾さんに声を掛ける。

 うん、と村尾さん。

 

 周りからパートナーと見られること。

 これにはあの世界で慣れていたはずなのに、感じ方が全然違う。

 たぶん、本当にそうなったからだろう。

 嬉しいものなんだな。

 こういうのは。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 自分と村尾さんは、キッチンで昼食の支度を始めた。

 村尾さんがパスタを茹でつつ、サラダの用意。

 自分がパスタソースを作る。

 村尾さんがスマートフォンで見せてくれたレシピはいわゆる時短レシピで、ベーコンをオリーブオイルで炒めれば、あとはできあいの調味料だけで作れるものだった。

 

 妹さんは食卓に座って、カウンター越しにこちらを見ている。

 

 「中3なんだ。……じゃあ今、忙しいね」

 

 刻んだベーコンを炒めながら聞く。

 

 「そうですね。――ところであの……」

 

 妹さんはまた、そんなことはどうでもいい、というように

 

 「すごく仲いい、ですね……」

 

 そう言った。

 すっかり落ち着いたらしい村尾さんは、パスタを茹でながら、そうかな? と軽く答える。

 隣でフライパンを使っている自分は火を止めて、調味料を足していく。

 トマトケチャップ、コンソメ顆粒、にんにくパウダー、そして一味唐辛子。

 妹さんは、そんな自分の様子をしばらく見て、

 

 「相良さん、すごく慣れてますね~」

 

 感心したように言う。

 

 「いや全然。簡単な事しかできないし」

 

 そもそもこの世界では、台所を使ったこともほとんどなかった。

 調味料を加えたフライパンをもう一度火にかけて、温めながら混ぜていく。

 妹さんはまた自分の所作をじっと見ている。

 

 「……お姉ちゃん、いいな~」

 

 ポツリと言った。

 村尾さんがフフ……と笑う。

 

 「……ときどき、貸して?」

 

 妹さんが不穏なことを言った。

 

 「貸すわけないでしょ。――あ、サラダ並べて」

 

 村尾さんは相手にせず、サラダを盛った小皿を3つ、カウンターに置いた。

 

 「え~ いいじゃん」

 

 そう言いながら、食卓にサラダを並べていく妹さん。

 

 「じゃあ、ちょっと飽きてからでいいから」

 

 「飽きない」

 

 買ったばかりのマンガか、おもちゃのような扱いだ。

 

 妹さんは、ここまで見た感じ村尾さんとはかなり違った性格に見える。

 それに村尾さんに似た、淡い瞳。でも色はシンプルなブラウン。

 ここも違っているな――

 そう感じながら見ていると、フッと視線が合った。

 なに?という感じに首を小さく傾げてくる。

 

 「だいたい相良くんに失礼でしょ」

 

 皿に盛ったパスタにソースを掛けながら、村尾さんが言う。

 すると妹さんは、視線だけ自分に向けながら

 

 「……でも私のこと、なんかすごい見てくるよ。相良さん」

 

 いたずらっぽい目で、そう言った。

 

 む?

 いかん!

 

 「相良くん?――」

 

 ハッと隣を見ると、パスタの皿を両手に持った村尾さんが、目を見開いて立っていた。

 

 「あ――」

 

 なかなか手強い相手でもあるようだ。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 このあと3人で昼食を取った。

 妹さんは、いつから付き合っているのか、何がきっかけだったか、どちらから告白したのかなど、知りたいらしいことを色々聞いてきた。

 やがて満足したようで、パスタを食べ終わると、じゃあごゆっくり、と部屋に戻って行く。そのとき

 

 「お邪魔しちゃって、すいませんでした」

 

 そう言ってペコリとお辞儀していった。

 きちんとしているところは、さすが姉妹だ。

 

 

 片付けのあと自分と村尾さんは、ふたたび村尾さんの部屋に戻った。

 二人になると村尾さんはすぐ、

 

 「ごめんなさい、突然。……妹に言っておけばよかった」

 

 そう謝ってきた。

 

 「いや、こっちこそ、妹さん驚かせちゃったし」

 

 村尾さんは頷くと、部屋のローテーブルに座りながら

 

 「……朋ちゃんには、あとでごめんね言っておきます」

 

 ちょっと反省しているようだ。

 自分も村尾さんの正面に座りながら、

 

 「でも妹さんに会えたのは、よかったと思う」

 

 そう言った。

 うまく言えないが、結果的に少し気が軽くなったのは本当だ。

 村尾さんも少し考えてから、

 

 「……そうですね。うん」

 

 少し気持ちが切り替わったのか、表情も和んだ。

 まあ、結果オーライだったと思う。

 が、村尾さんは急に、顔を斜に向けて横目で見てくる。

 

 「相良くん、何だかお気に入りみたいですし?――」

 

 問い質すように言ってきた。

 

 うわ

 忘れてなかったか……

 

 「あ……いや、自分はそんな――」

 

 慌てて言いかけると

 

 「嘘です。心配してませんし」

 

 ふふっと笑って言う。

 

 「朋ちゃんと仲良くしてくれると、嬉しいです」

 

 「あ……うん。それはもちろん」

 

 ああ。

 よかった。

 心臓に悪いよ。村尾さん……

 

 本当はあのとき、瞳の色――

 明るいのに思慮深い、その瞳が村尾さんだけのものだったらいいなと、そう思って確認してしまったことは、内緒にしておいた。

 

 

 このあと一緒に、残りの宿題をのんびり片付けて、やがて夕刻前。

 村尾さんと、また顔を出してきた妹さんに見送られながら、村尾さん宅を後にした。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 その日の夜。

 風呂から上がって部屋に戻ると、スマートフォンにメッセージが届いているのに気がついた。

 村尾さんからだ。

 何だろう?

 メッセージを開く。

 

 『来週も、家に来れます?』

 

 ん?

 

 続けて

 

 『朋ちゃん、お母さんに話しちゃったみたいで』

 

 え?

 

 さらに続けて

 

 『お母さんが、ご飯食べにおいでって』

 

 ――。

 

 最後に

 

 『ごめんなさい……』

 

 ……。

 

 来週も、村尾さんのお家にお邪魔することになりそうだ。

 

 

 

  ※※※

 

 

 

お読み頂きありがとうございました。

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