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「こんな世界、」  作者: 蒼城 春
第一章 8歳―2010年
3/10

湖緒 [2]



 澄川さん―――澄川和泉(いずみ)さんは、ぼくのお父さんとお母さんよりも二歳年下で、高校生のときからふたりの親友らしい。とても自由で、自分の心のままに生きてるって感じの人だ。

 長くてさらさらな、青色のインナーカラーの髪がぼくは好きだ。


 和泉さんは、光司(こうじ)さんというイケオジと夫婦だ。お父さんとお母さん、ふたりとも光司さんと面識はなかったのだけれど、お互いコミュニケーション能力が高くてすぐに打ち解けたんだって。

 人見知りのぼくとは全然違うなぁ。


 精進落とし?のこの場で、ぼくには誰も話しかけない。

 昨日行なったお通夜でも、さっき終わった火葬や告別式でも。

 ぼくも誰にも話しかけない。和泉さんと光司さんの二人としか話してない。


 お母さんは、親戚の人たちとはあまり仲が良くない。なんでかはまだ知らない。お母さんの両親―――おじいちゃんとおばあちゃんとの関係は良いらしいけど、今は二人とも他界している。つまり、親戚には味方がいない。

 なので、ぼくは遠巻きにひそひそされるだけだ。


 お母さんのお兄さんがお葬式を執り行ってくれている。喪主、っていうらしい。


 ぼんやりしてると、頭上から何かが弾けたような音がした。なんだっけこれ、舌打ちの音?


「クソどもが。」


 続けてドスの効いた低い声も耳に届く。和泉さんがブチギレてるの、初めて見た。呑気にそんなことを考える。


 「湖緒くん」と、打って変わってやわらかな声が投げかけられた。和泉さんは目の前に移動して、ぼくと目を合わせてくれる。気がつくと、光司さんもこちらに来てぼくを見つめていた。


「今からはわたしの言うことは決して強制ではないし、同情とか向こう見ずな偽善でもない。いや、同情は少しあるかも、ごめんね。とにかく、湖緒くんの好きにしてほしいんだ。」


 二人の雰囲気が、緊張感を帯びたものになったのを肌で感じた。


「もしよかったら、わたしたちの家族になってくれないかな。養子、ってことで、父さんと母さん二人との関係は親子なんだけど。だから相続権―――二人の財産ね―――、も湖緒くんにある。」

「ぼくは、厄介者、じゃないの?」


 初めて口に出してみた言葉は、さっき拾ってきたばかりのものだからかうまく馴染まず、いつの間にか静まり返った会場に硬く響いた。


 光司さんは凍るような瞳でまわりを静かに睨みつけた。さっきぼくを厄介者と言った知らないおじさんは、髪の毛がなくなったおでこに冷や汗を流している。


「そんなわけないでしょう。これは、わたしたちの、『そうなったら嬉しいな』っていう願望なの。もちろん、ここにいる親族の誰かのもとで暮らすこともできる。」


 まぁそれは叶うかは微妙だけど、とつけたした。


 そんなの一択だった。迷うことなんてなかった。

 ぼくは、しっかりと全員の耳に届くよう、しっかりとした声で言った。


「和泉さんと、光司さんの二人といたい。」



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