蒼唯 [2]
未来のことを考えるとき、蒼唯の耳にはなにも届かなくなる。その未来が、良いものでも悪いものでも。
頭の中にぼんやりとしたビジョンが浮かんで、良い未来ならふわふわと、悪い未来ならどんよりとした心地でそれを構築しながら眺めるのだ。
料理を作っている自分。大人になった自分。
ふわふわとしたイメージの中で、大人になったエプロン姿の蒼唯が朗らかにお客さんと接している。
良い未来だなぁ、と白ご飯を口に運びながら思う。
なりたいものになれるなんて、なんて素敵なことだろう。
だけどどうしても、己の姿だけが見えない。
両親やまわりの大人が語る『お姉さん』になった自分が、全く想像できない。
あおいは、いつかお姉さんになる。
あおいは、女の子。蒼唯は心の中で呟いた。
────嫌だなぁ。
「·········ちゃん。·········あおいちゃん?」
咲に怪訝そうに声を掛けられ、蒼唯はハッと意識を戻した。
いつの間にか心臓はドクドクと早鐘を打ち、脂汗は肌を滑るたび不快感を残して背中を伝っていた。
「·······ごめん。なぁに?」
「もうすぐ給食の時間終わっちゃうよ?おかわりしないの?」
「えっ、ほんとだ!」
時計を見て、あと五分ほどで給食が終わることに気づく。空になった器を持って立ち上がると、がががと音を立てて椅子が後退した。
咲は「あおいちゃんはよく食べるねぇ」と蒼唯の背中に投げかけて、牛乳をずずっと飲み干して完食した。
蒼唯はその声を受け止めながら、
盛れるだけ盛った、という大食いの風格漂う麻婆豆腐をちらりと見ると、咲は呆れたように嘆息した。
「そんなにいっぱい食べるの、全然女の子らしくないよ。」
瞬間、蒼唯の喉と身体が、凍ってしまったかのように動きを止めた。また、嫌な汗が背中をなぞった。
あおいはまた、「女の子らしさ」を求められているんだ。
「······えへへ。·········あ、もう食べないと。あと三分じゃん、急げ急げ」
ちゃんと笑えているかどうかは、蒼唯には分からなかった。
なぜ女の子らしさが必要なのか、それも分からなかった。




