依頼に向けて 4
ポラーレがカップを置いてからマスターの方を向いて口を開いた。
「そうですね。ちょうど国境沿いになりますね。テレノフェテルはコメチャイル国。プリーフケートはポリタズ国側ですが」
「よねぇん」
ゆっくりと一言だけ発して、マスターはルーチェを見た。その視線にルーチェは身体を少しだけ後ろに下げた。イスの足がわずかに動くが、ルーチェは何とかバランスを取って倒れるのを防ぐ。ルーチェがマスターの顔を見る。瞬間、マスターの表情が変化し、右の口角だけがにゅっと上がった。ルーチェの背中に冷たいものが流れていく。
「…………な、何?」
かろうじて声を絞り出すルーチェ。マスターが前のめりになって、ルーチェの顔をのぞき込んできた。んふふ、と言いながらマスターが話し始めた。
「ちょぉっと、お仕事、お願いできないかなぁって、ねぇ」
「な、何を……ですか?」
ルーチェが詰まりながらたずねる。それを聞いたマスターの左側の口角も上がっていった。その表情に再びルーチェが身を引いた拍子にイスの足がわずかに浮き、音も立てずに床に置かれた。
「かんたんな、お、し、ご、とぉ。プリーフケートまでぇ、行ってきてぇ、くれないぃ?」
「はっ?」
ルーチェが間の抜けた声をあげる。それは表情にもはっきりと表れ、片方の眉があがり、もう片方の眉が下がっていた。下がった眉の方へとほんの少し首を傾げていた。
「なんで?」
疑問をそのまま口にした。
「それはねぇん……」
いいながら、マスターは壁にかけられたディスプレイへと手を向けた。それに促されるようにして、身体ごと顔をディスプレイへ向けたルーチェとポラーレ、そして、アナリズ。そこには五人の男性が映っていた。同じようなデザインの衣装だったが、左腕の二の腕の部分だけはそれぞれ異なる色になっていた。その五人が踊りながら歌っていた。時には同じような動き、また、時にはそれぞれ別の個性を持たせた動きを見せていた。
そのディスプレイの真下にはいつの間にかオリチェが立っていた。後ろ姿の彼女は小さく揺れながら、ディスプレイが見える角度に頭を向けていた。
ルーチェがディスプレイからマスターへと顔を向けなおすと、すぐにマスターが手を振った。
「ディスプレイをみなさぁい」
促され視線を戻すと、五人の姿の代わりに文字が映されていた。
ライブまであと四日。
その言葉が映し出された時、再び五人の姿がシルエットからゆっくりと浮かび上がってきた。
「ま、まさか、マスター……」
「さすがルーチェちゃぁん。察しがよくて助かるわぁん」
マスターは両手を組んで顔の横に持ってきていた。そのまま少し首を傾げていた。
「ご・え・い。お願いねぇん」




