湖緒 [1]
なんで知らない人ばっかりが、ぼくのことを決めようとするんだろう。
目の前で、知らない人たち―――ぼくの親戚らしいんだけど―――がよく分からないことを話している。
「うちでは引き取れないわ。高校生と中学生の息子がいるもの。これ以上は面倒見れないわよ。」
「こっちも無理だよ。もうすぐ父親の介護が始まるんだ。子供の世話なんて········、そんな余裕はない。」
知らないおばさんが、大ぶりの綺麗な石がついたイヤリングをきらきらさせて言う。知らないおじさんも、大きな声でそう話している。
ちょっと頭ぐわんぐわんするから、声抑えてほしいんだけどな。
ちなみにあとで知ったのだけど、派手な装飾品も、大きな声で話すことも、お葬式の場ではマナー違反らしい。
会話を聞くに、ぼくの話をしているみたいだ。どうやら、誰がぼくを引き取るかが決まらなくて困っているようだ。
「まったく········、とんだ厄介者を遺してくれたな。」
知らないおじさんが、忌々しそうにそう吐いた。
ぼくは、厄介者、っていうやつなんだな。
いま耳に届いたばかりの新鮮な陰口は、喪失感と絶望と希死念慮とでぼうっとする頭に小さな棘と一緒に突き刺さった。
ぼくは黒いパーカーの上から、まだ包帯が巻かれたままの右腕をそっと撫でた。少しだけ、ずきりと痛みが走る。
まだ火傷が治っていないから、きっちりとした服装じゃなくてもいいんだって。
たしかに、まわりの大人たちが着ているような服だったら、ちょっと疲れちゃうかも。
ふう、と薄くため息をつき、車いすの背もたれに体重を預けた。別にもう、車いすがなくても歩き回れるんだけど、病院の看護師さんが「一応車いすに乗っててね。火傷は治っていないんだからね」と言い、半ば強制的に乗せられた。
こんなことしないでほしいのに。ぼくが死んでおけばよかったんだから、身体を大事になんてしたくないのに。
こういうとき、大人たちはぼくの言うことを聞いてくれない。困ったように笑うだけだ。
···········さっきから、うざったいなぁ。
ちらちらと送られる視線、こそこそとあちこちで囁かれる声、全てがぼくを「可哀想」とせせら笑っている気がする。
「湖緒くん、大丈夫?火傷、痛いかな。·······つらかったら、病院に戻ってもいいんだからね」
気分が沈んだところで、頭上からハキハキとした声が降ってきた。
澄川さんはぼくに小さく笑いかける。
この人は結構好きだ。お父さんとお母さんの親友らしくて、いつも明るく優しく接してくれる。若干、瞳の奥に「可哀想」がちらついてるけど、過度な同情や憐憫がなくて、ぼくも自然体でいれている。
それが、ぼくにとってありがたかった。
「だいじょぶ」と小さく答えると、澄川さんも小さく頷いた。




