「天空城には、願いを一つ叶える宝玉がある」 「雲海を越えられる者など、誰もいない」
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プロローグ
風が、強く頰を叩いた。
丘の上の草が、ざわざわと揺れる。
俺は、そこに立っていた。
背後には、切り立った崖。
足元には、石畳の細い道が続いている。
でも、俺の視線は、ずっと前方だけに向かっていた。
雲の海の上に、巨大な城がそびえ立っている。
尖塔がいくつも天を突き、黒い壁が夕陽を浴びて赤く輝く。
まるで、神々が住む宮殿のようだ。
「あれが……天空城か」
俺は、思わず声に出した。
手には、金属探知機が握られている。
地球から持ってきた、俺の相棒。
この世界では、ただの道具じゃない。
地面に近づけると、ピピッと反応する。
魔法の遺物や埋もれた宝に、敏感に鳴るのだ。
二十二歳の佐藤悠真。
元はただの日本人。
ある夜、部屋で探知機をいじっていたら、光に包まれた。
目が覚めると、見知らぬ森の中。
二つの月が空に浮かんでいた。
この世界の名前はアルテリア。
魔法とモンスターが当たり前の異世界。
最初は絶望した。
でも、探知機が俺を救った。
森の地面を掃くと、小さな金貨が出てきた。
それで村まで辿り着き、食料を買った。
言葉も、なぜか通じた。
神の加護か、運か。
それから一ヶ月。
俺は宝探しで生き延びた。
小さな遺跡を漁り、モンスターを道具で追い払い。
村のギルドで情報を集めた。
そこで聞いた伝説。
「天空城には、願いを一つ叶える宝玉がある」
「雲海を越えられる者など、誰もいない」
誰もがそう言った。
でも、俺は違う。
この金属探知機があれば、道は開けるはずだ。
今、俺はここにいる。
緑の丘の上。
左手には、遠い街の影。
右手には、深い森。
空には、一筋の流星が尾を引いて消えていく。
まるで、俺を呼んでいるみたいだ。
息が、少し荒い。
体は疲れている。
この一ヶ月、毎日歩き続けた。
食料は常に不足。
水は川で補給。
夜は木の下で震えた。
でも、諦めなかった。
家族の顔を思い浮かべる。
元の世界に戻りたい。
それだけじゃない。
この世界で、何かを成し遂げたい。
そんな気持ちが、胸の奥で芽生えていた。
探知機を軽く振ってみる。
まだ、遠いせいか、反応はない。
でも、城に近づけば、きっと何か教えてくれる。
俺はフードを直した。
白いチュニックに革のベスト。
腰の赤いポーチには、食料と小道具。
ブーツの底が、地面をしっかり捉える。
この装備は、村で揃えたもの。
冒険者らしい格好だ。
「よし……行くぞ」
俺は、自分に言い聞かせた。
一歩、踏み出す。
石畳の道が、ゆるやかに下り始める。
草が柔らかく、足を取らない。
岩が点在するけど、問題ない。
霧が、足元から立ち上ってくる。
雲海に近づいている証拠だ。
城は、まだ遠い。
でも、そのシルエットははっきりしている。
尖塔の先が、夕陽に溶け込むように光る。
窓から漏れる淡い光が、神秘的だ。
心臓が、どくどくと鳴る。
怖い。
正直、怖いよ。
この世界は優しくない。
モンスターは牙を剥く。
人間も、欲に目がくらむ奴が多い。
でも、俺には武器がある。
この金属探知機。
地球の道具が、異世界で魔法になるなんて。
笑える話だ。
最初の村で、廃墟を探った時を思い出す。
探知機が激しく反応した。
掘り返したら、古代の指輪が出てきた。
それを売って、金になった。
それで、装備を強化できた。
狼型のモンスターに襲われた時も。
探知機を振り回して、金属の先で叩いた。
意外と効いた。
魔法が使えない俺の、唯一の切り札。
今も、それを握りしめている。
道は、徐々に霧の中へ入っていく。
視界が少し悪くなる。
でも、城の存在感は、ますます強くなる。
まるで、俺を試しているようだ。
空の色が、徐々に深みを増す。
オレンジから、紫へ。
夜が近づいている。
急がないと。
でも、焦りは禁物。
慎重に、一歩ずつ。
俺の冒険は、ここから本格的に始まる。
天空城。
願いを叶える宝玉。
元の世界に戻るか。
この世界で王者になるか。
それとも、もっと違う何か。
わからない。
でも、進むしかない。
金属探知機が、軽く振動した気がした。
気のせいじゃない。
きっと、城が呼んでいる。
俺は、微笑んだ。
風が、再び背中を押す。
前だけを見て、歩き続ける。
これが、俺の物語の始まりだった。
(プロローグ 了)
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