湖緒 [2]
澄川さん―――澄川和泉さんは、ぼくのお父さんとお母さんよりも二歳年下で、高校生のときからふたりの親友らしい。とても自由で、自分の心のままに生きてるって感じの人だ。
長くてさらさらな、青色のインナーカラーの髪がぼくは好きだ。
和泉さんは、光司さんというイケオジと夫婦だ。お父さんとお母さん、ふたりとも光司さんと面識はなかったのだけれど、お互いコミュニケーション能力が高くてすぐに打ち解けたんだって。
人見知りのぼくとは全然違うなぁ。
精進落とし?のこの場で、ぼくには誰も話しかけない。
昨日行なったお通夜でも、さっき終わった火葬や告別式でも。
ぼくも誰にも話しかけない。和泉さんと光司さんの二人としか話してない。
お母さんは、親戚の人たちとはあまり仲が良くない。なんでかはまだ知らない。お母さんの両親―――おじいちゃんとおばあちゃんとの関係は良いらしいけど、今は二人とも他界している。つまり、親戚には味方がいない。
なので、ぼくは遠巻きにひそひそされるだけだ。
お母さんのお兄さんがお葬式を執り行ってくれている。喪主、っていうらしい。
ぼんやりしてると、頭上から何かが弾けたような音がした。なんだっけこれ、舌打ちの音?
「クソどもが。」
続けてドスの効いた低い声も耳に届く。和泉さんがブチギレてるの、初めて見た。呑気にそんなことを考える。
「湖緒くん」と、打って変わってやわらかな声が投げかけられた。和泉さんは目の前に移動して、ぼくと目を合わせてくれる。気がつくと、光司さんもこちらに来てぼくを見つめていた。
「今からはわたしの言うことは決して強制ではないし、同情とか向こう見ずな偽善でもない。いや、同情は少しあるかも、ごめんね。とにかく、湖緒くんの好きにしてほしいんだ。」
二人の雰囲気が、緊張感を帯びたものになったのを肌で感じた。
「もしよかったら、わたしたちの家族になってくれないかな。養子、ってことで、父さんと母さん二人との関係は親子なんだけど。だから相続権―――二人の財産ね―――、も湖緒くんにある。」
「ぼくは、厄介者、じゃないの?」
初めて口に出してみた言葉は、さっき拾ってきたばかりのものだからかうまく馴染まず、いつの間にか静まり返った会場に硬く響いた。
光司さんは凍るような瞳でまわりを静かに睨みつけた。さっきぼくを厄介者と言った知らないおじさんは、髪の毛がなくなったおでこに冷や汗を流している。
「そんなわけないでしょう。これは、わたしたちの、『そうなったら嬉しいな』っていう願望なの。もちろん、ここにいる親族の誰かのもとで暮らすこともできる。」
まぁそれは叶うかは微妙だけど、とつけたした。
そんなの一択だった。迷うことなんてなかった。
ぼくは、しっかりと全員の耳に届くよう、しっかりとした声で言った。
「和泉さんと、光司さんの二人といたい。」




