第9話 雨の日に
収穫祭から半月ほど経った。
早朝から、貸し馬の厩舎に来ている。
今日は朝から雨が降っていて、馬の準備運動は無し、と場長に言われた。
そうなるかなとは思っていたが、せっかく来たので馬房の作業を手伝っていると、
「サガラ。こいつだけ、歩かせてきてくれ」
場長がそう言って、馬房の1頭を顎で示した。
「はい。あの……」
「せっかく来たんだしな。少し乗っていけ。そうしたら、もう帰っていいから」
場長はそう言うと、作業に戻った。
「ありがとうございます!」
そう言って、馬を馬房から出す準備に入った。
自分は騎乗を学ぶ目的でここに通っている。
それを分かって、気を使ってくれたのだ。
馬を角馬場と呼ばれるエリアまで引いていき、引いたまま中を何周か歩かせる。
そのあと、バックパッドと呼ばれる厚い布を馬の背に被せて、ベルトで軽くだけ固定。
馬の首筋を軽く撫でてから、ひょいと飛び乗って発進させた。
雨の中、馬には申し訳ないが、歩き、速足、停止、発進などの動作に付き合ってもらう。
馬の体温が十分上がったところで、終了だ。
馬を馬房に戻し、今日の貸し馬厩舎での作業を終わりにして、帰路についた。
2キロほど先の、村尾さんが待っている自宅へと歩く。
獣脂で防水した厚手のキャンバス地のアウターに、フードを深く被って、雨の中を歩きながら、
今日は一日、何をしようか。
そんなことを考えていた。
雨の日は山岳エリアには入れない。
討伐ミッションは、今日はお休みだ。
◇◇◇
家に着いて、勝手口をノックする。
「ただいま」
そう言ってからドアを開けようとすると、
ガタン
中から先にドアが開いた。
「おかえりなさい」
そう言いながら村尾さんが出てきた。
いつもの、紺の長めのワンピースに、キャンバス地のベージュのエプロン。ただ今日は、肩に大きめのタオル布をかけている。
自分を中に招き入れるようにして、ドアを閉める。
「雨、大丈夫でした?」
そう言いながら、背中に回って自分がアウターを脱ぐのを手伝ってくれた後、
「これ。使ってください」
そう言って、肩に掛けたタオルを自分に渡してくれた。
そして自分が手に持っているアウターを代わりに持ってくれる。
「あの、ありがとう。タオルも。……雨は、そんなでもないけど、止みそうにはないかな」
やっと言葉を返して、頭と、そして顔を軽く拭かせてもらう。
「そうですか」
「たぶん、明日も山岳エリアは行けないと思う」
タオルを使い終わり、アウターを受け取りながら言った。
「明日もですか……なら、今日明日はお家でゆっくり、ですね」
笑顔でそう言うと、
「私、お茶を入れてきます。よかったらお風呂を使ってください。水は置いてあるので」
そう言って、勝手口から出て行った。
「……」
雨で討伐ミッションは休み。
余裕はあるのだろう。
でも、だからって……
こんなにあれこれしてもらってて、いいんだろうか。
◇◇◇
お茶を頂いた後、自分の部屋でのんびり休んでいる。
しかしまだ、昼までは数時間もあるような時間帯。
何して過ごそうか。今日。
家には何冊か本があるが、どれももう何度も読んでる。
何か、家や納屋の片付け的なことをするのもいいが、それだと村尾さんが手伝います、とか言いそうな気がして、今日はあまり気が進まない。
どうせなら、屋内で村尾さんの気分転換になるようなものがあるといいのだが。
そう言えば宿屋時代は、同室だったこともあって暇なときよくトランプゲームをしていた。
それもまあ、悪くはないのだが。
「……」
少し思い付いたことがあり、家の外に出て、納屋に入ってみる。
そして奥の方に記憶の通り、細長い木の板が3本あるのを確認した。引っ越したばかりの頃、壊れていた柵を修理したときの余りだ。
それを眺めて、少しイメージする。
うん。
できそうな気がする。
家の中に戻って、2階の村尾さんの部屋を訪ねる。
あまり機会がないので、かなり緊張しながら、控えめにノックする。
「はい?」
すぐ声がして、少し安心する。
「あの……自分、少し納屋にいるから」
ドア越しに話した。
が、すぐドアが開かれた。
村尾さんが、開けたドアの取っ手を持ったまま、不思議そうに立っている。
「納屋ですか? 片付けなら、私も」
やはりそう来る。
「いや、暇なので、遊びで何か作ってみようかなと。……だから気にしないで」
「そうですか。……相良くんが遊ぶって、珍しいですね」
村尾さんはまだ少し不思議そうだ。
自分は少し照れ笑いした後
「そうだよね。……あの、しばらく納屋にいるけど、お昼の準備は一緒にするから」
「分かりました。できたら、作ったもの見せてくださいね」
そう言って笑顔になった。
「え~と、うん。ちゃんとできたら」
そう言って、手を上げて村尾さんの部屋を離れた。
村尾さんは部屋から上体だけ乗り出して、手を振って見送っていた。
◇◇◇
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