第13話 就寝
泊まりで遊びに来ているエミさんとの、賑やかな晩。
色々あったがやがてお開きになり、就寝の時間になった。
村尾さんの部屋で布団のないベッドを見ただろうから、エミさんは状況は把握したと思われるが、意外にも、何も言わずにあっさりと客間へ下がっていった。
そして今、自分の部屋。
ベッドの1名はいいが、野宿用のブランケットを使う1名は、結構寒い思いをするはずだ。
一応、しばらく暖炉の前に敷いて暖めておいたが、慰め程度だろう。
やがてドアが軽く叩かれて
「あの、いいですか?」
村尾さんの声だ。
自分がドアを開けて、中へと招く。
お邪魔します――
小さくそう言って、村尾さんがゆっくり室内に入ってきた。
装いは先ほどと同じ、リネンの長いワンピースだが、手には討伐ミッションに使っている厚手の皮ジャケットを持ち、足元は亜麻の靴下が、足首あたりの紐でキュッと縛られている。
どうやらブランケットで寝る気満々だ。
しかし、それでもブランケットの保温性の悪さを甘く見ている気がする。
お互いに、自分が先にブランケットの使用を希望したため、勝った方がブランケット、という不思議なルールのじゃんけんが行われた。
勝者は村尾さんだった。
……
まあ、彼女と自分の勝負強さを比較すれば、こういう結果も想定はしていた。
「じゃあ、私がこっちで」
村尾さんは満足そうな表情でそう言って、床に置かれたブランケットの脇に屈むと、持ってきた皮ジャケットをリネンの上に羽織って、ボタンをきっちり締める。
そして、二重になっているブランケットの上側をめくりあげて、失礼します、と小声で言うと、リネンの裾を片手で抑えながら、足先からゆっくり中に潜り込んだ。
ブランケットで体を覆った後、仰向けでしばらくもぞもぞとしてから、静かに脱力した感じになる。
態勢も定まったようだ。
「寒くない?」
「いえ。……大丈夫そうです」
まあ、そう言うだろう。
ここまで見届けて、自分はベッドの方に入る。
「ごめんね。先にベッドで」
「いえ。私が言い出したことですし」
「それは……いいんだけど」
「……はい」
「……」
「……」
ちょっと気まずい。
宿屋時代は毎日こうして隣合って眠っていたのだが、それぞれ自室を持った今では、かなり感じ方が違うものだ。
しかし今は、そういうことは二の次だ。
「寒くならないうちに、眠ってしまった方がいいよ。……あとで替わるから」
「はい。でも大丈夫そうです」
「いや、替わるから。寒くなったらすぐ言ってね」
「はい。ありがとうございます」
そして一応、おやすみを交わした後、ろうそくの灯を消した。
◇◇◇
どのくらいだろうか。
体感で20分から30分くらい、だろうか。
村尾さんがもぞもぞ動いているのが感じられるようになった。
足元の方を、繰り返し動かしている雰囲気だ。
冷えるのだろう。
気温が下がり、ブランケットから暖炉の熱も失われたであろう頃合い。
まず、あれはだめだ。
ブランケットの足元は、下側に折り返すようにして袋状にするのだ。
そうでないと空気が地味に入り込み続けてしまう。
そしてそもそも、装備も甘すぎる。
いくら皮ジャケットで防寒しても、素肌にリネンのワンピースでは、足側が薄すぎる。
下も討伐用のカーゴパンツにすべきだったし、快適性は犠牲になるかもしれないが、それこそ先ほどの制服のストッキングを中に着用するくらい必要だった。
しかし、ちょうどいい。
暗闇に慣れた目で、チラとブランケットの様子を見ると、村尾さんの後頭部が見える。こちらに背を向ける態勢。
「あの、村尾さん……起きてる?」
小声で呼んでみる。
「あ。はい……起きてます」
そう言って、もぞっと自分の方に体を回した。
「どうしました?」
「あの、一度、替わろうか」
「え? もうですか?」
確かに早い。
が。
「ごめん、気になって寝付けなくて……」
「まだ平気ですよ」
「だよね。……ただ、どんなもんか、ちょっと確認したいなと」
「……確認ですか」
「うん。……だから少しだけ、替わってくれない?」
「……」
かなり怪しい言葉だ。
しかし、村尾さんもそろそろ布団の魅力に引き寄せられ始めている、と見た。
「一瞬だけ、でいいなら」
村尾さんが言った。
よし。
「じゃあ、替わろう」
そう言って、自分はベッドの上で身を起こす。
村尾さんは、よいしょ、と言いながら、ブランケットから這い出てきた。
立ち上がって、身を抱くような仕草。
「出ると冷えますね」
自分もベッドから降りて、小さく身を抱くように近づいてくる彼女を、ベッドへ送る。
村尾さんが布団に入ろうとしたとき、
「あ。ジャケットは、脱いだ方がいいと思う」
そう言って、そうですか、とボタンを外す彼女の背に回り、ジャケットを脱ぐのを手伝う。
そして、彼女が布団に収まるのを見て、掛布団を整えるように被せる。
「フフ……ありがとうございます」
少し恥ずかしそうに言ってから、
「暖かいです~」
そう言って、布団に深くくるまった。
よし。
「じゃあ、こっち使わせてもらうね」
しばらくぶりではあるが、散々使い慣れた、このウールのブランケット。
サッと潜り込んで、足元部分を折り返し、上側も体に巻き付けるように被る。
「結構寒いね」
そう言うと
「そうですね。やっぱり……布団とは全然違いますね」
「しばらく、確認してていい?」
「はい。……しばらく、ですよ?」
「うん。ありがとう。……その布団は、どう?」
「……布団、すごく暖かいです。……相良くんが……暖めてくれてるし……」
「そういうわけじゃ、ないんだけどね」
「フフ……」
「……」
「……」
「暖かくなったら、靴下も脱いじゃっていいと思うよ」
「……そうかもです」
もぞもぞと、布団の中で靴下を脱ぐ動きだ。
脱いだ靴下は、布団の脇から床に置こうとしているが、手からポトリと落ちる感じだった。
「もうしばらく、確認させてね」
「……はい。もうしばらく……ですよ……」
「……」
「――」
今日は色々あって疲れただろう。
それに何より、自分はよく知っているのだ。
村尾さんはとても寝つきが良い、ということを。
◇◇◇
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