蒼唯 [1]
どうしてあおいの「ふつう」が、みんなの「ふつう」じゃないんだろう。
蒼唯は、そんなことを毎日考えている。
「ねぇ咲ちゃん」
「なーあにー?」
学校の午前の授業が終わって給食の時間、友達である咲に話しかけた。午前中、苦手な社会も体育もあったので、お腹はぺこぺこだ。
蒼唯は口に運んだ麻婆豆腐をごくんと嚥下して、「咲ちゃんって、自分のこと『わたし』って言うよね。なんで?」と訊いた。
「んーと、ママがね、『自分のことをさきっていうのは、子供っぽいからやめなさい』って言ってたの。わたしもね、あおいちゃんみたいに『さき』って言ってたけど、もうおねーさんだから、わたしって言うの!」
すらすらとそう語ると、えっへんと誇らしげに胸を張った。もうすぐ赤ちゃんが産まれるそうで、以前から「おねーさんになる!」と嬉しそうに話してくれていた。
―――子供っぽい。あおいちゃん。
誇らしげな咲とは反対に、その二言で蒼唯の心に波紋が生まれた。
「ちゃん」づけに関しては、蒼唯が「あおいちゃん」と呼びかけられる度に小さな傷が溜まっていっている。
正直げんなりしてしまうほどには、蒼唯は傷ついていた。
あおいは、自分のことを「わたし」って呼びたくなくて「あおい」って言ってるだけなのに。子供っぽいって思われちゃうのかな。
むう、と渋い顔をする。「ちょっ、変顔しないでよ。牛乳噴く」と咲に怒られ、外側にもやもやを表す代わりに頭の中でぐるぐると思考を続ける。
給食を食べる手は止めないものの、もやもやは暗く深く沈んでいく。
そのうち「わたし」って言わなきゃいけないのかな。そうなったらきっと、あおいは苦しくて、自分のことも嫌いになっちゃいそう。
小学生が食べやすい味つけの餡とやわらかい豆腐が喉を滑って、胃が満たされていく。
食べたものが身体の中に入って消化されること、それらが身体を形成すること、『食事』に関することすべてが不思議で面白さに満ちていた。
蒼唯は、将来は料理人になりたいと夢見ている。まだ包丁を握ったこともないが、お料理って絶対に楽しいだろうなぁと日々夢想しては、お母さんが晩ご飯をつくる様子を眺めている。




