依頼に向けて 7
オリチェの語尾が強いものになった。アナリズは一度ゆっくり瞬きをしてから話し続けた。
「ここからはルーチェさんに対してです。ルーチェさん。リナシッタさんの手がかりが見つかった時のことですが、僕が先行して追う、というのはどうでしょうか? 手がかりが違っていたとしても、ルーチェさんの護衛の仕事には支障をきたしません」
アナリズがルーチェへと視線を向けながら、ゆっくりと提案してきた。ルーチェはコップの中の水を飲み干し、口を開く。
「……私にはそれほど損はない、ということ? ただ、それだとアナリズの方の手がかりが見つかった時は動けないことになる……それでいい?」
「…………仕方ない、と思います。そうしないと誰も動くことができなくなります」
そこで言葉を切ったアナリズがオリチェの方へと身体ごと向けた。左目の横には小さな皺が走っていた。
「なにより、オリチェさんにとっては一番楽しくない結果になると思います」
「…………それしかない?」
低い声でオリチェが尋ねた。アナリズは小さく頷いた。
それを見たオリチェが鼻から息を吐き出した。
「わかったわ。それならマスターも納得してくれるんでしょ?」
「そうねぇ。そこが譲歩なんだとしたらぁん、それしかないわよねぇん。列車の部屋代って同じなのかしらぁん?」
マスターが通信端末を片手でいじりだした。もう片方の手は自分のグラスをグルグルと回していた。中の琥珀の液体が溢れることなくグラスの中で回り続けていた。
「マスター? どうしてそんなこと気にするんですか?」
「なんでって、オリチェちゃぁん。わたしがルーチェちゃぁんとアナリズちゃんに依頼するんだからぁ、必要経費は出さないとねぇん。追加があるようだったらぁそれも教えてもらわないといけないしねぇ」
当然でしょう、と付け加えながら言ったポラーレ。オリチェはそれを聞いて、目を見開いた。同時に顔がどんどん紅潮していった。
「ま、マスター! それだったら、列車代とかホテル代はオリチェと同じ額にしてください! マスターに申し訳ないです!」
「別にオリチェちゃぁんからもらうつもりはないわよぉん。あくまでぇ、わたしが出すんだからぁん」
「どうしてですか? マスター?」
再び、ルーチェとポラーレの間に入り込んで、カウンターに両手をついたオリチェ。オリチェの正面にはマスターがいた。
「だってぇ、オリチェちゃぁんの護衛を頼んだのわぁ、わたしなんだしぃ。必要経費としてぇ、考えるのが普通じゃなぁい?」
マスターは通信端末から視線を外さず、左手に持ったグラスを口元に運んで一口含んだ。空になったグラスを手元を見ずに、カウンターの内側に置いた。これまた見ずに酒瓶を取り出して、片手で口を開けた。そのままグラスに琥珀色の液体を注いで酒瓶をしまった。
「で、でも——」
「気にしなくてぇ、いいのよぉん。わたしがしたいだけなんだからぁん。……ちょぉっと、割増出るくらいみたいねぇん。これぐらい問題ないわねぇん」




