依頼に向けて 6
ルーチェからオリチェが離れていったのか、空気がわずかに冷えた。視線をあげると、オリチェは立ち上がって、ポラーレを見下ろしていた。そして、彼女の左手はアナリズをはっきりと指差していた。
ポラーレはカウンターの上のカップを持ったまま、肩越しにオリチェを見ていた。目尻に皺がより、口角が上がった表情をしていた。アナリズの方は身体をオリチェの方に向けて、目を見開いていた。
「もともと、一人で行くつもりだったんです。この間の事件もあったから、マスターも心配してくれて、ルーチェさんに頼んでみるって言ってくれましたけど、そんな何かあったらこの人と二人だけっていうのはやっぱり嫌なんで」
オリチェの声は固く、いつもの明るさよりも冷たく聞こえた。ポラーレの方を見てはいたが、アナリズの方を見ようとしなかった。
「オリチェ——」
「マスター。ルーチェさんが難しいのなら、オリチェ一人で行きます。大丈夫です」
マスターが話し出すよりも早く、オリチェが告げた。同時にアナリズへと向けていた手を下げた。流れるようにルーチェの方に身体を向けたオリチェ。そして、深々と頭を下げた。
「ごめんなさいルーチェさん。オリチェ。アナリズと一緒はダメなんです」
「…………」
ルーチェは口を開くことなく、じっとオリチェを見ている。横目でアナリズの方を見る。
アナリズの左目が、頭を下げたままでいたオリチェの姿をじっと捉えていた。
ルーチェの視界の端で、小さく息を漏らしていたマスターの姿があった。
「オリチェちゃぁん。アナリズちゃんのことぉ、イヤなのはわかるんだけどねぇん。今、結構物騒なのよねぇん」
「わかってます」
マスターの言葉を受けて、オリチェが顔をあげて告げた。
「なので、オリチェの責任で行ってきます。誰にも迷惑はかけません!」
「ダメよ。オリチェちゃぁん」
低い声がルーチェの耳に届いた。いつものマスターの呼び方だったが、声は低く、硬いものだった。マスターの顔が柔らかなものではなく、眉根を寄せたものへと変わっていた。マスターの視線はオリチェを射抜いていた。
カウンター周りだけ、静寂が訪れた。誰も口を開くことはなかった。マスターとオリチェが、じっと互いを見ていた。
「あ、あの……一つ、提案があるんですけど……」
静寂の中、ゆっくりと言葉が入り込んできた。声のしたほうを見ると、それはアナリズが発していた。
「あなたが何を提案しようと、オリチェは——」
「まぁまぁ。アナリズさんも考えてのことです。聞くだけきくのは悪いことではないと思います」
オリチェの言葉を今度はポラーレがかぶせて抑えた。オリチェがポラーレを一度、にらみつけてアナリズの方を見た。
「さっさと言って」
「ま、まずはオリチェさん。あなたを一人でプリーフケートに行かせるのは、ここにいる誰もが反対ということをご理解ください。その上で僕が同行することがイヤだということなんですが……先ほどの話があるので、ルーチェさんと僕が行かないと、マスターさんもポラーレさんも納得されません」
「二人の納得なんていらない。オリチェ一人で行くから」
「それだと最悪二人とも行かせてくれないと思います。なので、僕は車両を完全に分け、距離を開けて同行するようにします。必要があれば、ルーチェさんの指示で動きます。あと……」
「まだ何かあるの!?」




