依頼に向けて 2
「とりあえず、私は座る」
ルーチェがオリチェとマスターの横を通り抜ける。その時、二人の肩を軽く叩いていく。
二人は叩かれたところを自分の手で触れていた。
ルーチェは店の中に入り、アナリズとポラーレを横目に横を通り過ぎる。そして、そのままカウンターへと行き、一番隅の席に腰を下ろす。そこは店内のどの照明よりも少しだけ明るいところだった。腰を落ち着けたところで、ふぅ、と小さく息を吐き出す。
「マスター」
ルーチェが声をかける。マスターはオリチェの手を離し、カウンターの内側を移動しルーチェの正面に立った。そのまま、何も言わずどこからか取り出したデキャンタの水をコップに注ぎだした。八割ほど水に満たされたコップをルーチェの前に置いたマスター。その下にはコースターが置かれていた。
「それでぇ? どうしたのぉ?」
マスターがカウンター越しにたずねてきた。ルーチェは置かれたコップを手に取り、一口含んでからゆっくり飲み下す。
「ポラーレから仕事の依頼が入った」
ルーチェがそう言った時、アナリズとポラーレがカウンターに並んで座った。ポラーレの方を見たマスター。視線が合ったと同時に、ポラーレが黙って首を縦に振った。マスターがルーチェへと視線を戻す。両手の方を見ないまま、何かの準備をしていた。
「大丈夫なのぉん? 動けるようになったのだってさっきなんでしょぉ?」
マスターの手にはいつの間にかグラスがあった。たずねたマスターはそれを口につけた。グラスの中身はルーチェのものとは違って、琥珀のような色がついた液体だった。それをまるで水のようにグビリと飲んだマスター。
「まぁ、ルーチェちゃぁんのことだからぁ、何とかぁ、するんでしょぉけどねぇん」
「…………」
「なぁにぃ? 黙りこくっちゃってぇん? どうしたのぉん?」
「何かあった? わざわざオリチェに呼びに来させたのは?」
ルーチェはコップを口元に持っていったまま、マスターへと声をかけた。マスターはグラスを置いて、ルーチェの方へと身を乗り出した。
「ポラーレちゃんが仕事頼んじゃったからぁ、悪いなぁって思ってはいるんだけどねぇん。ちょっとぉ、わたしからもぉお願い事があってねぇん」
ルーチェは目を細めてマスターを見る。
「……少なくとも、病み上がりなんだけど?」
「知ってるわよぉん。だからぁ、どうしたものかなぁって。ねぇポラーレちゃん」




