湖緒 [4]
2ヶ月以上もエタってて本当に申し訳ございません………!!
また、自傷行為に関する描写があります。
湖緒は苦い記憶を振り払いながら、屋上へと続く階段を上っていく。
本当なら、生徒は勝手に屋上へ行ってはならないのだが、先月出来心で屋上に行くと、鍵が壊れていることに気づいた。
バレたら絶対に怒られるよなあ、と思いつつも、毎日のように足を運んでいる。
屋上は風がよく吹いて、大きな空を望める。
自分以外の誰も来ないことや、心地良さから図書室に次ぐ、秘密のお気に入りの場所となっている。
まだ教師にはバレていないようなので、ちょっと息抜きするためだから、と言い訳をしながら階段を上っていく。
(··········今日も、空が綺麗だ)
湖緒は頬を緩めた。
階段を上り終えて、ガラス窓になっている扉から見える夕空が美しい。雲が夕陽に照らされて、縁が金色に輝いている。
重い扉を開けると、風が湖緒の全身を爽やかに吹いていった。初夏の、瑞々しい若葉の香りがする。
なにもかもが解き放たれていくような感覚になる。
扉をそっと閉めたあと、深く息を吸って「あぁ〜〜〜〜」とお腹から声を吐き出した。胸につかえていた暗い感情が、空気に溶けていくような気がした。
湖緒は慣れた足取りで、年季の入ったベンチに近づく。
いつもなら脱力しながら座るところだが、座る直前、いつもはない色が目の端に映った。
セーラー服だ。ということは女子の制服。
普段は誰一人いないというのに、今日は珍しい。そちらに目を向けると、その彼女も湖緒のことを見ていた。
(あれ、郡山さんだ?というか……、冬服?)
意外な人物との邂逅と、服装と季節感の食い違いに、湖緒は目を瞬かせた。
純粋な驚きを見せる湖緒とは対照的に、郡山さんもとい蒼唯は、顔から色を急速に失っていく。
「えっ!?どっ、どうしたの、郡山さん……?」
その青ざめぶりに動転して、湖緒はおろおろと問いかける。その尋常ではない様子から、どこか具合でも悪いのだろうかと全身を観察する。
するとその視線に気づいたのか、蒼唯は慌てた様子で両手を背中の後ろに持っていった。
「なっ、なんでもないから!!ほんとに!気にしないで!なんもない!怪しいことは!決して!」
非常に強い口調で「なんでもない」と繰り返す。これで「なにもない」なんてことはないだろう。
とりあえず、手に何かがあることが分かる。
きっと彼女にとって、人にバレてはいけないことなのだろう。
「絶対なんでもないなんてことないでしょ!……郡山さんは嫌かもしれないけど、手を見せて。」
人間不信気味の湖緒でも、さすがにクラスメイトの異変を見過ごすなんてことはしない。
ずいと詰め寄り、「心配だ」という気持ちが伝わるよう眉を下げて蒼唯を見つめる。
「…………」
「…………」
しばらく見つめ合う。
一分ほど経っただろうか。ついに蒼唯はその視線に耐えかねたのか、後ろに隠していた手を、ゆるゆると前に持ってきた。
まず、手首に刻まれたいくつかの赤い筋が目に映った。
肘上まで捲られた袖と、そこから覗く白い両腕。右手に握られている、血の付着したカッター。
できたばかりの切り傷が、左腕の手首からひどく浮かんで見えた。
「………───リスト、カット?」
湖緒は、自分の口から零れ落ちた言葉が、呆然とした響きで耳に届くのを感じた。




