湖緒 [2]
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彼女、いつも明るいけれど、たまに無理してるよなぁ。
郡山を観察していると、そんな風に思うことがある。
ついさっきもそうだ。北野から、女子力、という単語が出た時、やや笑顔が硬くなったのが見て取れた。
己がちょっと嫌な気持ちを抱いても、それを友達に伝えて空気が冷めることがある。
すぐにツッコんだのは、それを恐れてではないか、と湖緒は勝手に予想する。
キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴り、強制的に湖緒の思考は遮断される。
(勝手に他人を考察する癖、ほんとに辞めた方が良いな)
胸中でそっと反省。
郡山だって、大して関わりのない人から『この人ってこんな感じだよなぁ』と観察されるのは、きっと嫌だろう。
(僕の悪い所だ。·······──授業に集中しよう)
「んー、じゃあ·······澄川!教科書36ページから37ページまで読んで。」
ぼんやりしていたからか、大声で国語教諭に指名されてしまう。
湖緒は気を取り直し、国語の教科書を手に、椅子を引いて立ち上がる。
◇ ◆ ◇
昼食の時間が終わり、昼休み。
湖緒は、昼休みは読書をして過ごす。いま読んでいるのは、住野よるの『きみの膵臓をたべたい』だ。
若者を中心に話題となっており、本屋でも大きく宣伝されていたため購入した。
まだ途中ではあるが、心情描写が巧みで、綺麗な物語だと感じている。
地の文のくどさも、恋愛小説にありがちな甘ったるい展開もない。
これもまた、素晴らしい小説だ。
素晴らしい小説というのは世界中に溢れているが、ひとつとして同じ物語はない。
ジャンル、言葉遣い、物語の展開、キャラクターの性格や生い立ち。
改行や句読点の位置すらも、小説家はすべてを考え、己の持ちうる閃きと表現力を振り絞って、小説を書く。
その小説が、星の数ほどある『素晴らしい小説』のうちの、ひとつとなるために。
「───あ、その本!わたしも好き!」
唐突に、声が降ってきた。
ゆっくりと見上げると、郡山と目が合った。彼女も、とても嬉しそうな顔で湖緒を見返している。
「········郡山さんも、読んだの?」
「読んだ読んだ!めっちゃ素敵な小説だったよ〜!」
郡山はちらりと残りのページ数を見る。もう四分の一もないだろう。
「読み終わったら教えてくれる?もしよかったら、感想を語りたいな、って思って。」
「うん、わかった。僕でよければ」
湖緒が頷くと、彼女は喜びを溢れさせる。小説について語ることが、そんなにも嬉しいのだろうか。
「じゃあ、また」と手を振り、教室を出ていった。
湖緒も小さく手を振り返し、ふっ、と微かに息を吐いて、身体の力を抜いた。無意識のうちに背筋が強張っていたようで、脱力した途端に猫背になってしまう。
(そういえば、今日は同級生に声掛けられたの、郡山さんが初めてだ)
全くクラスメイトと話さない日だってある。今の会話は貴重だと言えよう。
湖緒がほとんど同級生と話さないのは、一年生のときのとある事件があったからだ。




