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答えはまだ、雲の向こう側に隠されている。

4/4掲載

挿絵(By みてみん)


プロローグ:雲上の境界線

そこは、空と機械が溶け合う場所だった。


地上から数千メートル。

 かつて人類が「天」と呼んだ領域は、今や巨大な鉄の柱によって貫かれている。


高層ビルの屋上。

 張り出したコンクリートの縁に、一人の少女が立っていた。


背負ったバックパックのインジケーターが、規則正しく青い光を刻んでいる。

 パルス、パルス、パルス。

 心拍数と同期するかのような、静かなリズム。


目の前に広がるのは、雲の海を突き抜けてそびえ立つ摩天楼の群れだ。


かつて文明の象徴だったそれらは、今やただの巨大な墓標のようにも見える。

 あるいは、世界を繋ぎ止めるための杭か。


「……今日も、変わらない」


少女の呟きは、薄い空気の中に溶けて消えた。


視界の先、ひときわ高く、威容を誇る中央塔。

 青い光を放つその構造体は、この世界の心臓部だ。


だが、その心臓は少しずつ、確実に狂い始めている。


足元のコンクリートから伝わる微かな振動。

 それは巨大な歯車が噛み合わないまま回転しているような、不気味な違和感だった。


少女は目を細める。


プロローグで見たあの日。

 この空が、ありえない色に染まった瞬間を彼女は覚えている。


惑星特有の周期。

 あるいは、崩壊の予兆。


日によって刻々と変化する空の色は、住人たちに希望と絶望を交互に与えてきた。

 今日の空は、どこまでも澄んだ、残酷なほどの青だ。


「行くよ」


誰に言うでもなく、彼女は一歩踏み出した。


死に至るほどの高さ。

 吹き抜ける暴力的な風。


だが、少女に恐怖はない。

 慣れ親しんだバックパックの重みだけが、自分をこの世界に繋ぎ止める唯一の実感だった。


これから始まるのは、墜落の物語か。

 あるいは、誰も届かなかった頂上への軌跡か。


答えはまだ、雲の向こう側に隠されている。


少女は手元の端末を起動した。

 青い光が網膜に焼き付く。


――接続、完了。


世界が、静かに動き出した。

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