新たな依頼 5
「『二面の聖女』はテレノフェテルにあります。そこにある古本屋が昔からの馴染みでして。そこの店主が手に入れたと連絡をくれました」
「テレノフェテル……コビナレ川の上流、ポリタズとの国境沿いの街か」
ポラーレの説明にルーチェが右手をあごに当てながら続けて話す。視線はぼんやりと足元をさまよわせていた。
「その通りです。そこにいるリブロ・べチオという人物が持っています」
そう言ってから通信端末を取り出し、操作を始めたポラーレ。
「彼はなかなか多忙でして。受け取りに来る時間を何日か提案してきています。もし、難しいようであれば、別日を再設定する形になると言っています」
「そ、それって……ついでで対応するような依頼じゃない気が……」
「リブロとは古い付き合いなので多少のことであれば大丈夫です」
アナリズの疑問に軽い口調で答えたポラーレ。目を見開いたアナリズはルーチェの方へと視線を向けた。ルーチェはその視線を受け止めるが、小さく首を横に振るにとどめる。
「それで? その受け取りというのはいったいいつ?」
「それについては多少時間があります。といっても三日後ですが……」
「い、いくら何でも!」
アナリズが声を荒げた。同時に顔をルーチェに向け、一歩近づいた。ルーチェはそれを手を向けて制する。アナリズの足が止まった。
「……ポラーレ。つまり、私にそれまでに体調を戻せ、ということ?」
「可能であれば……ですが。さきほどもお伝えしましたが、多少の日程調整は可能です。ただ、できれば今の予定通りにしていただければ、こちらとしても嬉しいのですが」
通信端末から目を離して、ルーチェの方を見てきたポラーレ。そこにはわずかに顔が緩んでいるだけで、メガネの向こうの目は真剣そのものだった。ルーチェは黙ってその目を見る。それから、小さく、しかし、わかるようにため息をつく。
「相変わらず、無茶なことばかりをいう」
「申し訳ありません。ルーチェさん」
「日程はそのままにして。それまでに何とか動けるようにする」
「ありがとうございます」
ポラーレが深々と頭を下げた。
「だ、大丈夫なんですか? 昨日まで起きられなくて、今だって座っているのがやっとじゃないんですか?」
アナリズがルーチェを見下ろしながらたずねてきた。ルーチェはあげていた手を下げながら答える。
「大丈夫かといわれたら、動けていない以上何も言えない。でも、あと三日ある。移動も考えれば二日。何とかするしかないし、動いていく」
そう言ってふらりと立ち上がるルーチェ。足元がおぼつかず、バランスを崩しかけるが、何とか立て続けている。目の前に立つアナリズと目を合わせている。
「ふらついてるじゃないですか?」
アナリズが真正面から告げた。
「そのようですね。ルーチェさん。リブロの日程を調整しますか? 無理をさせているのはこちらですが、難しければ……」
ポラーレの声も少し低くなった。眉根が寄せられ、話してから小さな吐息が漏れていた。
ルーチェは首を横に振る。
同時にドアを叩く音がした。




