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第12話-2 おもてなし

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 お茶の後、早速夕食になった。

 

 キッチン部屋の食卓。

 真ん中にドンと、沸かされた野菜ブイヨンの大鍋。

 その脇に羊肉の薄切りが盛られた平皿。

 見慣れないのか、エミさんはおお、と物珍しそうだ。

 

 我が家自慢の味、しゃぶしゃぶと白飯。

 

 この世界の人の口に合うかどうかは未知数だが、エミさんに話したところ、羊肉は好きだし、ぜひ食べてみたい、ということだった。

 

 自分たちが、食べ方を実演で説明した。

 箸が使えないエミさんは、フォークで羊肉を湯通しすると、自家製ポン酢に少し浸けてから、ゆっくりと口に入れ、そして味を確かめるように咀嚼する。

 

 「うん」

 

 頷いてそう言ってから、茶碗の白飯をフォークで少しすくって、口に入れる。

 

 「うーん」

 

 モグモグ味わいながら、何度も頷く。

 

 「いや……これは美味しい」

 

 驚いたように言う。

 よかった。

 口に合ったようだ。

 

 エミさんはまた羊肉をヒラヒラと湯通しすると、サッとポン酢に浸けてパクッといき、ひと噛みふた噛みしたかと思うと、ガバッとご飯をかき込んで、モグモグ食べている。

 

 おお。

 豪快だ。

 しかも正しい食べ方だ。

 それでいて粗野ではなく、所作に何となく色気がある。

 

 「あんたたち、これで店開けるんじゃない?」

 

 エミさんはそう言いながら、次々といく。

 そうしてあっという間に、ご飯一膳を食べ切ってしまった。

 村尾さんが嬉しそうに

 

 「おかわり、ありますよ?」

 

 そう言って手を出す。

 エミさんは空になった茶碗を差し出しながら、

 

 「ありがとう。半分くらいでいいや。あと、ワイン貰える?」

 

 そう言うので、

 

 「あ。自分がやるよ」

 

 席を立って、エミさんのワインの用意をする。

 エミさんのお土産は、りんごジュースとワインだった。

 ワインの方は、「これは私が飲むの。余りを置いていくから、お料理にでも使って」ということだった。

 

 「ごめんねー。家のご主人に用意させて」

 

 エミさんは動こうともせず、面白そうに言う。

 完全におもてなしされる態勢なのだが、どういうわけか、それが不思議と気持ちがいい。

 村尾さんも楽しそうに給仕している。

 

 エミさんという人柄もあるだろうが、二人が三人になっただけで、こんなにも賑やかになるんだなと感じた。

 

 

 

 夕食が終わり、自分たちは片付けに入る。

 食卓にワインのコップだけ残して、エミさんにはのんびりしてもらう。

 片付けを進めながら村尾さんが、

 

 「まだ食べられます? パウンドケーキ、あるんですけど」

 

 そう言うと、

 

 「ホントに?……すごいね。食べたい食べたい」

 

 「はい! ちょっと待っててくださいね」

 

 村尾さんは嬉しそうだ。

 

 「じゃあ、自分がお茶を入れるよ」

 

 「あ。すいません。お願いします」

 

 村尾さんはそう言って、ケーキの準備を始めた。

 エミさんは片付けられた食卓に肘を突いて、手に顔を乗せながら、

 

 「ちゃんと二人でやるんだね。……うん。偉いね」

 

 どちらにともなく、そう言った。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 このあとは入浴の準備となる。

 その前にまずエミさんを、改めて客間に案内した。

 自分が灯した燭台を、続けて村尾さんがお茶の入ったティーポットとカップを運んできて、客間の机に置く。

 

 この様子を見ていたエミさんはふーん、と言ってから、

 

 「ありがとう。少し、くつろがせてもらうね」

 

 そう言って、ゆっくりベッドに腰掛けた。

 

 「用意できたら、声かけますね」

 

 「うん。よろしく」

 

 客間のドアを閉じるとき、エミさんが小さく手を振った。

 

 

 

 エミさんを休ませて、この間に入浴の準備だ。

 外で汲んできた水を桶にあけて、そこに沸かしたお湯を少しずつ、湯加減を確かめながら混ぜていく。

 いい感じになったところで浴室に運んで、準備完了だ。

 

 今日のおもてなしのメインといっていいだろう。

 買い置きしてある白石鹸とハーブ石鹸、ローズウォーター、そして村尾さんが常に用意しているラベンダーオイルとラベンダー湯。

 彼女も太鼓判を押す、上質の入浴体験だ。

 

 「あの、ハニーバームも……使ってもらっていいですか?」

 

 村尾さんが聞いてきた。

 高額な品だったので、気にしているようだ。

 もちろんOKだ。

 何しろ蜜蝋バーム、村尾さんが言うところのハニーバームの存在を、自分たちに教えてくれたのはエミさんなのだ。

 

 「うん。好きなだけ使ってもらおうよ」

 

 すると村尾さんは、目を輝かせて

 

 「はい!」

 

 大きく頷いてそう言うと、弾むような足取りで、客間へと向かった。

 よし。

 あとは女性同士に任せよう。

 

 

 

 自室に戻って、ひと休みさせてもらう。

 さて、あとは何をしておくか。

 そんなことを考えていると、コンコン、と軽くドアをノックする音がした。

 そしてすぐに

 

 「相良くん。いいですか?」

 

 村尾さんの声だ。

 

 はい、と返事しながらドアを開ける。

 村尾さんが少し困ったように立っている。

 

 「……どうしたの?」

 

 「あの……石鹸とかの使い方を説明してたら……」

 

 「……うん?」

 

 「一緒に入って、教えてって言われて」

 

 ……

 なるほど。

 ありそうなことだ。

 しかし、こういうときの女性の感覚はよく分からない。

 

 「え~と……大丈夫?」

 

 どう言っていいか分からないので、パッとしない聞き方になる。

 

 「はい。……エミさんなら、大丈夫かなと」

 

 そう言ってから、申し訳なさそうに

 

 「少しの間、相良くんを一人にしちゃうと思うけど」

 

 そう言って、自分を見上げた。

 

 ああ、わざわざそれを伝えに。

 

 「全然いいよ。むしろ、うんとゆっくりしてきてよ」

 

 そう答えると、村尾さんは安心したようにはい、ありがとうございます、そう言って、階下に下りていった。

 

 親密なようで、何よりだ。

 ……おっと。

 もう一杯、桶に水を汲んできた方がいいな。これ。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 


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