表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「こんな世界、」  作者: 蒼城 春
第一章 8歳―2010年
4/10

湖緒 [3]



 あの葬儀の日から、色々なことが変わった。


 お家は燃えちゃったからもうないこと。

 ぼくは事件に遭ってから、炎がぼくを燃やし尽くして、「お前が死ねばよかった」と呪う悪夢を見るようになったこと。

 和泉さんと光司さんのもとで生活するようになったこと。

 それに伴って、苗字が「(かなめ)」から「澄川」に変わったこと。

 学校が変わったこと。

 お父さんも、お母さんも、誠知(せいじ)もいないこと。誠知はまだ五歳で、それに、弟ができて嬉しかったのに。


 あとは、色々と難しいことも多いらしい。親権とか、相続権とか、戸籍とか、とにかくたくさん。ぼくにはよく分からなかったけど、二人はいつもぼくの意見を聞いて、できる限りのことをしてくれた。ずっとぼんやりしていてあまり覚えていないけど。



 ぼくら一家は、放火犯による火災の被害に遭った。

 お父さんと、お母さんと、弟の誠知が、火傷により死亡。唯一生き残ったぼくも火傷を負った。

 火傷は、おでこの右側、左頬、右腕を広範囲、左脚のすね。

 事件があったとき、通行人が通報して消防と警察が駆けつけた。その時にはすでに、家全体に火の手が回っていた。ぼくは煙で苦しくて、息をするために窓を開けたものの失神していた。

 四人とも救急搬送され、三人はすぐに死亡と言われたそうだ。ぼくもかなり危なかったらしい。


 なんで、ぼくだけが助かったんだろう。

 なんで、優しくて頭の良いお母さんが、炎に焼かれなければならなかったのだろう。

 なんで、明るくて面白いお父さんが、息ができずに苦しまなければならなかったのだろう。

 なんで、可愛くてちょっとだけうざったい誠知が、燃えて脆くなった壁の下敷きにならなければなかったのだろう。


 なんで、ぼくが死ななかったんだろう。


「湖緒くん?」


 光司さんに声を掛けられ、ハッと意識を戻す。また、泣いていたみたいだ。ティーシャツの袖で目元を拭う。少し動いたからか、座っているソファがぼくの身体を跳ね返した。

 綺麗な青色の布地と、ふかふかな座り心地がお気に入りだ。和泉さんは青色が好きだと言っていた。お父さんとお母さんも。


「大丈夫。なあに?」


 特に用はないんだけど、と笑うと、ふいに、ぼくの左頬にそっと触れた。特に痛みはない。あんまり哀しい顔をしないでほしい。ぼくも哀しくなってきちゃう。

 光司さんの手は上へ移動して、ぼくの頭を撫でている。大事なもののように。

 和泉さんもぼくの隣に座る。右手を取ると、壊れ物を扱うかのように優しく握った。手の甲には火傷の跡がある。こっちももう、痛くない。


「学校は、どう?友達はできた?」

「ううん、できてない。みんなぼくに気を遣ってるのかな。あんまり話しかけてもらえないよ」

「それは嫌だね〜。小学生は友達できないのつらいぞ〜」

「うん、やだ。」


 ぼくはクラスメイトたちのことを考える。ただでさえ六月という中途半端な時期に来た転校生が、にこりともしない(できないんだけど)火傷のあるやつだったら、そりゃ話しかけづらいだろう。


「でもね、このあいだ席替えをして、窓際の席になったんだ。ぽかぽかしてて、風も気持ち良くてお気に入り。最近は雨が多いから、じめじめしてるけど。」

「はは、梅雨だからね〜。湖緒くんは髪がちりちりしちゃうもんね、湿気で」


 今度は和泉さんがぼくの頭をわしゃりと撫でた。和泉さんはよく頭を撫でてくれる。そうされるとぼくが落ち着くことを知ってるみたいに。


 でもきっと、二人とも知らない。


 ぼくが、いつも死んでしまいたいと思っていること。



この作品とはあまり関係はないのですが、今日は東日本大震災から15年が経ちましたね。

お亡くなりになられた方々へ、謹んで哀悼の意を表します。被災された方々も、穏やかな一日を過ごせたことを祈っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ