この港町で、どんな出会いが待っているのか。
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プロローグ
俺は死んだ。
高橋悠斗、28歳。
ブラック企業で毎日残業を繰り返す、ただのサラリーマンだった。
休日もスマホでネット小説を読んで現実逃避。
彼女も友達もいない、味気ない毎日。
ある雨の夜、コンビニ帰りに信号無視のトラックに轢かれた。
痛みは一瞬。
その後、すべてが真っ暗になった。
◇◆◇◆◇
……次に目を開けた時、そこは真っ白な空間だった。
「ようこそ、悠斗さん。」
柔らかい女性の声が響く。
目の前に、光をまとった美しい女性が浮かんでいる。
女神だ、と直感した。
「あなたは事故で亡くなりました。でも、幸運にも異世界転生の機会が与えられます。」
異世界転生……?
俺は呆然とした。
ネット小説で何度も読んだシチュエーション。
まさか自分が主人公になるとは。
「新しい世界で、自由に生きてください。特別な能力もプレゼントしますね。」
女神はにこりと笑い、指をパチンと鳴らした。
瞬間、頭の中に青い画面が浮かぶ。
【ステータス】
名前:ユウト(転生名)
年齢:17歳
職業:冒険者見習い
スキル:鑑定LV1、魔法全属性適性、身体強化、アイテムボックス
チート級の能力がズラリと並ぶ。
「これで十分でしょ? それじゃ、行ってらっしゃい。」
女神の声が遠ざかる。
視界がぐるぐる回り、意識が飛んだ。
◇◆◇◆◇
――目が覚めると、俺は船の上にいた。
木のデッキが波でゆっくり揺れる。
潮風が頰を強く撫で、塩の匂いが鼻を突く。
「うわっ……本物かよ。」
慌てて体を起こす。
周囲を見回せば、髭面の船員たちがロープを引いたり帆を調整したりしている。
「船長! 港まであと少しだ!」
誰かの大声が飛ぶ。
俺はよろよろと船縁に寄った。
そして、息を飲んだ。
目の前に、息を呑むほどの光景が広がっていた。
青い海が夕焼けの空を映し、キラキラと輝いている。
前方に、木造の建物が密集した港町。
運河のような水路が町の中心を貫き、船や小舟がたくさん停まっている。
家々は二階建て、三階建ての木造で、窓から暖かいオレンジの灯りが漏れている。
街灯が道を優しく照らし、煙突からは細い煙が上がる。
町の奥、緑の丘の上に巨大な城がそびえ立っている。
尖塔がいくつも空を突き、霧に包まれて幻想的だ。
周囲を山々が囲み、城壁は石造りで重厚。
空はピンクと紫の雲に染まり、太陽がゆっくり沈みかけている。
水面にその光が反射して、まるで宝石を散らしたよう。
船が波を切るたび、白い航跡が尾を引く。
「ここが……俺の新しい世界……。」
俺は小さく呟いた。
自分の体を見下ろす。
17歳くらいの若々しい体。
筋肉が程よくつき、動きやすい。
着ているのは粗末な麻のシャツとズボン、腰に短剣が差してある。
記憶が少しずつ混ざってくる。
この身体の元の持ち主は、港町出身の孤児。
冒険者になりたくて、船に乗って旅に出ていた少年だったらしい。
女神が完璧に記憶を融合させてくれた。
ステータス画面をもう一度頭に呼び出す。
【レベル:1】
【所持金:5シルバー】
まだ弱いが、スキルがあればなんとかなりそう。
船がさらに進む。
水路が狭くなり、両側の建物がぐっと近づいてくる。
バルコニーから洗濯物が干され、住民の笑い声が聞こえる。
露店が並び、魚を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
「新鮮な魚だぞー! 今朝獲れたばかり!」
「宿屋の部屋、空いてるぞ! 一泊三シルバーだ!」
子供たちが裸足で走り回り、犬が元気に吠える。
すべてが生き生きとしている。
俺は拳を握りしめた。
前の世界では、ただ消耗するだけだった人生。
ここでは違う。
魔法を使って、冒険して、強くなって、自由に生きる。
あの城の王族はどんな人だろう。
この港町で、どんな出会いが待っているのか。
ワクワクが止まらない。
船がゆっくり桟橋に近づく。
船員の一人が俺に声をかけた。
「おい、ユウト! ぼーっとしてんじゃねえ。荷物下ろしの手伝え!」
俺は慌てて笑顔を浮かべた。
「わ、わかった!」
新しい名前で呼ばれるのが、まだ少し不思議だ。
でも、もうここが俺の居場所。
船が完全に停まる。
板がかけられ、町の喧騒が一気に近くなる。
俺は深呼吸して、一歩を踏み出した。
潮風が背中を押す。
灯りの反射した水面が、まるで俺を迎えるように輝いている。
これが、異世界転生の始まり。
港町アルカディアで、俺の物語が動き出す。
(プロローグ 終わり)
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