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【16】 領地認定編:魔の森は、新聖域へ


「リリア様。先ほどのお茶、本当に素晴らしい活力でした。感謝の印に、この聖都で流行している髪飾りを受け取っていただけませんか?」


 魔の森の柔らかな陽だまりの中。騎士団長グレンが、爽やかな笑みを浮かべてリリアの前に跪いていた。

 彼はリリアの「おもてなし(浄化)」によって心身ともにリフレッシュされ、今や彼女を「命の恩人」として、そして一人の女性として深く敬愛し始めていた。


「わあ、キラキラしてとっても綺麗です! 一生懸命選んでくださったんですね、ありがとうございます!」


 リリアは無邪気に喜び、髪飾りを受け取ろうと手を伸ばした。

 だが、その手が触れる直前。


 ガシッ!


 横から伸びてきた逞しい手が、リリアの腕を強引に引き戻した。


「……リリア。そんな安物の飾りは必要ない。お前には、俺が贈った魔獣の牙(※浄化済み)があるだろう」


 そこに立っていたのは、眉間に深いシワを寄せ、周囲の気温を数度下げそうなほどの冷気を放つゼノスであった。


「あ、ゼノスさん! でも、グレンさんがせっかく……」


「……グレン。貴様、調査任務は終わったはずだ。いつまでここに居座っている。……そして、なぜそんな『落としにかかるような顔』で彼女を見ている」


 ゼノスの蒼い瞳に、かつて戦場で見せたことのないような、剥き出しの「嫉妬」が宿る。

 対するグレンも、かつての上官相手に一歩も引かなかった。


「ゼノス様、失礼ながら。リリア様を追放した国を代表し、私は彼女の力になりたいと考えているだけです。……それとも、今の貴方は『管理人』として、彼女の人間関係まで制限されるおつもりですか?」


「……何だと?」


 森のイケメン二人が火花を散らす。そのあまりの顔面偏差値の高さに、周囲の空気は物理的に発光し、リリアのドジっ子パワーとは別の意味で視界が眩しくなっていた。


「わわわっ、お二人とも、お顔が怖いです! 仲良くお芋を食べれば、きっと仲直りできますから……ああっ!」


 仲裁に入ろうとしたリリアは、案の定、自分の足に引っかかった。

 そのまま、グレンとゼノスのちょうど中間に向かってダイブする。


 ドォォォォォォォォン!!


 リリアの「仲良くして!」という切実な聖力が炸裂した。

 その衝撃で、グレンの持っていた髪飾りも、ゼノスの着ていた服のボタンも、まとめて粉々に浄化(消滅)した。


「あ、あわわわ……。またやっちゃいました……」


「「………………」」


 その頃、茂みの「特等席」では——。


「ギャァァァァァァ! 見た!? ゼノス様のあの、今にもグレンを斬り捨てそうな独占欲全開の顔!」

「美形二人の板挟みになって、物理的に爆発を起こすリリア……。あんた、ある意味一番の贅沢者だわ!」

「カレン、見て! ゼノス様が服のボタンを飛ばされて、はだけた胸元をリリアにガン見されてるわ! グッジョブよリリアぁぁ!!」


 女子たちは、リリアの無自覚な「服剥ぎドジ」に感謝しつつ、イケメン同士の火花散る嫉妬合戦を、お腹いっぱいに堪能するのだった。


「いい? リリア。この環境、この立地、そしてこの絶景……これをお芋栽培だけで終わらせるなんて、国家的な損失よ!」


 浄化された「嘆きの沼」改め「魔の森・極上スパ」のほとりで、カレンが鼻息を荒くして宣言した。

 彼女の手元には、いつの間にか手製の『魔の森観光・宿泊プラン案』と書かれた樹皮が握られている。


「そうよ。この『光るお芋のフルコース』に、ゼノス様との『握手&写真撮影会(※リリア経由)』を付ければ、聖都の令嬢たちが全財産を投げ打って押し寄せるわ!」


 ミナが目をドルマークに変えながら付け加える。


「わあ、観光ですか!? 確かに、皆さんが来てくれたら、一生懸命おもてなしできて楽しそうです!」


 リリアは無邪気に喜び、焚き火で焼いていた「光るお芋」を配ろうとした。

 だが、お約束のように、自分の影と石に同時につまずいた。


「わわわわっ! あぶないですーっ!」


 リリアの掌が、カレンたちの書いた「プラン案(樹皮)」を直撃する。

 その瞬間、リリアから溢れ出した「みんなに喜んでほしい!」という純粋な聖力が炸裂した。


 ドォォォォォォン!!


 ただの樹皮だったはずの書面が、まばゆい光を放ちながら「高級感あふれる黄金の招待状」へと変質。さらには、リリアの魔力が森全体に波及し、宿泊用だと言っていた木の小屋が、一瞬にして聖なる白亜のコテージへとリフォーム(浄化)されてしまった。


「……あ。また、やりすぎちゃいました?」


「「「………………」」」


 あまりの「無自覚なインフラ整備」の速さに、カレンたちはもはや呆れを通り越して拝み始めた。


「……おい。勝手に俺の家(リリアとの愛の巣)をホテルにするな」


 騒ぎを聞きつけたゼノスが、不機嫌そうな顔でリリアの腰を引き寄せた。

 彼にとっては、この森は「リリアと二人きりの安息地」であり、リゾート化など言語道断なのだが、目の前のコテージの出来栄えとリリアの「みんなを呼びたい!」という笑顔に、早くも折れそうになっていた。


 その頃、教会の資料室から様子を覗き見していた他の女子たちは——。


「ギャァァァァァァ! 何よあの豪華なコテージ!? 聖王宮より綺麗じゃないの!」

「見て、あの招待状! 『聖女のドジおもてなし付き』って書いてあるわよ! 予約、今すぐ予約してぇぇ!!」

「カレン、いい仕事したわね……。これで私たちも合法的に長期滞在できるわ……グフフ」


 女子たちは、リリアのドジが作り上げた「魔の森リゾート」に、我先にと予約(という名の不法侵入計画)を入れようと大騒ぎするのだった。


「……由々しき事態である。魔の森が光り輝き、凶暴な魔獣がリボンを付けているなどという報告、我が耳が腐ったかと思ったわ!」


 厳格な足取りで、聖王国の最高権威・大司教バルトロメウスが魔の森へ足を踏み入れた。

 かつてリリアに「国外追放」を突きつけた彼は、自らの目で「異変」を確かめるべく、重い腰を上げたのだ。


「おや、大司教様! 一生懸命、お出迎えの準備をしてたんですよー!」


 リリアは、いつものように泥だらけ(浄化済みなので高級パック状態)の顔で、全力で駆け寄ってきた。


「近寄るな、不届き者め! 貴様、この神聖なる地……いや、呪われた地で何を——」


「まあまあ、お腹が空いてると怒りっぽくなっちゃいます! これ、食べてください!」


 リリアは差し出そうとした「特大の光るお芋」に、案の定、自分の足をもつれさせた。


「わわわっ! そーれっ!」


 リリアの全体重が乗ったお芋が、大司教の口元へ弾丸のような速さで飛んでいく。

 反射的にお芋をキャッチした(させられた)大司教は、そのあまりの神々しい香りに抗えず、一口かじりついてしまった。


 刹那。


「……っ!!? な、何だ、この慈愛に満ちた風味は……っ! 全身の関節痛が消え、視力が若かりし頃のように戻っていく……!?」


 大司教の体から、目を開けていられないほどの聖力が溢れ出した。

 彼が一生をかけて積み上げた修行よりも、リリアが「うっかり」聖力を込めて焼いたお芋一口の方が、遥かに純度の高い奇跡を秘めていたのだ。


「バカな……。ワシが一生を捧げた教義は何だったのだ……。このお芋、いや、お芋様こそが真の福音エヴァンゲリオンではないか……!」


 大司教は「光るお芋」を高く掲げ、その場に崩れ落ちるように跪いた。

 追放したはずの娘が、魔の森を「神の国」に変えていたという事実に、彼のプライドは完膚なきまでに浄化された。


「……大司教。少しは頭が冷えたか」


 背後から現れたゼノスが、冷徹な瞳で見下ろす。


「ぜ、ゼノス様……。貴殿も、この『お芋の楽園』の守護者となられたのですか……」


「……俺はリリアの正社員だ。……それと、そのお芋はまだ在庫がある。……国に帰るなら、土産に持っていくか?」


 その頃、教会の資料室から現地へ応援に来ていたカレンたちは、木陰でその光景を眺めていた。


「ギャァァァァァァ! 見た!? あの大司教様がお芋に跪いて泣いてるわよ!」

「リリア、あんたのドジはついに宗教の壁すら超えたわね。大司教を『お芋教』に改宗させちゃうなんて!」

「見て、ゼノス様が満足そうに頷いてるわ……。これでリリアの追放撤回は確実ね。……でも、二人はもうここから動かないでしょうけど!」


 女子たちは、リリアの無自覚な「食卓革命」によって、教会の最高権威が陥落した歴史的瞬間に、腹筋を震わせて笑い転げるのだった。


 聖王国ルミナリスの歴史において、これほどまでに「幸福な降伏」が記録されたことはない。

 魔の森の最深部、リリアのコテージ前で行われた最終会談。大司教バルトロメウス、騎士団長グレン、そして浄化されてすっかり毒気の抜けたセレナまでが、一つの円卓を囲んでいた。


「……リリア。貴女の追放を、ここに正式に撤回する」


 大司教が厳かに宣言した。その手には、お土産に持たされた「光るお芋」が大事そうに抱えられている。


「えっ? 撤回ですか? でも私、ここでゼノスさんとお掃除するの、とっても楽しいですよ?」


 リリアは首を傾げた。一生懸命頑張った結果、追放先がこの世で一番居心地の良い場所に変わってしまった彼女にとって、国に戻るメリットは皆無だった。


「勘違いするな。貴女を国に戻すのではない。……この『浄化された魔の森』を、聖王国の特別聖域領『リリア・ルミナリス領』として認定し、貴女をその領主に任命するという意味だ」


「りょ、りょうしゅ……!? 私、そんな難しいことできませんーっ!」


 驚いたリリアは、慌てて立ち上がろうとして——案の定、自分の裾を踏んだ。

 そのまま、隣に座っていたゼノスの胸へとダイブする。


 ドォォォォォォォォン!!


「わわっ! ゼノスさん!」


「……大丈夫だ、リリア。お前が領主だろうと何だろうと、実務(お掃除の管理)は全て俺がやる。お前はただ、ここで一生懸命に笑っていればいい」


 ゼノスは、リリアを抱き留めたまま、大司教たちに向かって鋭い、しかしどこか満足げな眼差しを向けた。


「聞いた通りだ。彼女はこの地の主であり、俺はその守護者だ。国が手を出すことは許さない。……その代わり、ここでの『お芋の収穫物』の一部は、対価として国に供給してやってもいい」


「「「(お芋の供給……ありがたき幸せ……っ!)」」」


 大司教もグレンも、リリアの聖力が詰まった「光るお芋」が国にもたらす経済的・軍事的利益(超回復効果)を計算し、深く深く頭を下げた。


 その頃、背後の白亜のコテージの窓からは——。


「ギャァァァァァァ! 見た!? リリアが事実上の独立国家の主になったわよ!」

「領主と、その溺愛騎士……。完璧なエンディングじゃない! カレン、私たちもここに『外交官(ただの遊び相手)』として永住しましょう!」

「決定ね! さあ、リリア! 領地認定のお祝いに、今すぐゼノス様と誓いの口づけを交わしなさいよぉぉ!!」


 女子たちの歓喜の絶叫が、新聖域となった魔の森にこだまする。

 空にはリリアの魔力が描いた巨大な虹が架かり、浄化された魔獣たちが祝福の咆哮を上げる。


 一生懸命で、ドジで、でも世界を一番幸せにした聖女の物語は、ここから新たな「領主生活」という名の甘い騒動へと続いていくのであった。



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