【12】 贈り物編:拾った枝は、伝説の聖剣
「ゼノスさん! いつも守ってくれるお礼に、一生懸命いいものを選んできました!」
リリアは背中に何かを隠しながら、ウキウキとした足取りで小屋に戻ってきた。
その顔は「これなら絶対に喜んでもらえる!」という自信に満ちあふれている。
「……リリア。その、背後から漏れ出している禍々しい、いや、神々しい魔力は何だ。……また何か、歴史的に重要なものを拾ってきたのか?」
ゼノスは嫌な予感に冷や汗を流しながら、リリアの前に立った。
「ふふーん、正解です! これ、森の奥で『肩叩きにちょうどいいな』って思って拾ったんです。はい、プレゼントです!」
リリアが差し出したのは、一見すると黒檀のような光沢を持つ、絶妙なカーブを描いた一本の「枝」だった。
だが、それを見たゼノスの顔面から、一気に血の気が引いた。
「……待て。……待て待て待て。リリア、お前、これは……。千年前の対戦で、初代聖王が切り落としたとされる『魔王の角』の欠片じゃないか!? 一振りで大地を割り、一突きで海を割ると言われる伝説の触媒だぞ!」
「えっ? ただの『ちょっと硬い枝』ですよ? ほら、ここを持って肩をトントンすると……わわっ!」
リリアは説明しようとして、案の定、自分の裾を踏んで前方にバランスを崩した。
手にした「魔王の角」が、小屋の横にある小高い丘に向かって、リリアの全体重とともに振り下ろされる。
ドォォォォォォォォン!!
リリアから溢れ出した聖力が「魔王の角」に逆流し、相殺されるどころか究極の衝撃波へと昇華した。
轟音とともに、小屋の背後にあった標高数百メートルの丘が、一瞬にして地図から消滅(浄化)し、そこには真っ平らな「お芋の畑に最適な更地」が広がっていた。
「………………」
「わあ……! 肩叩き棒にしては、ちょっと力が強すぎましたね!」
リリアは目を白黒させながら、折れたばかりの伝説の角を握りしめていた。
その頃、教会の資料室では——。
「ギャァァァァァァ! リリア、あんた今、地形を変えたわよ!? 不動産王なの!?」
「見て! ゼノス様のあの、魂が抜けたような顔……っ! プレゼントされたものが強すぎて、素直に喜べない不憫な騎士様……!」
「カレン! 今、隣国の地震計が振り切れたわよ! でもそんなのどうでもいいわ! あの角でゼノス様に肩を叩かせて、その衝撃で服を弾けさせなさいリリアぁぁ!!」
女子たちは、リリアの無自覚な「贈り物(戦略兵器)」に震えつつも、ゼノスの肉体がピンチに陥ることを期待して鏡に張り付くのだった。
あの一夜の暴走から数日。リリア特製スープ(エリクサー)によって、野生の神のごとき活力を得ていたゼノスも、ようやく「人としての平穏」を取り戻しつつあった。
だが、彼の中には、熱に浮かされていた時に感じた「ある確信」が深く刻まれていた。
「ゼノスさん、もう大丈夫ですか? まだお顔が赤いですけど……あ、また熱が上がっちゃいましたか!?」
リリアが心配そうに顔を覗き込んでくる。彼女は一生懸命、氷嚢の代わりに「聖力で冷やした光る芋」をゼノスの額に当てようとしていた。
「……リリア。お前のせいだ。……お前がそばにいると、俺の心拍数はいつまでも正常に戻らない」
「わわっ!? やっぱり、私の看病が足りなかったんですね。もっと一生懸命——」
「違う、そうではない。……お前が、愛しすぎて困っていると言っているんだ」
ゼノスは、額に乗せられた冷たい芋をどけると、そのままリリアの手を掴んで、自分の胸元へと引き寄せた。
ドクン、ドクン、と。
リリアの指先に、力強く、そして少し早まったゼノスの鼓動が伝わる。
「……私のドジのせいで、心臓が壊れちゃったんですか……?」
「ああ、壊れたな。……お前という名の呪いに、今度は俺が一生かかって溺れる番だ」
ゼノスは、まだ少し熱を持った唇を、リリアの額にそっと落とした。
リリアは真っ赤になり、緊張のあまり「わわわっ!」と足を滑らせたが、ゼノスはそれを予測していたかのように、彼女を抱き留めて離さなかった。
「……もう、逃がさない。吊り橋だろうが何だろうが、俺はお前を離さないぞ」
その頃、教会の資料室では——。
「ギャァァァァァァーーー!! 見て! ゼノス様が完膚なきまでにデレたわよぉぉ!!」
「『お前という名の呪い』!? ひゃああ! 今の台詞、聖典に書き加えなさい!」
「リリア、あんたもう病人じゃなくても看病し続けなさい! それが、私たち視聴者……いえ、教会の女子たちの願いよ!!」
女子たちは、リリアの無自覚な献身(物理)が、ついに最強の騎士を完全に陥落させた光景に、勝利の凱歌を上げるのだった。




