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「こんな世界、」  作者: 蒼城 春
第二章 14歳―2016年
10/10

湖緒 [1]



「あなたは、全てを手に入れられる。ただ、一度には手に入れられないだけ。───オプラ・ウィンフリー」


 本当かなぁ。


 湖緒は、手元のハードカバー本に印刷された文字たちをじっと見つめた。

 世界の偉人の名言集。これを借りようと思った理由は特にない。いや、ないということはなかった。


 なにか一つでも、己のどこかを把捉できる台詞が欲しかった。

 己で生み出した言葉じゃなくて、会ったこともない偉人が、人生の経験から語る言葉で、この世界にしっくりとしたかった。


 ───なんて、脳内で格好をつける。

 中学二年生だからちょうど厨二病みたいだな、とちょっと恥ずかしくなる。


 笑える、なんて思っていながらも、実際にはくすりともしない。それが、中学二年生、澄川(すみかわ)湖緒である。


 全てを手に入れられる、かぁ。

 僕の手からは、血の繋がった家族と、素直な心が零れ落ちていったというのに。


 ───やめよう。


 なにを思考しても厨二病っぽくなってしまう、と判断した湖緒は、本をぱたりと閉じた。それに、己で己の古傷を刺すのは、ただつらいだけだ。


 次の授業は国語。もう準備もしてあるので、授業が始まるまで待つだけだ。


「·······──え、蒼唯って料理すんの好きなの!?」


 ふいに、斜め後ろからそんな声が聞こえてきた。声が大きく、どうしても聞こえてしまい、ちょっと居た堪れない気持ちになる。


 湖緒は、わいわいと談笑するグループをちらりと見やった。


 いつも明るく、笑いの絶えない四人グループだ。

 そして、その中心となる人物が、いま名前が出た(こおり)(やま)蒼唯だ。


「そうだよー。わたし、お弁当は自分で作ってるんだー」

「すごぉ!俺、母ちゃんに作ってもらってるわ〜。これが女子力ってやつか······」

「そういうのを得たいわけではないけどね?」


 二人はぽんぽんと軽いテンポで話している。

 あんなに軽やかに会話できるなんて、と湖緒は密かに衝撃を受けた。


 郡山と、もう一人の彼――北野(きたの)は仲が良い。北野はとても運動神経が良くて、女子からかなりモテている。

 が、北野と親しい郡山は、女子から疎まれてはいないようだ。少なくとも、湖緒は郡山の陰口を聞いたことがなかった。


 それはひとえに、彼女の人格からだろう。


 明るく快活で、いつでも誰にでも優しく接する。

 成績も悪くなく、教員からの信頼も厚い印象だ。

 運動はとてつもなく苦手で、ドジを踏むことも多いようだが、その欠点すら親しみやすさを生んでいる。


 ほとんど関わったことはないものの、湖緒は郡山に好印象を抱いている。



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