蒼唯 [3]
思えばいつもそうだ。
蒼唯は女の子なんだよと、まわりの大人はいつも当たり前のようにそう言った。
もちろん、蒼唯は自分が女性であることは分かっているし、変えようのないことだとも理解している。
ただ女性として生まれたというだけで、身につけるものから趣味嗜好、性格まで「女の子らしさ」を遵守しろと強要されているような気がしてならない。
何故そんなことをするのか、蒼唯には分からない。
理由を訊ねることもできない。
いつでも纏わりついてくる「女の子らしさ」から抜け出すこともできない。
苦しさを終えられない。
いつまで待てばいいのだろう。
いつになったら、「女の子らしさ」を壊すことができるのだろう。
どうすれば、逃げられるんだろう。
そうして思考の渦にはまっている間に、帰りの会まで終わってしまったようだ。
今日の日直が「きりーつ、気をつけー、礼ー」とよく通る声で号令をした後、全員で「さようなら」と言う。
蒼唯もぼんやりとしながら、軽く頭を下げて小さく「さようなら」と呟く。
頭を下げた拍子に、肩の方へ流すように結っていた三つ編みの毛先が視界に入った。
ずいぶんと伸びたな。と思った。
たしか、下ろしたら肩甲骨の下まで届いているはずだ。
蒼唯はランドセルを背負って、他の児童たちと一緒に教室から吐き出される。蒼唯の教室は昇降口の目の前なので、登下校のときは楽だ。
髪を短くしたいっていったら、お母さん、怒るかな。
靴に履き替えながら、短髪の自分を想像してみる。
そのとき、強い風が前髪を攫っていった。その初夏の匂いを孕んだ風は、周りの木々も騒めかせて去っていく。
風を受けてか、赤いランドセルにぶら下がっている防犯ブザーと交通安全のお守りが、がちゃがちゃとぶつかり合いながら音を立てて暴れた。
さっき、三つ編みが左頬にぶち当たってちょっと痛かった。
「この髪も切って、吹き飛ばしてくれたらよかったのになぁ·······。」
なんちゃって、とひとりで呟く。風と一緒に斬りつけてくるなんて、妖怪のかまいたちでもないのに。
まわりを見渡すと、蒼唯と同じく下校中の小学校たちがちらほらといる。
みんな、女の子は赤色の、男の子は黒色のランドセルを背負っている。他の色のものを背負っている子も見たことはあるが、いま蒼唯の近くにはいないようだ。
黒のランドセルを見る度に、蒼唯は、いいなぁと思う。
黒は、ただ単純にかっこいい。シンプルかつスタイリッシュで、基本的にどんな色とも合わせられる。特に、ランドセルのような革っぽい材質のものなら尚更だ。
対して、赤色はなんとなく暑い感じがする。
蒼唯の個人的な好みではあるが、赤は情熱的で燃え盛るようなイメージがあって、自分の性に合わないと感じている。
「ランドセル、いろんな色が選べるようになったら、もっと素敵なのになぁ。」
やっぱり、子どもってなんにも選べないんだなぁ。
またどんやりとした気持ちになってしまい、蒼唯はため息をつく。
やれやれ、今のあおいはネガティブモードのようだ。そんな風に心の中で呆れてみる。
すぐに顔を上げて、その嘆きを振り切るかのように、家へと駆け出した。




