湖緒 [3]
あの葬儀の日から、色々なことが変わった。
お家は燃えちゃったからもうないこと。
ぼくは事件に遭ってから、炎がぼくを燃やし尽くして、「お前が死ねばよかった」と呪う悪夢を見るようになったこと。
和泉さんと光司さんのもとで生活するようになったこと。
それに伴って、苗字が「要」から「澄川」に変わったこと。
学校が変わったこと。
お父さんも、お母さんも、誠知もいないこと。誠知はまだ五歳で、それに、弟ができて嬉しかったのに。
あとは、色々と難しいことも多いらしい。親権とか、相続権とか、戸籍とか、とにかくたくさん。ぼくにはよく分からなかったけど、二人はいつもぼくの意見を聞いて、できる限りのことをしてくれた。ずっとぼんやりしていてあまり覚えていないけど。
ぼくら一家は、放火犯による火災の被害に遭った。
お父さんと、お母さんと、弟の誠知が、火傷により死亡。唯一生き残ったぼくも火傷を負った。
火傷は、おでこの右側、左頬、右腕を広範囲、左脚のすね。
事件があったとき、通行人が通報して消防と警察が駆けつけた。その時にはすでに、家全体に火の手が回っていた。ぼくは煙で苦しくて、息をするために窓を開けたものの失神していた。
四人とも救急搬送され、三人はすぐに死亡と言われたそうだ。ぼくもかなり危なかったらしい。
なんで、ぼくだけが助かったんだろう。
なんで、優しくて頭の良いお母さんが、炎に焼かれなければならなかったのだろう。
なんで、明るくて面白いお父さんが、息ができずに苦しまなければならなかったのだろう。
なんで、可愛くてちょっとだけうざったい誠知が、燃えて脆くなった壁の下敷きにならなければなかったのだろう。
なんで、ぼくが死ななかったんだろう。
「湖緒くん?」
光司さんに声を掛けられ、ハッと意識を戻す。また、泣いていたみたいだ。ティーシャツの袖で目元を拭う。少し動いたからか、座っているソファがぼくの身体を跳ね返した。
綺麗な青色の布地と、ふかふかな座り心地がお気に入りだ。和泉さんは青色が好きだと言っていた。お父さんとお母さんも。
「大丈夫。なあに?」
特に用はないんだけど、と笑うと、ふいに、ぼくの左頬にそっと触れた。特に痛みはない。あんまり哀しい顔をしないでほしい。ぼくも哀しくなってきちゃう。
光司さんの手は上へ移動して、ぼくの頭を撫でている。大事なもののように。
和泉さんもぼくの隣に座る。右手を取ると、壊れ物を扱うかのように優しく握った。手の甲には火傷の跡がある。こっちももう、痛くない。
「学校は、どう?友達はできた?」
「ううん、できてない。みんなぼくに気を遣ってるのかな。あんまり話しかけてもらえないよ」
「それは嫌だね〜。小学生は友達できないのつらいぞ〜」
「うん、やだ。」
ぼくはクラスメイトたちのことを考える。ただでさえ六月という中途半端な時期に来た転校生が、にこりともしない(できないんだけど)火傷のあるやつだったら、そりゃ話しかけづらいだろう。
「でもね、このあいだ席替えをして、窓際の席になったんだ。ぽかぽかしてて、風も気持ち良くてお気に入り。最近は雨が多いから、じめじめしてるけど。」
「はは、梅雨だからね〜。湖緒くんは髪がちりちりしちゃうもんね、湿気で」
今度は和泉さんがぼくの頭をわしゃりと撫でた。和泉さんはよく頭を撫でてくれる。そうされるとぼくが落ち着くことを知ってるみたいに。
でもきっと、二人とも知らない。
ぼくが、いつも死んでしまいたいと思っていること。
この作品とはあまり関係はないのですが、今日は東日本大震災から15年が経ちましたね。
お亡くなりになられた方々へ、謹んで哀悼の意を表します。被災された方々も、穏やかな一日を過ごせたことを祈っています。




