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この要塞で生き延びるコツは、 嵐が来る前に三手先を打つことだ。

4/5掲載

挿絵(By みてみん)


プロローグ  亡命者たちの星


01 オルカ・レイン/バウンティハンター


要塞が見えてきた。


コクピットの正面スクリーンに、光の塊が広がっていく。


ネオンの赤、青、紫。

無数の広告パネルが宇宙の暗黒を切り裂いて、

まるでそこだけ時間が別のルールで流れているみたいに点滅していた。


「ギャザー30」


正式名称は〈軌道自治集積体第三十番〉。

だが誰も正式名称で呼ばない。

星間条約の届かない宙域に浮かぶ、この何でもありの要塞都市を。


オルカ・レインは操縦桿を軽く傾け、

接近航路へと機体を滑り込ませた。


今回の標的は三十七歳の男。

企業の機密データを丸ごと持ち逃げして、

どこへ消えたかと思えば――ここだ。


逃げ場を間違えたな、と彼女は思った。


ギャザー30に逃げ込んだ人間を、

オルカが取り逃がしたことは一度もない。


◇ ◇ ◇

02 ジノ・ヴァルク/情報ブローカー


「第七ドック、本日の入港予定は」


ジノ・ヴァルクはカフェの端の席で、

ホロ端末に映し出された名簿を流し読みしていた。


薄暗い。

ギャザー30の内部は常に薄暗い。

節電ではなく、見えすぎない方が都合のいい者が多いから、という理由で。


名簿の中に、ひとつ引っかかるシップナンバーがあった。


『SR-774・コールサイン〈ハーピー〉』


舌打ちが漏れる。


ハーピー。

バウンティハンターのオルカ・レインが使う船だ。


まずい。

昨日、ジノは例の男に「安全な隠れ家」を売った。


情報が漏れたか、それとも彼女は独自に嗅ぎつけたのか。


どちらにしても、ジノには対処が必要だった。


彼はカップを置き、静かに立ち上がった。

この要塞で生き延びるコツは、

嵐が来る前に三手先を打つことだ。


◇ ◇ ◇

03 セル・ナナシ/要塞生まれの少女


セルは今日も〈外縁通路〉を走っていた。


誰も来ない、パイプと配線だらけの裏道。

ここはセルだけの場所だ。


十四歳。

ギャザー30の「外」を知らない。


生まれた時からここにいる。

この要塞が宇宙に浮かんでいることも、

本物の空があることも、

頭ではわかってるけど、ぴんとこない。


通路の突き当たりに、外が見える小窓がある。


セルはそこに張り付いて、

今日も新しい船が来るのを眺めた。


一隻。

スリムで、傷だらけで、でも速そうな船。


(どこから来たんだろう)


セルはいつもそれを考える。

あの船は、どこかの「ふつうの星」から来たのかな、と。


そのとき、背後で足音がした。


「ガキ、ここで何してる」


振り返ると、知らない大人が立っていた。

西側区画の色。

つまり、碌でもない人間だ。


セルは迷わず走り出した。


◇ ◇ ◇

04 グレッグ・ファウスト/逃亡者


息が切れる。


グレッグ・ファウストは薄暗い部屋の隅で、

膝を抱えて壁にへばりついていた。


三日間、ほとんど寝ていない。


情報ブローカーに金を払って手に入れた「安全な部屋」。

でも、安全なんてどこにもないのかもしれない。


グレッグの手元には、小さなデータチップがある。

《アストラ・コープ》の内部告発データ。


植民星ひとつを潰しかねない情報が、

このちっぽけなチップの中に入っている。


公開すれば、何万人もの命が救われるかもしれない。


でも、公開する前に自分が消えたら、意味がない。


(誰かを信じるしかない)


グレッグは震える手でホロ端末を開いた。

ギャザー30の闇市ネットワークに繋いで、

ある人物へのコンタクトを試みる。


賭けだ。

でも、もう賭けるしかない。


◇ ◇ ◇


この要塞に、善人はいない。


というより、この要塞に来た時点で、

誰もが何かを失っている。


故郷か、身分か、過去か。

あるいは、未来か。


ギャザー30は宙に浮かぶ。

どこの国でもなく、どこの法律も届かない場所に。


だから人が集まる。

逃げてきた者。

追いかけてきた者。

生まれてしまった者。

利用しに来た者。


三万人が暮らすこの要塞で、

今夜、何かが動き始めようとしていた。


バウンティハンターの船が接岸する。

情報屋が三手先を考える。

少女が裏道を走る。

逃亡者が最後の賭けに出る。


それぞれが知らないまま、

同じひとつの物語の中に引き込まれていく。


ギャザー30。


宇宙に浮かぶ、欲望と生存の要塞。


これは、そこに生きる者たちの話だ。

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