プロローグ
よろしくお願いします。
僕らは弱い。
それは、無自覚の悪意にすら抗えないほどに。生まれた時から、きっと死ぬまで。強くなどなれない。
湖緒がぽつり、と、だけど確かな声で言う。
「おれたち、弱いからって傷つけられてばっかり。おれたちは、可哀想でもおかしくもないのに、みんな『可哀想な子だ、おかしなやつだ』って決めつけて、分かりきった気になってる。」
湖緒は僕の目を見る。湖緒の瞳に、僕が映っている。
「見た目が、過去が、境遇が、すべてだなんて許せない。他人から思われている自分が、自分の理想じゃないことが、たまらなく苦しいんだ。」
そうなんだよ。僕も、みんなが思っているような「わたし」が大嫌いで、心の奥にいる理想の「僕」には会えない。
ふいに、下校を促すチャイムが、茜空を震わせた。続けて完全下校を知らせるアナウンスも、音質の悪いスピーカーからノイズ混じりに聞こえてくる。
それでも、淡く輝く金色の雲の下で、屋上に座り込んで僕らは話し続けている。帰らなきゃいけないけど、帰りたくない、まだ話していたい。
スカートの裾を握りしめる。こんなひらひらとした布切れより、湖緒のような学ランを着たかった。いいなぁ、かっこいいなぁ。そんな羨望が少し湧く。
当たり前のように自分の性別に合ったものを選べるみんなが羨ましい、なんて、わがままだろうか。
僕は、選びたかったのに。
言えないから、―――言わないから、だめなのかな。でも、言ってもだめと言うんでしょう?大人たちは。
「苦しい、息が詰まる、もう嫌だ。死にたい、やだ、死にたくない。ちゃんと生きたい。傷つけられたくない。綺麗な世界で生きたい。無理だ。」
小さく、区切るように、吐くように、湖緒は叫ぶ。他の誰かが、それこそクラスメイトが聞いたら「めっちゃ病んでるじゃん」と笑われるだろう。語尾に「ww」ってつけてる感じで。
まあ、いいか、実際病みまくってるんだし。
笑われてもいい。何もかも間違ってるから、笑われるのも仕方ないよ。それでもいいよ、なんて思えたら楽なのかな。
生きよう、ってきみに言えたら。
僕は、「こんな世界、崩れ去ってしまえばいいのに」と泣くきみを、救った気になれるだろうか。
『「こんな世界、」』の更新は、毎週水曜日、日曜日の予定です。できる限り間に合うよう投稿しますので、よろしくお願いします。




