湖緒 [4]
決して二人には言えない思いは胸に秘めて、宿題を片付け、風呂に入り、歯を磨き、布団に潜った。
··········寝たくないなぁ。でも眠い。いや寝たくない、けど眠い。
頭の中でそれをぐるぐると続けていたけど、やがて睡魔に負けて、目を瞑る。
◇ ◆ ◇
和泉さんや光司さんがどれだけ優しくても、クラスメイトたちがどれだけ気を遣っても、ぼくの「死にたい」は消えない。消えないどころか、夜、眠りにつくたびに溜まっていく。
悪夢が襲ってくるのだ。
家を、家族を、苦しめ燃やした炎が。
身体へ纏わりつき、ぼくを焼き尽くさんと這い上ってくる。
そして囁く。口々に、呪うように。
「お前が死ねば良かったのに。」
その通りだ。ぼくが死ねば良かった。
生きるべきはぼくじゃなかった。
和泉さんや光司さんだって、本当に、心から、ぼくのことを大切にしているとは限らない。
大切にしようとしてくれているのはよく伝わってくるけど、きっとぼくよりも、親友であるお父さんとお母さんに生きていてほしかったと思っているはずだ。
「ぼくが死んじゃえばいいのに。」
ぼくがそう呟くと、炎はますます勢いを増してぼくの身体を焼き尽くした。
◇ ◆ ◇
この夢を見た夜は決まって、深夜に目覚める。
いつも汗だくで、目尻と枕が涙で湿っているのだ。
心臓がばくばくと早鐘を打って、呼吸がぜえぜえと乱れる。
もうずっと、この夢だ。事件が起きてから、夜眠る時、毎日のようにこの悪夢を見ている。
だから毎日とてつもない寝不足だ。
ふたりにも、目の下に色濃く浮かぶクマを心配されてしまった。
あの日から、ぼくは火が怖くて怖くてたまらなくなった。
この家に来てすぐの頃、晩ご飯のカレーを調理中だったかな、鍋を温めるガスコンロの火を見てしまい、パニックに陥ってしまった。
頭の中を、あの業火が迸る映像が埋め尽くした。そうしたら、すさまじい恐怖の感情からしばらく抜け出せなくなっていた。
結果、ぼくは過呼吸を起こして、泣き叫んでいたらしい。らしい、というのは、その時の記憶がないからで、ついこの間教えてもらった。
いつの間にか、ガスコンロはIHコンロに変わっていた。
火が怖くなったのはぼくのせいではないのだけれど、それでも申し訳なく思ってしまった。
ぼくだけが生き残ったのがつらくて。
運よく生きていれているのに「死にたい」と願うことが苦しくて。
みんなから「かわいそう」と思われることが嫌で。
火が怖いことが、これからの人生でどんなに困難なのか想像したくなくて。
ぼくが他人から浴びる視線が、想像が、気持ちが、ぜんぶがぼくを傷つけていて。
だから、ぼくは死にたいのだ。
8歳の湖緒編、これにて終わりです。
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